この記事が含む Q&A
- 自閉症のある人とひきこもりの関係はどのように説明されていますか?
- 自閉症特性がひきこもり傾向と独立して関係しており、対人コミュニケーションの難しさや独特な興味・行動が影響して生じやすいとされています。
- 孤独と一人でいることへの肯定感の「二重性」とは何ですか?
- 孤独を感じつつも一人でいることを安心・落ち着ける時間として肯定的に捉える状態が同時に存在します。
- この研究の限界にはどんな点が指摘されていますか?
- 調査が一時点の自己回答であり、時間経過の変化を追えず、家族など第三者の視点が含まれていない点が挙げられます。
「どうして、家から出られなくなってしまったのだろう」
「この子は、人と関わることが嫌いなのだろうか」
自閉症のある人や、その家族が、ふと立ち止まってしまう瞬間があります。
学校や仕事に行けなくなり、人との関わりが減り、部屋で過ごす時間が増えていく。
周囲からは「ひきこもり」と呼ばれるその状態が、本人にとって何を意味しているのかは、外からはなかなか見えてきません。
オランダのマーストリヒト大学を中心とする研究チームによって行われた、今回紹介する研究は、自閉症とひきこもりの関係を、「本人の気持ち」や「弱さ」だけで説明しようとせず、その背景にある構造を、静かに明らかにしようとしています。
この研究は、自閉症とひきこもりの関係を、「不安」や「抑うつ」などの他の精神的な問題とは切り分けたうえで、丁寧に検討しようとした点に大きな特徴があります。
ひきこもりとは、一般に半年以上にわたって家庭や自室に閉じこもり、学校や仕事などの社会的な活動から離れた状態を指します。
かつては日本特有の現象と考えられていましたが、現在ではヨーロッパを含む多くの国で、同様の深刻な社会的孤立が確認されています。
また、完全に外出しない状態だけでなく、「ほとんど人と関わらないが、時々は外に出る」といった、程度の異なる状態が連続的に存在することもわかってきています。
研究チームは、12歳から59歳までの323人を対象に調査を行いました。
そのうち64人は自閉症の診断を受けている人で、残りの259人は自閉症の診断を受けていない一般の参加者でした。
参加者は質問紙に回答し、ひきこもりの傾向、自閉症特性の強さ、ひきこもりに関連しやすい心理的な問題、そして「孤独感」や「一人でいることへの考え方」について評価されました。

その結果、まず明らかになったのは、自閉症のある人たちが、ひきこもりの症状を示す割合が非常に高いという点でした。
ひきこもり傾向を測る尺度で、臨床的に問題となる水準を超えていた人の割合は、自閉症のある人では半数を超えていました。
一方、自閉症のない人では、その割合はごく一部にとどまっていました。
統計的に詳しく分析すると、自閉症のある人は、自閉症のない人に比べて、ひきこもりの基準を超える可能性が約10倍高いことが示されました。
逆に言えば、重いひきこもりの状態にある人の中には、自閉症の診断を受けている人が非常に多く含まれていた、ということでもあります。
では、この関係は「不安」や「抑うつ」といった、他の精神的な問題が原因なのでしょうか。
研究チームはこの点を重視し、不安傾向、対人恐怖、被害的な考え、無気力、抑うつ気分といった要因を統計的に調整したうえで分析を行いました。
その結果、それらの要因を考慮してもなお、自閉症特性そのものが、ひきこもりの強さと独立して関係していることが示されました。
つまり、「不安が強いからひきこもる」「抑うつがあるから外に出られない」という説明だけでは不十分であり、自閉症特性そのものが、ひきこもりに結びつきやすい側面を持っている可能性が示されたのです。

自閉症特性の中でも、特に関係が強かったのは、「対人コミュニケーションの難しさ」と「行動や興味の独特さ」でした。
人の気持ちを読み取ることや、暗黙のルールに合わせることが難しいと、社会的な場面は大きな負担になります。
その結果、失敗や緊張を避けるために、少しずつ人との関わりを減らしていく、という流れが生まれやすくなると考えられます。
一方で、この研究がとても重要なのは、「孤独」と「肯定的に一人でいること」が同時に存在している点を丁寧に扱っているところです。
自閉症のある人も、ひきこもりの傾向が強い人も、どちらも強い孤独感を感じていることが確認されました。
とくに、友人や同世代との関係における孤独感が強い傾向がありました。

それと同時に、彼らは「一人でいること」に対して、比較的肯定的な気持ちを持っていることも示されました。
一人でいることは、必ずしも「つらい状態」ではなく、安心できる、落ち着ける、余計な刺激から守られる時間でもあるのです。
この結果は、一見すると矛盾しているように見えるかもしれません。
しかし、「孤独なのに、一人が好き」という状態は、単純なわがままでも、社会性の欠如でもありません。
むしろ、社会的な関わりが過剰な負担になる中で、自分を守るために選ばれた、意味のある状態だと考えることができます。
研究チームは、このような状態を「孤独と孤立の二重性」として捉えることの重要性を示唆しています。
外から見ると「閉じこもっている」「人を避けている」ように見えても、その内側には「つながりたい気持ち」と「一人でいたい必要」が同時に存在しているのです。

この研究にはいくつかの限界もあります。
調査は一時点で行われたものであり、時間の経過による変化までは追えていません。
また、すべて自己回答による評価であり、家族など第三者の視点は含まれていません。
それでも、大人数のデータを用い、自閉症とひきこもりの関係を多角的に検討した点で、非常に重要な知見を提供しています。
この研究が示しているのは、自閉症のある人がひきこもりやすい、という単純な話ではありません。
社会の側が用意している「当たり前の関わり方」や「普通のペース」が、ある人にとっては過剰な負担になっている可能性を示しています。
自閉症とひきこもりは、「本人の性格」や「努力不足」の問題ではなく、環境との相互作用の中で生まれる状態です。
孤独を感じながらも、一人でいることを選ばざるを得ない人たちの心のあり方を、どう理解し、どう支えていくのか。
この研究は、その問いに向き合うための、重要な手がかりとなります。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07180-5)(画像:たーとるうぃず)
「自閉症」と「ひきこもり」。
関連して考えたことはありませんでしたが、考えれば、その関係は想像できます。
正しく理解され、苦しみが少しでも軽減する気付き、支援につながることを心から願います。
(チャーリー)





























