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受刑者のADHDの割合は一般の10倍以上。42研究の統合分析

time 2025/07/13

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受刑者のADHDの割合は一般の10倍以上。42研究の統合分析

この記事が含む Q&A

受刑者におけるADHDの有病率はどれくらいですか?
平均で約25.5%と報告されており、これは一般成人の約10倍にあたります。
どのようにしてADHDの診断率が異なるのですか?
診断方法や診断時期、地域による制度の違いが診断結果に影響しています。
男女間で受刑者のADHDの有病率に差はありますか?
男女の差はほとんどなく、男性と女性の受刑者でほぼ同等の割合が示されています。

注意欠如・多動症(ADHD)は、子どものころから始まり、衝動的で落ち着きのない行動や集中力の欠如が特徴とされる神経発達症のひとつです。
この障害は、学業や仕事、人間関係など、日常生活の複数の場面で明らかな支障をきたす場合に診断されます。
近年では、ADHDは子どもだけでなく、大人にも持続することが明らかになってきており、その影響は生涯にわたることがあるとされています。

一般人口におけるADHDの有病率は、子どもでおよそ3〜7%、大人で1〜5%と報告されています。
しかし、刑務所に収容されている人たち、つまり「受刑者」については、ADHDの割合がこれとは大きく異なるのではないかという声が以前からあがっていました。

そこで、イギリス・インペリアル・カレッジ・ロンドンを中心とする研究グループは、受刑者におけるADHDの有病率を明らかにするため、大規模なメタアナリシス(複数の研究を統合した統計的解析)を行いました。
この研究では、1980年から2012年までに発表された、ADHDと受刑者に関する英語の論文を徹底的に調査し、最終的に42本の研究を分析対象としました。

この分析により、刑務所にいる人々のうち、ADHDを診断基準に基づいて臨床的に確認された割合は平均で25.5%にのぼることが明らかになりました。
これは、一般の大人の有病率(1〜5%)と比べて、およそ10倍に相当します。
また、青少年の受刑者に限ると、ADHDの有病率は30.1%に達しており、一般の子どもの5倍以上という非常に高い数値が示されました。

今回の研究では、ADHDの診断方法にも注目しました。
簡易なスクリーニング検査を用いた研究では、ADHDの有病率が43.3%と非常に高く出ていましたが、これは正式な診断を伴わないため、過剰な結果を出している可能性があるとされています。
そこで、研究グループは、最終的には医師による診断面接に基づいたデータのみを用いて、有病率を再計算しました。
その結果が前述の25.5%です。

また、ADHDの診断時期によっても結果に差が出ることがわかりました。
子どもの頃のADHDを回想する「回顧的診断」では有病率が36.4%だったのに対し、現在の症状に基づく診断では21.7%にとどまりました。
これは、大人の記憶に基づく自己報告では、実際よりもADHDの兆候が強調されやすいことを示していると考えられます。

地域ごとの差も大きく、たとえばスウェーデンの受刑者ではADHDの有病率が65.2%と報告されたのに対し、ブラジルでは6.6%という低い数字となりました。
国ごとの刑務所制度の違いや診断制度、研究のサンプルサイズなどが、こうした差の一因と考えられています。
ただし、地域を「ヨーロッパ」「北アメリカ」「その他」の3つに分けて比較すると、これらの差は統計的に有意ではなくなりました。

性別による違いについては、意外なことに、ADHDの有病率に男女差はみられませんでした。
男性の受刑者では31.2%、女性では30.8%と、ほぼ同等の結果となったのです。
一般人口においては、ADHDは男性に多く見られるとされ、男女比はおよそ4対1とされていますが、刑務所内ではその差が消えてしまうようです。
これは、ADHDを持つ女性が、通常であれば刑務所に入らずに済むようなケースでも、ADHDによる衝動性や感情のコントロールの難しさが原因で、最終的に刑務所に入るケースが多いことを示唆しています。

研究者たちは、ADHDを持つ受刑者が、一般の受刑者に比べてさまざまなリスクを抱えていることを指摘しています。
たとえば、ADHDのある人は、初めて警察に接触する年齢が若く、再犯率が高く、刑務所内でも問題行動を起こしやすい傾向があります。
スコットランドのある研究では、ADHDのある受刑者は、そうでない受刑者に比べて最大で8倍も多く攻撃的な行動を示すという結果が出ました。
この関連性は、反社会的人格など他の要因を除外しても維持されたとされています。

こうした問題行動は、ADHDに伴う実行機能の障害、特に「行動の抑制ができないこと」や「感情の調整が難しいこと」といった点が影響していると考えられています。
また、薬物乱用との関係も指摘されており、アメリカの受刑者の多くは薬物関連の犯罪で収監されており、その背景にADHDが関わっている可能性があるとされています。

ADHDのある人に適切な支援が行われることで、再犯率や暴力行動が減る可能性があるという報告もあります。
スウェーデンのある研究では、ADHDのある人に対して薬物治療を行ったところ、犯罪行為のリスクが男性で32%、女性で41%も低下したとされています。
これは、ADHDのある人への早期発見と介入が、社会全体の安全にもつながることを示唆しています。

今回のメタアナリシスは、世界15カ国からの42の研究を統合し、合計で26,641人の受刑者データを分析対象としました。
そのうちADHDと診断された人は5,677人にのぼります。
なかでも信頼性の高いとされる「診断面接によるデータ」に絞った場合でも、約2万人のデータが分析に用いられています。

研究チームは、研究手法におけるバイアスや診断基準のばらつきといった限界を認めつつも、今回の分析が刑務所内におけるADHDの実態を明らかにする重要な一歩であると述べています。

ADHDは決して犯罪者特有の疾患ではなく、適切な診断と支援があれば、多くの人が社会で活躍できる可能性を持っています。
しかし、もしその特性が理解されないまま放置されると、衝動的な行動や社会規範からの逸脱が繰り返され、最終的に刑務所に行き着くリスクが高まるのも事実です。

刑務所という閉ざされた環境でこそ、ADHDのような神経発達症に対する正確な理解と診断が求められているのかもしれません。
再犯の抑止や刑務所内でのトラブル防止といった観点からも、メンタルヘルスの観点からのアプローチが今後ますます重要になることが予想されます。

(出典:Psychological Medicine)(画像:たーとるうぃず)

「ADHDは決して犯罪者特有の疾患ではなく、適切な診断と支援があれば、多くの人が社会で活躍できる可能性を持っています。」

正しく理解され、正しく支援がされることを心から願います。

ADHD薬の効果と限界。スウェーデン25万人14年間の調査

(チャーリー)


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