
この記事が含む Q&A
- 自閉症を持つ成人の親の精神的負担は、成人後も減らずむしろ増えることがあるのですか?
- 研究では母親の抑うつ・身体化の傾向が高く、介護負担が継続・増大する傾向が示されています。
- 男性の父親は主要な介護者になった場合、母親と同程度の負担を感じることがあるのですか?
- 介護者になるケースは少ないものの、父親が主要介護者になると母親と同程度の心理的負担を抱える可能性があるとされています。
- 介護者の支援としてどのような取り組みが効果的と示唆されていますか?
- 本人の自立度と社会的機能を高める訓練と、親の就労支援・柔軟な働き方を整える制度が、家族全体の心の健康に寄与すると指摘されています。
自閉症は子ども時代から一生にわたって続く発達の特性であり、家族、とくに親の生活に大きな影響を与え続けます。
子どもが成長して大人になったあとも、支援の必要はなくなるわけではありません。
そのため、親が年齢を重ねたときにどのような心の負担を抱えているのかを理解することは、本人だけでなく家族全体を支えるうえで重要です。
しかし、これまでの研究は子ども時代の支援に焦点を当てるものが多く、成人期の自閉症のある人を育てている親の心の健康についてはあまり調べられてきませんでした。
今回、トルコのコジャエリ大学医学部児童青年精神科とギョルジュク・ネジャティ・チェリク国立病院の研究チームは、自閉症のある成人を持つ親の精神的な症状を詳しく調査しました。
研究では、18歳から39歳までの自閉症のある人とその親77組が参加しました。
診断はいずれもDSMに基づいて行われ、詳細な臨床面接と複数の評価尺度が用いられました。
親の精神的な症状は「ブリーフ症状目録」で測定され、不安、抑うつ、否定的自己概念、身体化、敵意といった面が調べられました。また、本人の自閉症の重症度、問題行動、日常生活での自立度、社会的機能などが別の尺度で評価されました。
結果として、どの年齢段階でも主要な介護者は母親であり、子どもが成長しても母親の負担は減るどころか増していました。
母親の就労率は父親に比べて有意に低く、多くが専業主婦として介護を担っていました。
このことは、職業生活や社会参加の機会が制限される要因となり、心の健康にも影響を与えていました。
症状の面では、母親は抑うつと身体化の得点が父親よりも有意に高く、強い心理的負担を抱えていることが示されました。
父親は敵意の得点がやや高い傾向が見られましたが、母親に比べて全体的に症状は低い水準でした。
また、本人に知的障害や医学的な併存症がある場合、母親の身体化の症状が強く出やすく、父親では抑うつや否定的自己概念が強くなることが確認されました。
さらに、本人が読み書きできない、あるいは排泄や身の回りの自立ができない場合、父親の否定的自己概念が有意に高くなるという結果も得られました。
本人の自立度や社会的機能の高さは、親の精神的な負担を軽減する要因となっていました。
たとえば、本人の社会的な活動や余暇活動が増えると、母親の不安や抑うつ、身体化が下がり、父親の否定的自己概念も軽くなることがわかりました。
逆に、本人のいらいらや多動、社会的引きこもりといった行動の問題は、親の精神的症状を強く予測する因子となっていました。
母親の不安は本人のいらいらと関連し、抑うつは多動と関連していました。
父親では、いらいらが不安や抑うつ、身体化、敵意の高さを予測し、否定的自己概念は社会的引きこもりとも関係していました。
この研究は、成人期に達した自閉症のある人を支える親がどのような困難を抱えているのかを文化的背景の中で明らかにした数少ない研究のひとつです。
トルコにおいても、成人期の自閉症に対する公的支援や地域のサポートはまだ十分ではなく、その結果、母親を中心とした家族が長期にわたり大きな介護負担を抱えていました。
母親が仕事を辞めて介護に専念することは、経済的な困難や孤立を招き、さらに心の健康を悪化させる要因となります。
研究チームは、母親が就労を続けられるような柔軟な働き方の導入や支援制度が必要であると指摘しています。
また、父親の役割にも注目すべき点がありました。
父親が主要な介護者になるケースは少ないものの、もし介護を担う場合には母親と同程度の精神的負担を抱える可能性があることが示されています。
つまり、性別にかかわらず、主要な介護者となる親が強い心理的負担を受けやすいということです。
このことから、両親がバランスよく介護に関わることが、家族全体の精神的健康にとって望ましいと考えられます。
研究は横断的な設計であり、対象者は比較的若い成人が多かったため、高齢期に至ったケースを含めた長期的な調査が今後必要です。
それでも、今回の結果は、成人期の自閉症のある人を育てる親に特有の負担を浮き彫りにし、支援の方向性を考える上で大きな意義を持っています。
とくに、本人の行動上の困難が親の心の健康に直結していることは、支援プログラムにおいて本人と親の両方を同時にケアする必要性を示しています。
自閉症のある成人が日常生活でより自立し、社会参加できるようになることは、本人の生活の質を高めるだけでなく、親の心の健康を守ることにもつながります。
そのためには、社会的スキルや生活スキルを高めるトレーニングを受けられる場、そしてそれを実際の生活の中で試せる場が必要です。
今回の研究は、成人期の自閉症とその親の精神的な健康を同時に見つめる重要な一歩でした。
親のメンタルヘルスを定期的に評価し、心理的な支援を提供することは、本人の経過や家族全体の幸福にも直接結びつきます。
親の支援を強化することが、最終的には自閉症のある成人本人の生活をよりよいものにするという視点が強調されました。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-00124-0)(画像:たーとるうぃず)
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(チャーリー)