この記事が含む Q&A
- 自閉症のある思春期の実行機能は、IQとどのように関係しますか?
- IQが高いほどカード分類の切り替えや全体計画が向上する傾向があり、知能が高いほど実行機能の安定性が見られることがある。
- 自閉症と定型発達の比較で、実行機能には差が出にくい場面はありますか?
- 年齢とIQをそろえると大きな差は見られない場合が多いが、IQが高いグループ同士では差が小さく、低いグループでは差が出やすい。
- 実行機能を支援する際のポイントは何ですか?
- その人の知的プロフィールに合わせた支援が重要で、視覚的手掛かりや段階的なルール切り替え練習が有効となりうる。
思春期は、子どもから大人へと心と体が大きく変わる時期です。
この時期、多くの保護者や本人が気にするのが、「考える力」や「切り替える力」、「計画を立てる力」が、日常生活や学校生活の中でどのように育っていくのかという点です。
自閉症のある思春期の子どもについても、「実行機能」と呼ばれるこうした力が、どのように働いているのかは、長年研究の対象になってきました。
今回紹介する研究は、ポーランドのワルシャワ大学とSWPS大学の心理学部に所属する研究チームが行ったもので、自閉症のある思春期の若者と、定型発達の若者を比較しながら、「知能」と「実行機能」の関係を丁寧に調べています。
対象となったのは、知的障害を伴わない自閉症のある12歳から18歳までの若者です。
研究者たちが注目したのは、「自閉症かどうか」そのものよりも、「知能の高さ」や「知能の中身の違い」が、実行機能にどのように関わっているかという点でした。

この研究では、118人の自閉症のある若者と、年齢と全体的な知能指数をそろえた96人の定型発達の若者が参加しています。
知能は、よく知られたウェクスラー式の知能検査を用いて測定され、単なる総合的なIQだけでなく、「言語理解」「知覚推理」「作動記憶と注意の持続」といった要素ごとにも分析されました。
一方、実行機能については、カードの分類ルールを自分で見つけて切り替えていく課題や、色と数字を同時に意識しながら線をつなぐ課題が用いられました。
これらは、計画性、柔軟な考え方、注意の切り替えといった力を見るための、心理学研究でよく使われる課題です。
まず大きな結果として明らかになったのは、年齢とIQをそろえた場合、自閉症のある若者と定型発達の若者の間に、実行機能の大きな差は見られなかったという点です。
計画を立てる力や考え方を切り替える力、注意を切り替える速さといった点で、平均的にはほぼ同じ成績だったのです。
この結果は、「自閉症がある=必ず実行機能が弱い」という単純な見方が当てはまらないことを示しています。
少なくとも、構造化された検査課題の中では、知能が同程度であれば、実行機能の成績も似通うことがある、ということです。
しかし、研究者たちはここで分析を終わらせませんでした。
次に、自閉症のある若者の中で、「IQが高いグループ」と「IQが比較的低いグループ」に分けて詳しく調べたのです。
すると、より興味深い違いが見えてきました。

IQが高い自閉症のある若者は、カード分類の課題でルールを切り替えるのが上手で、同じ間違いを繰り返すことが少ない傾向がありました。
また、課題全体を見通して進める計画性も、IQが低めのグループより高い成績を示していました。
一方で、IQが比較的低い自閉症のある若者では、考え方の切り替えが難しく、同じ反応を続けてしまう傾向が強く見られました。
この違いは、定型発達の若者についても、ある程度似た形で見られました。
IQが高いグループのほうが、課題を素早く、効率よくこなす傾向があったのです。
つまり、実行機能の成績には、「自閉症かどうか」だけでなく、「知能の水準」が大きく関わっていることが示されました。
さらに注目すべき点は、IQが高い自閉症のある若者と、IQが高い定型発達の若者を比べた場合、実行機能の成績にほとんど差がなかったことです。
これは、知的な力が高い場合、自閉症のある若者でも、課題にうまく対応するための工夫や補い方を身につけている可能性を示唆しています。
一方で、IQが比較的低いグループ同士を比べると、自閉症のある若者のほうが、柔軟に考え方を切り替える点で難しさを示していました。
この結果は、「自閉症の特性」と「知的なリソースの少なさ」が重なったときに、実行機能の困難さがより表に出やすくなることを示していると考えられます。
この研究では、知能をさらに細かく分けて分析しています。
その中でとくに重要だったのが、「知覚推理」と呼ばれる力です。
これは、目で見た情報をもとに関係性を考えたり、図形や配置のルールを理解したりする力のことです。
自閉症のある若者では、この知覚推理の得点が高いほど、考え方の切り替えや課題の進め方が安定している傾向が見られました。
つまり、言葉の力よりも、視覚的・非言語的な考える力が、実行機能を支えている場面が多いことが示唆されたのです。
また、性別による違いについても調べられました。
全体としては、定型発達の若者では男子のほうが知覚推理の得点が高い傾向がありましたが、自閉症のある若者の中では、男女の差はほとんど見られませんでした。
これは、自閉症のある若者では、一般的に見られる性差のパターンが弱まる、あるいは異なる形になる可能性を示しています。

研究者たちは、これらの結果から重要なメッセージを導いています。
それは、「自閉症かどうか」という診断名だけで、実行機能の強みや弱みを判断するのは適切ではない、ということです。
同じ自閉症の診断があっても、知能の水準や得意な考え方のタイプによって、実行機能の姿は大きく異なります。
とくに、視覚的な情報処理や空間的な推理が得意な若者では、その強みを活かすことで、計画や切り替えの難しさを補っている可能性があります。
一方で、そうしたリソースが少ない場合には、日常生活の中でより手厚い支援や工夫が必要になるかもしれません。
この研究は、実行機能の支援を考える際に、「一律の方法」ではなく、「その人の知的プロフィールに合った支援」が重要であることを示しています。
たとえば、視覚的な手がかりを使った手順の提示や、段階的にルールを切り替える練習などは、とくに効果的かもしれません。
思春期という変化の大きい時期において、自閉症のある若者がどのように考え、工夫しながら日々を過ごしているのか。
その多様さを理解することが、本人にとっても、周囲の大人にとっても、大切な一歩になるのではないでしょうか。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1733356)(画像:たーとるうぃず)
「自閉症かどうか」という診断名だけで、実行機能の強みや弱みを判断するのは適切ではない、ということです。
同じ自閉症の診断があっても、知能の水準や得意な考え方のタイプによって、実行機能の姿は大きく異なります。とくに、視覚的な情報処理や空間的な推理が得意な若者では、その強みを活かすことで、計画や切り替えの難しさを補っている可能性があります。
それぞれの人をよく知ることが、適切な支援への始まりとなります。
(チャーリー)





























