この記事が含む Q&A
- 親のADHD傾向と子どものADHD傾向には関係があるのですか?
- 親のADHD傾向は子どものADHD傾向と関連し、両方高い場合に影響が重なる可能性が示唆されますが、原因を特定して責めるものではありません。
- 子どもの退屈しやすさと親の関わり方にはどんな関係がありますか?
- 子どもの退屈感はADHD傾向と関連し、母親の統制が高いと退屈感が低くなる傾向があり、父親の応答性と子どものADHD傾向の組み合わせで退屈感が高まりやすくなる場合もあります。
- 育て方をどう考えればいいですか?
- 親の特性・子どもの特性・関わり方は切り離して考えられず、変えられる点を変える一方で、変えられないことを無理に変えようとしないのが大切です。
子どもが落ち着かない様子を見せたり、すぐに退屈そうな顔をしたりすると、親はどうしても不安になります。
「育て方が悪かったのではないか」「もっと関わり方を変えたほうがいいのではないか」と、自分を責めてしまう人も少なくありません。
一方で、ADHDという言葉が広く知られるようになり、「それは特性なのかもしれない」と考えられる場面も増えてきました。
ただ、その特性が家庭の中でどのように育ち、親の側の特性とどう重なり合っているのかについては、まだ分かっていないことが多くあります。
今回ご紹介する研究は、そうした疑問に向き合ったものです。
研究を行ったのは、東京大学大学院薬学系研究科と、お茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所・心理学分野の研究チームです。
この研究では、小学1年生から3年生の子どもを持つ家庭を対象に、父親と母親の両方から詳しい質問紙調査を行いました。
親自身のADHD傾向や退屈しやすさ、子育ての関わり方、そして子どものADHD傾向や日常の退屈感、学業の様子について、できるだけ丁寧にデータを集めています。
研究チームが大切にしたのは、「ADHDかどうか」という線引きではありませんでした。
ADHDも退屈しやすさも、「ある・ない」で分けられるものではなく、人それぞれに強さの違いがある特性として捉えています。
この視点は、日常生活の実感に近い考え方だといえます。

分析の結果、まずはっきりしたのは、親のADHD傾向と子どものADHD傾向が強く結びついているという点でした。
母親だけでなく、父親のADHD傾向も、子どものADHD傾向と関連していました。
さらに、父親と母親の両方にADHD傾向が高い場合、その影響が重なって現れる可能性も示されました。
ただし、ここで重要なのは、「だから親のせいだ」という話ではないことです。
研究チームも、ADHD傾向は生まれ持った要素の影響が大きいことを前提にしています。
この結果は、親の努力や愛情の量を評価するものではありません。
次に注目されたのが、「退屈しやすさ」です。
子どもの退屈しやすさは、子ども自身のADHD傾向と強く関連していました。
ADHD傾向が高い子どもほど、日常の中で退屈を感じやすい傾向があったのです。
また、母親自身の退屈しやすさも、子どもの退屈感と関係していました。
ここで研究チームは、退屈しやすさを「わがまま」や「怠け」として扱っていません。
退屈は、刺激や見通し、環境との関係の中で自然に生まれる感情であり、子ども自身の工夫だけでどうにかできるものではない、と位置づけられています。
さらに興味深いのは、子育ての関わり方との関係です。
この研究では、親の関わりを「応答性」と「統制」という二つの側面から見ています。
応答性は、子どもの気持ちに気づき、寄り添い、よく反応する姿勢を指します。統制は、ルールや枠組みを示し、行動を導く関わり方です。
分析の結果、子どものADHD傾向が特に高い場合に限って、親の関わり方との関連がはっきり現れました。
ADHD傾向が非常に高い子どもたちでは、母親の応答性が高いほど、子どものADHD傾向も高く評価される傾向が見られたのです。
ただし、研究チームはこの結果を「関わりすぎが悪い」とは解釈していません。
子どもの特性が強いからこそ、親がより注意深く、手厚く関わっている可能性も考えられるからです。
つまり、どちらが原因でどちらが結果かは、一方向ではないかもしれない、と慎重に述べています。

退屈しやすさについても、子育ての関わりは影響していました。
母親の統制が高い場合、子どもの退屈感は低くなる傾向が見られました。
適度な枠組みや見通しがあることで、子どもが迷いや刺激不足に陥りにくくなる可能性が示されています。
一方で、父親の応答性については、子どものADHD傾向と組み合わさることで、退屈感が高まりやすくなるという結果が出ました。
ここでも研究チームは、善悪の判断ではなく、「特性と関係性の組み合わせ」として結果を捉えています。
学業成績との関係を見ると、子どもの時点では、退屈しやすさよりもADHD傾向のほうが強く関連していました。
しかし親の世代になると、学歴や収入と結びついていたのはADHD傾向ではなく、退屈しやすさでした。
この違いは、退屈しやすさが長い時間をかけて生活全体に影響していく特性である可能性を示しています。
研究チームは、この研究を通して、「親の特性」「子どもの特性」「関わり方」を切り離して考えることの難しさを示しています。
どれか一つが正解で、どれかが間違い、という構図ではありません。
子どもの困りごとは、誰かの失敗の結果ではなく、特性と環境が重なり合う中で自然に現れるものかもしれない。
この研究は、そのことを静かに、しかし具体的なデータとともに伝えています。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-30163-6)(画像:たーとるうぃず)
自分に原因があるのではないか。
そう考えたとき、こうした研究は冷静さを取り戻してくれるものでしょう。
変えられることは変えてみてもいい。
しかし、変えられないことを変えようとするのは無駄で苦しいだけなので、やめましょう。
(チャーリー)




























