この記事が含む Q&A
- 自閉症のある子を育てる家庭で、母親が「周囲の目を強く意識する感覚」を抱くことは、家族の話し合いの活発さや日常のコミュニケーション、将来の目標共有にどのように影響するのでしょうか?
- 母親の社会的な不安が強いと、家族内の問題解決や日常の会話が減り、将来の話し合いも進みにくくなる傾向が見られます。
- 学歴や世帯収入、住む地域といった条件は、家族のあり方にどの程度影響していると報告されていますか?
- これらの条件はほとんど関係がなく、むしろ母親の心理的負担が家族のやり取りに強く影響します。
- 子どもへの支援だけでなく、どのような支援が家庭の安定につながると示唆されていますか?
- 母親の心理的負担や孤立感に配慮し、周囲の視線を一人で抱え込まない環境づくりと、気持ちを安心して話せる支援が重要とされています。
自閉症のある子どもを育てる家庭では、子ども本人の特性や支援の問題だけでなく、家族全体の関係や日常のやり取りが、生活のしやすさに大きく関わっています。
家族が困難に直面したとき、どのように話し合い、どのように支え合えるかは、家庭の安定や心の余裕に直結します。
今回紹介する研究は、自閉症のある子どもを育てる母親が感じている「周囲の目」や「社会からどう見られているか」という感覚が、家族の中のコミュニケーションや問題解決のあり方と、どのように関係しているのかを調べたものです。
研究は、ギリシャのウェストアッティカ大学とアテネ国立カポディストリアス大学の研究チームによって行われました。
研究者たちが注目したのは、母親自身の中に生じる「自分は周囲から否定的に見られているのではないか」「親として十分ではないと思われているのではないか」といった感覚です。
これは、誰かに直接言われたわけではなくても、社会の視線や周囲の反応を通して感じ取ってしまう、心理的な重荷のようなものです。
この研究では、ギリシャ全土から集められた517人の母親が調査に参加しました。
いずれも、自閉症と診断された子どもを育てており、診断は専門の医師や発達の専門家によって確認されています。
母親たちは質問紙に回答し、自分自身の感じ方や、家庭の中でのやり取りについて詳しく報告しました。
家庭のあり方については、三つの側面から評価されました。
一つ目は、家族が問題に直面したときに話し合い、協力して対処できているかという「問題解決」。
二つ目は、日常的に気持ちや考えを伝え合えているかという「コミュニケーション」。
三つ目は、家族としての方向性や目標を共有できているかという「目標の共有」です。
一方、母親の心理的な状態については、「他人が自分をどう見ているかを強く意識してしまうか」「周囲から劣っていると思われているように感じるか」「失敗を厳しく見られているのではないかと不安になるか」といった点が詳しく尋ねられました。

分析の結果、明確な傾向が示されました。
母親が「周囲から否定的に見られているのではないか」と感じる気持ちが強いほど、家族の中で問題を話し合って解決する力が弱まり、日常のコミュニケーションも減り、将来に向けた目標を共有しにくくなっていたのです。
とくに、「失敗を他人に厳しく評価されているのではないか」という不安が強い母親ほど、家族全体の問題解決や、将来の目標に関する話し合いがうまくいっていない傾向がはっきりと見られました。
また、「自分は親として劣っているのではないか」と感じやすい母親がいる家庭では、家族のコミュニケーションが弱くなる傾向も確認されました。
興味深いのは、学歴や世帯収入、住んでいる地域といった条件は、こうした家族のあり方とほとんど関係していなかった点です。
経済的に余裕があるかどうかや、都市部に住んでいるかどうかよりも、母親がどのような心理的負担を抱えているかのほうが、家族のやり取りに強く影響していました。

一方で、家族の形は重要な要因でした。
両親が同居している家庭と比べて、両親が別々に暮らしている家庭では、問題解決の力が低い傾向が見られました。
研究者たちは、日常的に協力し合う体制が整いにくいことが、話し合いや調整の難しさにつながっている可能性を指摘しています。
子どもの特性との関係も調べられました。自閉症のある子どもの機能水準が高いと評価されている家庭では、比較的コミュニケーションがうまくいっている傾向がありました。
ただし、これは子どもの特性そのものが家族関係を決めているというよりも、家庭全体が感じている負担や余裕の度合いと関係していると考えられています。
研究者たちは、これらの結果を「家族は一つのシステムとして機能している」という考え方に基づいて説明しています。
家族の中の一人が強い不安や負担を抱えると、その感情は自然と家族全体の雰囲気ややり取りに影響します。
母親が社会の目を強く意識し、自分を責める気持ちを抱えていると、話し合いを避けたり、自分の考えを伝えることを控えたりするようになり、それが家族全体の関係に静かに影を落とす可能性があるのです。
この研究が示しているのは、母親の心理的な負担が、目に見えない形で家庭の機能を弱めていくという現実です。
それは大きな衝突や明確な問題として現れるとは限らず、少しずつ会話が減ったり、協力が難しくなったり、将来について考える余裕が失われたりする形で現れます。

研究者たちは、こうした結果から、支援のあり方についても重要な示唆を述べています。
自閉症のある子どもを支えるためには、子ども本人への支援だけでなく、親が感じている心理的な負担や孤立感に目を向けることが欠かせないとしています。
とくに、「周囲からどう見られているか」を一人で抱え込まなくてよい環境づくりや、安心して気持ちを話せる支援が、家庭全体の安定につながる可能性が示されています。
もちろん、この研究には限界もあります。調査は一時点で行われたものであり、原因と結果の関係を断定することはできません。
また、回答者が母親に限られているため、父親や他の家族の視点が十分に反映されていない可能性もあります。
それでも、500人を超える母親の声をもとに、家族の内側で起きている心理的な影響を丁寧に明らかにした点は、大きな意義があります。
この研究は、自閉症のある子どもを育てる家庭において、「社会の目を意識する気持ち」が、家族の会話や協力のあり方に深く関わっていることを示しました。目に見えにくい感情が、家庭の中の関係を静かに形づくっている。そのことを、データを通して伝えている研究と言えます。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-026-07216-4)(画像:たーとるうぃず)
できる限り、周りには迷惑をかけない。
赤の他人にどう思われようが関係ない、気にしない。
私はうちの子が小さか頃から、そう決めて過ごしてきました。
(チャーリー)





























