
この記事が含む Q&A
- RSD(拒絶過敏性情動反応)とは何ですか?
- 感情的に過剰反応し、「嫌われた」「見捨てられた」と感じやすい特性です。
- ADHDの人がRSDを経験しやすいのはなぜですか?
- 脳の感情コントロール機能のバランスが崩れやすいためです。
- RSDの対処法にはどのようなものがありますか?
- 名前をつけて理解を深め、深呼吸や問い直しなどのセルフケアや心理支援を検討します。
「数時間も返信がない…きっと嫌われたんだ」
ある日、友だちからのメッセージがなかなか返ってこないとき、あなたならどう思いますか?
多くの人は「まあ、忙しいのかな」と考えて、とくに気にしないかもしれません。
でも、ADHD(注意欠如・多動症)をもつ人にとっては、まったく違う感情が押し寄せてくることがあります。
「きっともう嫌われたんだ」「わたし、また失敗した」「もう友だちじゃないんだ…」
こうした激しい感情の揺れは、たとえ現実には拒絶されていなくても生じることがあります。
そしてその背景には、「拒絶過敏性情動反応(リジェクション・センシティブ・ディスフォリア)」と呼ばれる特性が関係しているのです。
これはまだ医学的な診断名ではありませんが、研究や臨床現場では注目が高まっています。
とくに、自分の心の動きに向き合いはじめた大人のADHD当事者の間で、この言葉は「やっと見つけた自分の説明」として広まっています。
では、この「拒絶過敏性情動反応(リジェクション・センシティブ・ディスフォリア)」とは何なのか?
それはADHDとどう関係しているのか?そして、どのように関わることができるのでしょうか?
この特性は、略して「拒絶過敏性(RSD)」と呼ばれることもあります。
RSDという略称は、研究や当事者のあいだで広まりつつあり、この記事でも以降はこの表記を用いて説明していきます。
誰だって、否定されたり無視されたりすれば、いい気分にはなりません。
「自分が悪かったかな」「恥ずかしいな」と思うのは自然な反応です。
でも、拒絶過敏性(RSD)は、それとは桁違いの反応を引き起こします。
「ディスフォリア(dysphoria)」とは、強い精神的苦痛や不快感を意味する言葉です。
RSDのある人は、ちょっとしたコメントや態度――たとえば「こうやったほうがよかったんじゃない?」というような言葉に対しても、まるで全人格を否定されたかのような衝撃を受けることがあります。
誰も意地悪なことを言ったわけではないのに、「もうだめだ」「自分は嫌われた」と思ってしまい、その場から引きこもってしまったり、逆に怒ってしまったり、過剰に謝りつづけたりしてしまうのです。
これらの反応は、自分を守ろうとする「防衛反応」であることが多く、心の奥には「見捨てられたくない」という強い恐れがあります。
ADHDというと、多くの人が「集中力が続かない」「じっとしていられない」といったイメージを持っているかもしれません。
でも、実はADHDには「感情の調整がむずかしい」という側面もあります。
これを「感情調整障害(エモーショナル・ディスレギュレーション)」と呼びます。
これは性格の問題ではなく、脳のしくみによるものです。
脳のなかには、感情に反応する「扁桃体(へんとうたい)」という部分と、それをコントロールする「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という部分があります。
ADHDのある人では、この連携が少し独特なのです。
2018年のある研究では、ADHDのある人の脳内で、この「感情を感じる場所」と「感情をおさえる場所」のバランスがとれていないことが示されました。
その結果として、感情の波が非常に強く、そしてなかなかおさまらないのです。
つまり、論理的に「そんなに気にすることじゃない」とわかっていても、感情のほうが先に大きく反応してしまい、あとから追いつくのが大変になる――そんな経験が、日常的に起きているのです。
2024年の最新研究では、ADHDの傾向が強い学生ほど、他者からの否定的評価に対する不安や恐怖が強いことが明らかにされました。
さらに2018年の研究では、思春期のADHD傾向のある子どもたちが、同年代の友人からのフィードバックに対して、非常に強く感情的に反応することが報告されています。
おもしろいのは、彼らの脳が「ほめ言葉」にも「批判」にも過敏に反応していたことです。
つまり、いわゆる「ニュートラルな一言」すらも、脳が「感情的な出来事」として処理してしまうのです。
たとえば、「この宿題、こうやってみたら?」というようなアドバイスが、「ダメだったんだ」と変換されてしまうような状態です。
ある13歳の男の子の事例があります。
彼はとても想像力が豊かで、思いやりのある性格ですが、「もし断ったら、もう友だちじゃなくなるかも」という不安から、自分の気持ちを押し殺して行動してしまうことが多いそうです。
「ことわったら、きらわれる」と思ってしまうこの恐怖心は、RSDの典型的な反応です。
彼は本当はやりたくないことにも「うん」と言ってしまい、あとで後悔します。
でも、「そうしないと関係が壊れる」と思ってしまうのです。
このような「社会的な過覚醒(ハイパービジランス)」は、エネルギーを非常に消耗させます。
そして放っておくと、自尊心の低下や、長期的なメンタルヘルスの問題へとつながる可能性があります。
子どもだけではありません。大人のADHD当事者にとっても、RSDは深刻なテーマです。
2022年の研究では、大人のADHD当事者が「軽い指摘」や「建設的な批判」に対してさえも、強い自責感や自己否定を感じやすいことが示されました。
とある女性は、50代でADHDの診断を受けました。
彼女はずっと高い評価を受けてきた専門職に就いており、実績も申し分ない人です。
それでも、「職場の人からどう見られているか」にいつも不安を感じていました。
そんな彼女が、小さな業務ミスに関する正式な注意を受けたとき、それを「自分がだめな人間だという証拠」として受け取ってしまったのです。
「私はうるさすぎるんだ」「迷惑なんだ」と思いこみ、何日も自己嫌悪に沈みました。
のちに、彼女はRSDという概念を知ったとき、「長年のモヤモヤが一気に説明された気がした」と語っています。
RSDを経験している人へ、そしてその人を支える人たちへ。
ここに、いくつかのヒントがあります。
1.まずは名前をつけてみることです。
「これは拒絶過敏性かもしれない」と、自分の中で言葉にしてみてください。
それだけでも、押し寄せる感情の波から少し距離を取ることができます。
2.反応する前に、一度立ち止まることも大切です。
ゆっくりと深呼吸をする、数字を逆に数える、外の空気を吸いに行く――こうしたシンプルな「グラウンディング」の方法が、体のストレス反応をやわらげ、自律神経のバランスを取り戻す助けになります。
研究でも、呼吸をゆっくり整えたり、感覚を落ち着けたりすることが、「闘争・逃走モード」から抜け出すきっかけになり、思考の明晰さや感情のコントロールを支えてくれるとされています。
3.次に自分の中のストーリーを問い直すこと。
「他にどんな可能性がある?」「もし友だちが同じことを感じていたら、わたしはどう声をかける?」と、問いかけてみてください。
4.また、心理支援を受けることを検討するのもひとつの方法です。
ADHDやRSDに理解のある心理士と一緒に取り組むことで、こうした感情的な反応をほぐし、自分に対する健全で思いやりのある対応の仕方を育てていくことができます。
5.子どものうちから取り組むことも効果的です。
ADHDのある子どもが、感情を言葉にする力、境界線を引く力、回復する力(レジリエンス)を身につけることができれば、RSDの影響を受けにくくなります。
6.さらに、やさしい伝え方を心がけることも大切です。
ADHDのある人と一緒に暮らしていたり、働いていたりする場合は、フィードバックを明確に、そして親切に伝えるように意識してください。
皮肉やあいまいな言い回しは避け、ほんの少し丁寧にするだけでも、相手の安心感は大きく変わります。
RSDは、「打たれ弱さ」や「甘え」と誤解されることがあります。
でも、それは違います。
これは、ADHDのある脳が、感情や社会的な合図を処理する方法に違いがあるというだけのことです。
理解と支援、そして自己への思いやりがあれば、RSDは乗り越えられるものです。
「自分はこういう特性を持っているんだ」と知ることは、回復の第一歩です。
(出典:THE CONVERSATION)(画像:たーとるうぃず)
「拒絶過敏性(RSD)」
こうして、名付けられることで困難が認識しやすく、共有されることで、支援されやすくなるはずです。
誰にでも経験がありそうですが、強迫症のようになるまで、度が過ぎれば深刻になることも想像できます。
「ふつう」になれない私、ADHD女子高生の学校での闘い。研究
(チャーリー)