この記事が含む Q&A
- ADHDのある若者がSNSを使う主な理由は何ですか?
- 不安を和らげたり安心感を得るため、対面より文字や画面を安心に感じるため、反応やつながりを失う不安を手放しにくいためです。
- SNSの影響は「利用時間」より「理由と内容」が鍵だとされる根拠は何ですか?
- ADHDのある若者は使う意味が異なり、刺激の強い情報への接触頻度が高いなどが心の揺れにつながる一方、使い方次第で孤独感を和らげるなど救いにもなり得ると報告されています。
- どう対応すれば良いですか?
- 責めず背景を理解し、夜に閉じられない理由を尋ねる・寄り添う姿勢を持つことや、支援者は「問題」ではなく背景として SNSを捉えることが大切です。
夜、布団に入っても画面を閉じられないことがあります。
明日が早いとわかっていても、指先だけが勝手に動き続け、気づけば何十分も経っている。
その間、現実の不安や考えごとは一度だけ水面下に沈み、スクロールするたびにほんの少し安心する。
けれど止めたあとには、疲れと焦りが残ることがある。
今回紹介する研究は、まさにその状態を扱っています。
スウェーデンのカロリンスカ研究所など複数の研究機関が、高校生〜大学生の若者を対象に、SNSと心の状態の関係を調べました。
とくに注目されているのは、ADHDのある若者がどのようにSNSを使い、その使い方がどんな形で心に影響するのかという点です。
ADHDのある参加者は100名、比較対象の若者は400名。
両者を同じ条件で比較することで、違いをより正確に見ようとしています。
ここで重要なのは、研究者たちは「SNSを何時間使っていたか」だけを見たわけではないという点です。
それよりも ADHDのある若者は、SNSにどんな役割を求めているのか、そこに焦点を当てました。
この研究では、ADHDの若者のなかに、SNSの利用が自分の生活に影響するほど強く引きつけられる人が一定数いることが示されました。
その割合は、ADHDではない若者と比べて5倍以上にもなっています。

しかし、その一方でSNSの「利用時間自体」にはほとんど差がありませんでした。
つまり、違うのは時間ではなく 理由でした。
ADHDのある若者の多くは、SNSに次のような意味を持たせていました。
- 気持ちのざわつきや失敗の記憶から一時的に離れるため
- 対面の会話よりも、文字や画面の方が安心できるため
- 反応やつながりを失うことが不安で、手放しにくいため
これは怠けではないし、意志の弱さでもありません。
ADHDの人にとって、頭の中のスピード、感情のゆれ、刺激への敏感さはいつも一定ではありません。
その波に飲まれそうなとき、SNSはほんの少し“世界を静かにしてくれる場所”になるのです。
一方で、ADHDのない若者は、SNSを娯楽として使うことが多くありました。
友だちとの会話、情報の収集、動画や写真でのリラックス。
同じアプリを開いていても、そこに込めている意味が根本的に違うのです。

研究はさらに進みます。
SNSで「どんな内容を見ているか」も両者を比較しました。
ADHDのある若者では、否定的な投稿、攻撃的なやりとり、性的な内容など刺激の強い情報に触れる頻度が高くなっていました。
そして時には、自分自身がそのやりとりに巻き込まれてしまうこともあります。
強い言葉の応酬、返信のプレッシャー、急な既読スルーへの不安。
こうした経験は、ADHDのある若者の心を揺らしやすく、
その揺れは気分の落ち込みや疲労、自己肯定感の低下にもつながると研究は報告しています。
ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。
研究は「SNSは悪いものだ」と言いたいのではありません。
むしろ、SNSには救いがあることも示唆しています。
誰かが“いいね”をくれる。
メッセージが返ってきた瞬間に、孤独がほどける。
疲れている夜、言葉を交換することで安心できる。
ADHDのある人にとってSNSは、外界とのつながりを保つための橋にもなり得ます。

大切なのは 使いすぎを責めることではなく、使う理由に目を向けることです。
画面を閉じられない夜があるのは意志の問題ではなく、
「それを閉じてしまうと心が落ち着かない」というサインかもしれません。
もしあなたが親なら、「なぜそんなに触っているの?」ではなく、「どんなときに開きたくなる?」と聞けると、関係は少し変わります。
もしあなたが支援者なら、SNSを“問題”ではなく“必要だった背景”として扱うことで、本人にとって安全な対話ができるかもしれません。
そしてもしあなた自身がADHDでSNSと距離をとれない夜があるなら、それはあなたが弱いからではありません。
心を守るために必要な方法を選んでいたのかもしれません。
研究が示すのは一つだけ。
SNSの影響は時間ではなく「理由」と「内容」で変わるということ。
ADHDのある人が安心して人と関わるための道具にもなれば、心を削る刃にもなり得るーーその境界線はとても繊細です。
だからこそ、理解しながら使うことが大切になります。
閉じるのが難しい夜があるなら、それは責める対象ではなく、寄り添うべき「気持ちの声」です。
(出典:International Journal of Mental Health and Addiction DOI: 10.1007/s11469-025-01582-3)(画像:たーとるうぃず)
良い面もあります。
なので、乱暴に「禁止」などにはしないでください。
それはむしろ、逆効果になってしまうかもしれません。
(チャーリー)




























