この記事が含む Q&A
- 拒絶への過敏さとは何ですか?
- ADHDの人が「拒絶されるかもしれない」と感じるだけで強い苦痛や不安が生じる感覚のことです。
- 生活にはどんな影響がありますか?
- 引きこもり・回避、マスキング、身体的な反応という三つの特徴があり、学業や人間関係にも影響します。
- どうすれば緩和につながりますか?
- 周囲の理解や安心感が得られる関係性があれば、マスキングや引きこもりを減らせる可能性があります。
ADHDと聞くと、「注意が続きにくい」「落ち着きがない」といった特徴を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、ADHDのある人たちが日常生活の中で直面している困難は、それだけではありません。
近年、とくに注目され始めているのが、感情の調整に関わる困難です。
イギリスのブライトン・アンド・サセックス医科大学を中心とした研究チームは、ADHDのある人が経験する「拒絶への過敏さ」に焦点を当て、その体験を丁寧に掘り下げた質的研究を行いました。
この研究は、ADHDのある大学生を対象に、実際の語りを通して、拒絶に対する感受性がどのように感じられ、どのような影響を及ぼしているのかを明らかにしようとしたものです 。
研究者たちが注目したのは、「拒絶過敏性」と呼ばれる体験です。
これは、実際に拒絶された場合だけでなく、「拒絶されるかもしれない」「批判されるかもしれない」と感じただけでも、強い苦痛や不安、みじめさが引き起こされる状態を指します。
ADHDにおいてよく見られる感情調整の困難さの一側面として、当事者の間では以前から語られてきましたが、学術研究として詳しく扱われることは多くありませんでした。
この研究では、正式にADHDの診断を受けている大学生5人が参加し、少人数のフォーカスグループ形式でインタビューが行われました。
参加者たちは、拒絶や批判を感じたとき、あるいはそれを予期したときに、どのような気持ちや反応が起きるのかを、自分の言葉で語っています。
分析の結果、参加者の体験は大きく三つの共通した特徴に整理されました。
一つ目は「引きこもり・回避」、二つ目は「マスキング」、三つ目は「身体的な感覚」です。

まず、「引きこもり・回避」についてです。
参加者たちは、拒絶される可能性を感じるだけで、友人関係や家族関係、恋愛、大学の課題、さらには将来の仕事のチャンスから距離を取ってしまうことを語りました。
実際に拒絶されることよりも、「拒絶されるかもしれない」という予期のほうが、より強い苦痛を生むと感じている人も多くいました。
たとえば、メッセージを送って返事がすぐに来ないだけで、「嫌われたのではないか」「拒絶されたのではないか」と不安が膨らみ、夜中まで何度もスマートフォンを確認してしまうといった体験が語られています。
こうした不安を避けるために、最初から人に連絡を取らない、関係を深めないという選択をするようになり、結果として「孤独」「友だちが少ない」「愛されない存在だ」という感覚につながっていきます。
この回避は、学業や仕事にも影響します。
課題を提出しなかったり、あえて完成度を下げて提出したりすることで、「評価が低くても仕方がない理由」を自分に用意する人もいました。
それによって、批判や否定を真正面から受けることを避けようとするのです。
仕事の応募についても、「どうせ落とされる」と感じて、最初から応募しないという行動が見られました。

次に、「マスキング」です。
マスキングとは、本当の感情や困難を隠し、周囲に合わせた振る舞いをすることを指します。
参加者たちは、拒絶に対する強い苦痛を感じていても、それを表に出さず、「平気そうに」「気にしていないふり」をすることが多いと語りました。
冗談と批判の区別がつきにくく、「これは本当に冗談なのか、それとも否定なのか」と混乱する場面も多く、安心するために確認したくても、「気にしすぎ」「過敏だ」と思われることへの恐れから、気持ちを飲み込んでしまうといいます。
その結果、「強そうな自分」「タフな自分」という仮の姿を演じ続けることになります。
しかし、このマスキングは長く続けるほど、本人にとって大きな負担になります。
参加者の中には、「他人に対してだけでなく、自分自身に対してもマスクをかけてしまい、本当は何を感じているのかわからなくなった」と語る人もいました。
自分の感情とのつながりが薄れ、現実の人間関係を外から眺めているような、距離感や違和感を覚えることもあったといいます。
さらに、マスキングは引きこもりを強化する悪循環を生みます。
周囲の人は「この人は平気そうだ」と誤解し、より率直な批判や要求を向けるようになります。
それによって本人の苦痛は増し、さらに距離を取るようになり、ますますマスキングが強化されていきます。

三つ目の特徴は、「身体的な感覚」です。
拒絶や批判を感じたとき、参加者たちは感情だけでなく、身体にも強い反応が起きると語っています。
その感じ方は人によって異なりましたが、非常に生々しく、具体的でした。
胸や喉が締めつけられるように感じる人、足元の椅子が突然なくなったような感覚に襲われる人、体の内側が急激に熱くなって燃えるように感じる人、逆に体が動かなくなったように固まってしまう人もいました。
共通して語られたのは、胃のあたりの不快感や吐き気でした。
研究者たちは、これらの身体感覚が、不安反応やストレス反応と重なっている可能性を指摘しています。
拒絶を感じた瞬間、体が「危険」に直面したかのような状態になり、強い生理的反応が引き起こされていると考えられます。
この研究が示しているのは、拒絶への過敏さが、単なる「気にしすぎ」や「性格の問題」ではなく、感情、思考、身体が一体となった深い体験であるということです。
そしてそれは、日常生活や人間関係、学業や将来の選択にまで、長期的な影響を及ぼしています。
参加者たちはまた、「周囲からの理解や安心感があれば、この苦しさは和らぐかもしれない」とも語っています。
不安を感じたときに、否定されず、過剰だと笑われず、確認や安心を求めてもよい関係性があれば、マスキングや引きこもりは減らせるのではないか、という声です。

研究者たちは、この研究が小規模であることや、参加者に他の発達特性が併存している可能性があることなど、限界についても慎重に述べています。
それでも、ADHDのある人の内側で何が起きているのかを、当事者の言葉で描き出した点に、この研究の大きな意義があります。
拒絶への過敏さは、診断基準には含まれていないものの、生活の質や心の健康に大きく関わる体験であることが、この研究から静かに浮かび上がってきます。
ADHDを「行動の特性」だけで捉えるのではなく、感情や身体感覚を含めた全体的な体験として理解する必要性を、この研究は示していると言えるでしょう。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0314669)(画像:たーとるうぃず)
実際に拒絶されることよりも、「拒絶されるかもしれない」という予期のほうが、より強い苦痛を生むと感じている
それが深刻なものとなれば、とてもきついことは、誰でも想像できるのではないでしょうか。
「嫌われた」―ADHDの見えにくい特性、拒絶過敏性(RSD)
(チャーリー)





























