
この記事が含む Q&A
- 高校1年生のケンドラはなぜ急に勉強についていけなくなったのでしょうか?
- 彼女の強い不安や心理的負担が集中力低下の原因として考えられますか?
- 女の子のADHDは男子と比べて気づきにくいと言われていますか?
- はい、女の子は衝動性や落ち着きのなさが目立ちにくいためです。
- 不安障害とADHDはどのように区別されるのでしょうか?
- それぞれの症状や原因を詳しく確認し、適切な診断と治療を行うことが必要です。
ケンドラは高校1年生です。
ある日、母親のスザンヌと一緒に、小児・青年期精神医学および一般精神医学の専門医の私の元を訪れました。
きっかけは小児科の先生からの紹介でした。
これまでケンドラはずっと成績がオールAで、熱心に勉強してきたそうです。
しかし、高校に入ってからたった3か月で、どれだけ勉強しても授業についていけなくなってしまいました。
とくにスペイン語の授業は、幼稚園のころからバイリンガル教育を受けてきたケンドラにとって得意なはずでしたが、それすらも手に負えないほどでした。
これまでADHD(注意欠如・多動症)の話が出たことはありませんでした。
でも、母親のスザンヌによると、ケンドラは小さいころから宿題にとても時間がかかっていたそうです。
友達よりもずっと遅く終わることが多かったのです。
ケンドラと母親は、それを「完璧主義のせい」だと思っていました。
しかし今は、いくら時間をかけても勉強がまったく進まなくなってしまいました。
毎晩自分の部屋で何時間も過ごしているのに、宿題も終わらず、授業中も集中できません。
小児科の先生が母親に伝えたのは、「女の子のADHDは小学校時代に気づかれにくい」ということでした。
男の子のような落ち着きのなさや衝動性が目立ちにくいからです。
ケンドラの両親も「もしかしたら今まで見逃してきたのかも」と思うようになりました。
実は、ケンドラの父親も数年前にADHDと診断されたことがあり、「娘も早めに気づいてあげたい」と考えていたのです。
ADHDを診断するには、集中力の問題、落ち着きのなさ、衝動的な行動など、いくつかの症状がどれだけ強く、どれくらいの頻度で生活に影響しているかを詳しく確認します。
そこで、ケンドラの話をじっくり聞きました。
ケンドラは「授業中、頭の中にいろんな考えが次々と浮かんで、先生の話がまったく頭に入ってこない」と言います。
集中しようとしても、どうしても自分の考えごとに引き戻されてしまうそうです。
スザンヌによると、最近は簡単な問題でも間違いが増え、ケンドラ自身も「見直しをする気になれない」と話していました。
以前のケンドラは、カラフルに色分けされたノートやファイルで、きちんと整理整頓ができていたのに、今ではノートすら使えなくなっていました。
こうした話から「ADHDの可能性はある」と考えられますが、他にも原因があるかもしれません。
集中できない原因には、体の病気、睡眠不足、不安やうつなど心の問題まで、いろいろなものが考えられるからです。
そこで、ケンドラのこれまでの様子や今の悩みをもっと詳しく聞くことにしました。
すると、高校に入る前から、ケンドラは「少しのミスでも絶対に許せない」と常に心配していたことがわかりました。
そのせいで、どんな小さな課題でも何時間もかけて取り組んでいたのです。
これは「不安」が関係しているのではないかと考え、さらに詳しく気持ちを聞いてみました。
するとケンドラは、大きなため息をついたあと、たくさんの「心配ごと」を次々と話し始めました。
「もし悪い成績をとったらどうしよう」
「先生や親に怒られたらどうしよう」
「もし高校1年で落第したら、大学に行けなくなるかも」
「将来、仕事もできなくなるかも」
――こうした「もしも」の心配が頭から離れないのです。
そのうちケンドラは涙を流し始めました。
スザンヌは「そんなに心配しなくて大丈夫」と励ましていたそうですが、ケンドラは「でも、お母さんだって本当のことはわからないでしょ」と返していました。
さらに「睡眠」について聞いてみると、夜遅くまで「なんとか集中しよう」とパソコンの前に座っているのに、画面の文字が全然頭に入らず、どんどんパニックになっていくこともあるといいます。
やっとのことで親にパソコンを消してもらってベッドに入っても、今度は「勉強が終わっていない」という不安で、何時間も眠れない日が続いていました。
心臓がドキドキして息苦しくなることもありましたが、医者で検査を受けても体には異常がありませんでした。
こうした話を総合して、私は「今の主な問題は“集中できないこと”に見えるけれど、実際には“強い不安”が原因ではないか」と考えました。
ADHDの可能性もゼロではありませんが、まずは不安を和らげることが大切です。
ちなみに、母親のスザンヌも以前「不安障害」で治療を受けたことがあり、思春期は子どもに不安の症状が現れやすい時期でもあります。
そこでケンドラと家族には、不安症の子どもや思春期に詳しいカウンセラーを紹介しました。
このカウンセラーは「認知行動療法(CBT)」という方法で、親にもサポートの仕方を教えてくれます。
ケンドラと家族はこの治療を受けることで、数か月後には少しずつ気持ちが落ち着き、集中力も戻ってきました。
このように「集中できない」という症状は、実はさまざまな体や心の問題から現れることがあります。
とくに、不安が原因で「ADHDのように見える」ことも少なくありません。
診断の過程では、早い段階で決めつけず、子どもの話をじっくり聞いて本当の理由を探ることがとても大切なのです。
カンディダ・フィンク医師は、小児・青年期精神医学および一般精神医学の専門医資格
(出典:米Psychology Today)(画像:たーとるうぃず)
現在は良い方向に向かっているとのことでよかったです。
ADHDと不安障害、一見すると抱えている困難に重なるところもあるでしょう。
必要なときには、正しい医療機関へ。
(チャーリー)