この記事が含む Q&A
- 自閉症と実行機能にはどんな関係があるのか?
- 年齢に関係なく、実行機能の困難が社会的困難と関連していると示されています。
- 年齢によって実行機能と社会的行動の関係はどう変わるのか?
- 子どもでは切り替えと感情コントロールが影響し、成人ではワーキングメモリが特に関係すると報告されています。
- 実行機能と社会的特徴の組み合わせにはタイプがあるのか?
- 潜在プロファイル分析で4つのタイプに分類され、年齢・性別・IQに左右されず独立した組み合わせが示唆されました。
自閉症のある人は、社会的なコミュニケーションに困難を感じることがあります。
しかし、その背景にはさまざまな要因が関わっており、単純に説明できるものではありません。
その中でも近年注目されているのが、「実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)」と呼ばれる認知の働きです。
実行機能とは、目標に向かって行動するために必要な高次の認知能力のことです。
例えば次のような能力が含まれます。
・衝動を抑える
・状況の変化に合わせて考え方を切り替える
・情報を一時的に保持して考える
・感情をコントロールする
・自分の行動を振り返る
こうした能力は、日常生活や社会的なやりとりの中で重要な役割を果たしています。
今回、中国の温州医科大学附属第二病院・育英児童病院、北京博愛病院(中国リハビリテーション研究センター)、首都医科大学リハビリテーション学院、昌平研究所、中国自閉症リハビリテーション研究センターなどの研究チームは、自閉症における実行機能と社会的行動の関係を、子どもと成人の両方で詳しく調べました。

研究には、8歳から23歳までの423人が参加しました。
そのうち184人が自閉症で、239人が自閉症ではない対照群でした。
年齢によって次の2つのグループに分けて分析が行われました。
・子ども(8〜15歳)
・成人(18〜23歳)
実行機能として特に注目されたのは次の5つの要素です。
・抑制(衝動を抑える力)
・切り替え(考え方を柔軟に変える力)
・ワーキングメモリ(情報を一時的に保持して操作する力)
・感情コントロール
・モニタリング(自分の行動を確認する力)
社会的な特徴としては、
・社会的コミュニケーション
・反復的行動
・社会的反応性の総合スコア
などが評価されました。
まず研究者たちは、自閉症のある人とない人を比較しました。
その結果、子どもでも成人でも、自閉症のある人はほぼすべての実行機能と社会的反応性の指標で、対照群よりも困難のスコアが高いことが確認されました。
つまり、
・実行機能の困難
・社会的な困難
の両方が広く見られることが示されたのです。

しかし、この研究の目的は単に違いを示すことではありませんでした。
研究者たちがとくに知りたかったのは、
「実行機能と社会的行動の関係が、年齢によって変わるのか」
という点でした。
分析の結果、興味深いことが分かりました。
実行機能と社会的困難の関係そのものは、子どもでも成人でも基本的に同じように存在していました。
つまり、
実行機能が難しいほど社会的な困難も大きくなる
という関係は、発達の段階を通して共通していたのです。
しかし、その「関係の中身」は年齢によって少し違っていました。
子どもの場合、社会的困難と関係していた実行機能は比較的広く、さまざまな要素が関わっていました。
とくに影響が見られたのは
・考え方を切り替える能力
・感情のコントロール
などでした。
一方、成人では少し違うパターンが見られました。
成人では、実行機能の中でも特に「ワーキングメモリ」が社会的行動と強く関係していました。
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら処理する能力です。
たとえば会話の中では、
・相手が言ったことを覚えておく
・文脈を理解する
・次に何を言うか考える
といったことが同時に行われます。
このような複雑な社会的やりとりでは、ワーキングメモリが重要になる可能性があると研究者たちは考えています。
また研究では、実行機能が「自閉症と社会的困難の間にある仕組み」の一部として働いているかどうかも調べられました。
分析の結果、成人では実行機能の5つすべての要素が、社会的困難に間接的に関わっていることが確認されました。
つまり、
自閉症
↓
実行機能の特徴
↓
社会的行動
という経路が広く見られたのです。
しかし子どもでは、同じようなパターンではありませんでした。
子どもでは、
・切り替え
・感情コントロール
など特定の実行機能だけが社会的行動に関係していました。

さらに研究者たちは、もう一つの重要な分析を行いました。
それは「潜在プロファイル分析」という方法です。
これは、個人の特徴の組み合わせから、いくつかのタイプに分類する統計手法です。
その結果、参加者は次の4つのタイプに分けられることが分かりました。
・症状が比較的少ないグループ
・軽度から中程度のグループ
・中程度から重度のグループ
・重度のグループ
これらのグループでは、
実行機能の困難と社会的困難
が段階的に強くなっていました。
とくに差が大きかったのは、
・社会的な反復行動
・認知の切り替え能力
でした。
興味深いことに、これらのグループは
・年齢
・性別
・IQ
といった要因とは関係していませんでした。
つまり、実行機能と社会的特徴の組み合わせによって、独立したタイプが存在する可能性が示されたのです。
研究者たちは、この結果から重要な視点を示しています。
自閉症における社会的困難は、単純な1つの原因では説明できないということです。
実行機能の各要素は、発達の段階によって異なる役割を持つ可能性があります。
子どもの頃は、実行機能の困難が広く社会的行動に影響します。
しかし成長するにつれて、役割が少しずつ再編成されていく可能性があります。
成人では、すべての実行機能が同じように影響するわけではなく、特定の能力がより重要になるかもしれません。
また研究者たちは、成人で見られたパターンについて次のように考えています。
成人の自閉症の人は、
・戦略的に行動を調整する
・経験をもとに対処する
といった形で、日常生活の中で適応している可能性があります。
そのため、実行機能の困難が完全に消えたわけではなくても、行動としての表れ方が変わっているのかもしれません。
研究者たちはこれを、
「発達による再編成」
と表現しています。
つまり、能力が単純に改善するというよりも、
実行機能の役割のバランスが変わっていく可能性があるということです。
ただし、この研究にもいくつかの限界があります。
まず、この研究はある時点のデータを比較したものであり、長い時間の変化を追跡した研究ではありません。
そのため、発達の変化を直接示すものではないと研究者たちは述べています。
また、
・成人のサンプル数が比較的少ないこと
・男性の割合が多いこと
・IQが比較的高い人が多いこと
なども、結果の解釈に影響する可能性があります。

それでもこの研究は、自閉症の理解に新しい視点を提供しています。
これまでの研究では、
「実行機能は社会的困難と関係しているか」
という点が主に議論されてきました。
しかし今回の研究は、
「どの実行機能が、どの発達段階で、どのように関係しているのか」
という点に焦点を当てました。
その結果、実行機能と社会的行動の関係は、発達の中で単純に強くなったり弱くなったりするのではなく、役割が再配置されていく可能性が示されました。
そしてもう一つ重要なことがあります。
自閉症の特徴は、人によって大きく異なるということです。
今回の研究で見つかった4つのタイプは、
同じ診断であっても、実行機能と社会的特徴の組み合わせが人によって違う可能性を示しています。
研究者たちは、このような違いを理解することが、個々の特徴をより正確に理解するために重要だと述べています。
自閉症を理解するためには、単一の説明ではなく、発達の中で変化する多様なパターンを見る必要があるのかもしれません。
今回の研究は、その複雑な関係の一端を示したものと言えるでしょう。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2026.1729973)(画像:たーとるうぃず)
実行機能と社会的行動の関係は、発達の中で単純に強くなったり弱くなったりするのではなく、役割が再配置されていく可能性
より正しく理解できれば、より良い支援につながります。
(チャーリー)




























