この記事が含む Q&A
- 発達障害を持つ子どもに対してビデオゲームは実行機能の改善に効果がありますか?
- 小から中程度の効果が統計的に確認され、衝動を抑える力・注意の切り替え・作業記憶の改善が報告されています。
- アクティブゲームと非アクティブゲームでは効果はどう異なりますか?
- アクティブゲームは注意の切り替えに大きな効果が、非アクティブゲームは作業記憶の改善に効果的とされます。
- 研究の限界は何ですか?
- 対象研究が少なく参加者数も小さいこと、年齢層が広く年齢差の影響が不明確なこと、長期的効果のデータが不足していることなどです。
子どもが夢中になる「ゲーム」は、発達の支援にも役立つのでしょうか。
自閉症やADHDなどの神経発達症のある子どもたちは、日常生活の中でいくつかの共通した困難を抱えています。
その一つが「実行機能」と呼ばれる力です。
これは、注意を切り替えたり、衝動を抑えたり、頭の中で情報を保ちながら考えたりする力のことです。
さらに、体の動きをうまく調整する力にも難しさが見られることがあります。
たとえば、バランスをとる、素早く動く、手先を器用に使うといった動作です。
こうした「考える力」と「動く力」は、別々のもののように見えますが、実は脳の中では深く結びついています。
前頭葉、小脳、大脳基底核といった領域が連携しながら働くことで、私たちは考えながら動くことができています。
そしてこの関係は一方通行ではなく、互いに影響し合いながら発達していくと考えられています。
今回の研究では、このような背景のもとで「ビデオゲーム」が支援としてどのような効果を持つのかが詳しく調べられました。
研究を行ったのは、中国の新疆師範大学や蘇州大学などの研究チームです。
この研究は、これまでに行われたランダム化比較試験という信頼性の高い研究を集めて分析する「メタ分析」という方法で行われました。
対象となったのは、神経発達症のある子どもと若者878人です。ADHDの子どもが最も多く、次いで発達性協調運動障害、自閉症の子どもたちが含まれていました。

分析の結果、ビデオゲームを使った介入にはいくつかの重要な効果が見られました。
まず、実行機能についてです。
衝動を抑える力、注意を切り替える力、作業記憶と呼ばれる頭の中で情報を保持する力のいずれについても、ゲームを行ったグループは行っていないグループよりも改善が見られました。
その効果の大きさは小から中程度ではありますが、統計的にははっきりとした差が確認されています。
この結果は、ゲームが単なる遊びではなく、脳の働きに影響を与える可能性を示しています。
とくに、ゲームには報酬や達成感があり、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の働きを通じて、注意や学習に関わる回路を活性化することが考えられています。
また、ゲームの種類によって効果の出方が異なることもわかりました。
体を動かしながら遊ぶ「アクティブゲーム」は、注意の切り替えといった柔軟な思考により大きな効果が見られました。
一方で、座って行う「非アクティブなゲーム」は、作業記憶の改善により効果的でした。
この違いは、それぞれのゲームが使う脳の仕組みの違いと関係している可能性があります。
体を動かすゲームは、運動と認知の両方のネットワークを同時に使うため、複雑な切り替えに強く働きます。
一方で、座ってじっくり行うゲームは、記憶や戦略的思考に関わる領域を深く使うため、作業記憶に影響しやすいと考えられています。

次に、運動能力についてです。
全身の動きに関わる「粗大運動」では、ゲームを使った介入によって改善が見られました。
バランスやジャンプ、協調運動といった能力に変化が確認されています。
とくに、短期間の介入でも効果が現れる傾向があり、運動スキルの初期の学習段階では、ゲームが良い刺激になる可能性が示されています。
一方で、手先の細かい動きに関わる「微細運動」については、明確な改善は確認されませんでした。
この理由として、現在のゲーム機器の技術的な制限が指摘されています。
たとえば、KinectやVRコントローラーは、腕や体の大きな動きは捉えられますが、指の細かな動きを正確に捉えることは難しいとされています。
そのため、つまむ、つかむといった精密な動作の訓練には、まだ十分に対応できていない可能性があります。
また、この研究からは、どのようにゲームを使うかによって効果が変わることも見えてきました。
たとえば、注意の切り替えは、短時間で回数が少ないトレーニングでも効果が見られる一方で、作業記憶は1回の時間が長いほうが効果が出やすい傾向がありました。
つまり、「ゲームを使うと良い」という単純な話ではなく、「どんなゲームを、どのくらいの時間、どの頻度で行うか」が重要であることがわかります。
ただし、この研究にはいくつかの注意点もあります。
まず、対象となった研究の数は20と限られており、参加者の数もそれぞれの研究ではそれほど多くありません。
そのため、結果が過大に見えている可能性もあります。
また、年齢の幅が3歳から18歳と非常に広く、発達の段階による違いが十分に区別されていません。
脳の発達は年齢によって大きく異なるため、同じ介入でも効果の出方が違う可能性があります。
さらに、長期的な効果についてのデータが少なく、改善がどれくらい続くのかはまだはっきりしていません。

それでも、この研究は重要な示唆を与えています。
ゲームは、子どもたちにとって自然に取り組める活動です。
楽しさや没入感があるため、継続しやすく、従来の訓練よりも参加しやすいという特徴があります。
その意味で、ビデオゲームは単独の治療ではなく、既存の支援を補う「補助的な手段」として有望であると考えられます。
そしてもう一つ大切な点があります。
この研究は、発達の困難を「できないこと」として見るのではなく、「どのような環境や方法なら力を引き出せるか」という視点を示しています。
ゲームという一見遊びのようなものが、実際には脳の働きや行動に影響を与えうるという事実は、支援の可能性を広げるものです。
ただし、それは魔法のような解決策ではありません。
どの子どもにも同じように効果があるわけではなく、個々の特徴や発達段階に合わせた使い方が求められます。
ゲームは問題の原因ではなく、使い方によっては支援の一部にもなりうる。
そのような視点が、これからの支援のあり方を少しずつ変えていくのかもしれません。
(出典:Frontiers in Rehabilitation Sciences DOI: 10.3389/fresc.2026.1742526)(画像:たーとるうぃず)
楽しく遊んでいることが、療育になっている。
そんなゲーム体験がどんどん増えるといいですね。
(チャーリー)




























