この記事が含む Q&A
- 自閉症やADHDの若者が感情の負担を減らすのに特に役立つ対応は何ですか?
- 怒鳴らさない、急かさない、事情を聴くなどのやさしい関わりと、見通しのある環境・本人が選べる自由が有効です。
- 研究の新しい視点は何を指摘していますか?
- 感情の困難は本人の欠陥ではなく、周囲の配慮不足や誤解が引き起こす環境要因が大きく影響するとしています。
- つらい時の具体的な対処法にはどんなものがありますか?
- 静かな場所での一人の時間、水分を取る、音楽を聴く、散歩や動画で気を紛らす、泣いて感情を出す、小さな達成を感じられる活動を選び、本人が選択できることが重要です。
自閉症やADHDのある思春期の若者たちは、どのように感情のゆれと向き合っているのでしょうか。
周囲からは「すぐ怒る」「気持ちの切り替えが苦手」と評価されやすい彼らですが、これまでの研究は大人の視点が中心でした。
とくに「こうあるべき」という神経学的に平均的な感情のルールが前提になりがちで、本人たち自身がどのように感じ、どう工夫しているのかは十分に聴かれてきませんでした。
イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)とキングス・カレッジ・ロンドンの研究チームは、この視点を大きく変える研究を行いました。
自閉症またはADHD(あるいは両方)と診断された11〜15歳の若者57名に、つらい出来事のとき何が起き、どう対処しているかを丁寧に聴きました。
参加した若者たちは、自身の経験を言葉だけでなく「作品」で表現しました。
レゴや絵、写真、詩など。研究者と若者が一緒に研究を形づくる方法をとり、本人たちの視点を最大限に尊重した研究です。
若者たちは、学校生活でとくに感情の負担を抱えやすいと話しました。
ふとした注意や誤解、予定の急な変更、にぎやかな環境。他の人にはささいでも、彼らには大きなストレスになり得ます。
では、その負担を減らすには、何が役に立つのでしょうか。

まず最も大きかったのは「ただ、やさしくしてくれること」。
怒鳴らないこと。急かさないこと。ミスを責める前に事情を聴いてくれること。
それだけで、爆発しそうな気持ちが落ち着きやすくなると語られました。
自分を受け入れてくれる人がそばにいること。
「奇妙」と切り捨てるのではなく、ありのままの姿のままで友だちの輪にいられること。
自閉症の若者は、同じ特性を持つ仲間や理解のある大人との出会いを「力になる」と語りました。
一方、ADHDの若者は「自分に選ばせてほしい」「信じて任せてほしい」という思いが強く、行動を決める自由や、やり直すチャンスがあることが安心につながっていました。
叱責や命令は、逆に混乱と不安を強めてしまいます。
また、多くの若者が「先の見通し」を強く求めていました。
急な変更は、頭の中にある世界を一瞬で崩します。
だから、何が起きるのか一言伝えてくれるだけで、心の負担は大きく減るのです。

つらいときの対処法についても、さまざまな工夫が語られました。
静かな場所で一人になること。
水を飲む、音楽を聴く、散歩に出る。
好きな動画で気持ちをそらす。
泣いて、声に出して気持ちを放出する。
小さな作品や運動で「できた」と感じること。
それらは「わがまま」ではなく、自分を守るための大切な方法——本人たちはきちんと理解していました。
何より重要なのは、「本人が選べること」。
どんな方法で気持ちを整えるか、自分で決められること。
それが、感情を乗りこなす力につながっていました。
この研究は、これまで主流だった「神経発達症の感情の課題=本人の欠陥」という考え方に疑問を投げかけます。
彼らの困難の多くは、
「環境が配慮されていないこと」
「誤解や否定にさらされること」
によって生じていました。
本人が劣っているのではありません。
周りの態度が、感情調整を難しくしていたのです。

研究チームは伝えます。
- やさしい関わり
- 見通しのある環境
- 選択肢と自分で決める力
- 感情を出していい権利
- 強みを見つけて伸ばすこと
これらが整うとき、若者たちは自分の力で前に進んでいける、と。
自閉症やADHDのある子どもたちは、誰よりも日々がんばっています。
その力を発揮できるかどうかは、周りの「関わり方」しだいです。
感情を整える力は、「なおすべき問題」ではありません。
彼らが安心して自分らしく過ごせる世界を一緒につくること——
それこそが、支援の中心にあるべきものではないでしょうか。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-21208-x)(画像:たーとるうぃず)
多くの人にとって、再確認、理解になる結果ではないかと思います。
どうぞよろしくお願いします。
(チャーリー)




























