
この記事が含む Q&A
- 自閉スペクトラム症(ASD)では、触覚に過敏な反応が見られることはありますか?
- はい、特に毛の生えている皮膚の部分で強いかゆみや不快感を感じやすい傾向があります。
- かゆみや感覚過敏を和らげるための効果的な方法はありますか?
- 軽いふれあいやマッサージなどの「やさしい刺激」が有効であることが示されています。
- 自閉スペクトラム症の子どもへの支援には何が役立ちますか?
- 薬に頼らない「ふれあい」や触覚刺激を安全に行うことが、感覚過敏の改善や安らぎに効果的だと考えられます。
自閉スペクトラム症(ASD)では、人とのコミュニケーションの難しさや同じ行動を繰り返す傾向に加え、音・光・触覚などの感覚に対する反応が他の人と異なることがあります。
なかでも「触れられるのが苦手」といった触覚の敏感さはよく知られていますが、「かゆみ」に対する感じ方については、これまでほとんど研究されていませんでした。
今回、フランスのモンペリエ大学を中心とした研究チームは、自閉スペクトラム症の原因とされるSHANK3という遺伝子に欠損があるマウス(自閉症モデルマウス)を用いて、かゆみに関する感覚過敏の仕組みを調べました。
その結果、非常に弱い皮膚刺激に対しても、通常よりも強く「かゆい」と感じている可能性があることがわかりました。
まず、研究チームはこのマウスが自閉スペクトラム症の特徴を示すかどうかを、いくつかの行動テストで確認しました。
その結果、他のマウスに関心を示さなかったり、自分の体を何度もなめる行動が多かったり、土の中におもちゃを埋める量が少なかったりと、ASDにみられる傾向と一致する行動が見られました。
次に、身体の感覚にどのような違いがあるかを調べるため、マウスの足の裏や首の後ろ(毛が生えている部分)に対して、ごく軽い刺激を加える実験が行われました。
足の裏を触った際には、自閉症モデルマウスと通常のマウスの間に大きな違いは見られませんでしたが、首の後ろにある毛のある皮膚に対しては、自閉症モデルマウスがより多く、強いかゆみ反応(首をかく動作)を示しました。
さらに、首の後ろの皮膚にごく少量の生理食塩水を注射してわざと軽い皮膚の変形(ふくらみ)を起こすと、自閉症モデルマウスは、通常のマウスよりも2倍近く長く、頻繁にかき続ける行動を見せました。
こうした結果から、自閉症モデルマウスは足のような毛のない部分では正常な感覚を示す一方で、毛のある皮膚ではかゆみに対して非常に敏感であると考えられました。
この原因を探るため、研究チームは皮膚の中にある神経の構造を詳しく観察しました。
その結果、自閉症モデルマウスでは、特定の神経(C低閾値機械受容器:C-LTMR)が皮膚の表面近くまで異常に伸びており、その長さも通常より長くなっていました。
C-LTMRは「やさしいふれあい」や「心地よさ」を感じる役割を持つ神経です。
ところが、見た目には神経が多く伸びているにもかかわらず、電気信号による検査では、その神経の反応が鈍く、感度が低下していることが判明しました。
つまり、「心地よさ」を感じ取るべき神経が正しく機能していなかったのです。
原因の一つと考えられたのが、TAFA4というタンパク質の量でした。
これはC-LTMRから分泌され、かゆみや痛みをやわらげる働きを持つとされる物質ですが、自閉症モデルマウスではこのタンパク質の発現量が少なくなっていました。
これにより、神経の働きが正常に保たれず、かゆみに対して過敏になっていた可能性があります。
研究チームは、試しにこのTAFA4をマウスに注射し、かゆみの反応がどう変わるかを調べました。
その結果、皮膚にふくらみを作ったときのかゆみはやや軽減しましたが、ごく軽い接触に対するかゆみ反応までは完全に改善されませんでした。
さらに、かゆみを引き起こすとされる別の神経(Aβ-LTMR)を薬で抑えると、自閉症モデルマウスのかゆみ反応は大きく減少しました。
これは、かゆみを起こす神経の働きが過剰になっていたことを示唆します。
つまり、「かゆみを抑える神経の機能低下」と「かゆみを起こす神経の過活動」が合わさって、今回のような強いかゆみ反応が生じていたと考えられます。
注目すべきなのは、薬を使わずに「やさしいふれあい」を行うことで、かゆみ反応が改善されたという点です。
具体的には、マウスの背中をやわらかいブラシで10日間にわたり1日数回なでるという訓練を行ったところ、自閉症モデルマウスのかゆみ反応が大幅に減り、通常のマウスとほとんど変わらないレベルになったのです。
この「やさしいふれあい」によって、機能が低下していたC-LTMRの働きが一部回復し、皮膚からの信号のバランスがとれたのではないかと考えられます。
実際に、自閉スペクトラム症のある人の中には、マッサージや軽いタッチで落ち着くと感じる人も多く、今回の実験結果はその経験を裏付けるものといえるかもしれません。
この研究は、「皮膚で感じる心地よさ」が脳や行動に大きく影響すること、そしてその感覚が自閉スペクトラム症の特徴の一部に関係している可能性を示した点で重要です。
今後の研究では、人間の感覚過敏や行動の特性と、皮膚にある感覚神経との関係がさらに明らかにされることが期待されます。
さらに、今回のような「ふれあい」を通じた非薬物的なアプローチは、今後の支援方法としても可能性を秘めています。
薬に頼らず、やさしい刺激を活用することで、かゆみや感覚の問題をやわらげ、日常生活の快適さを高める方法が見つかるかもしれません。
自閉スペクトラム症に関連する感覚の問題は、本人にとっても周囲にとっても理解しづらいことが多い分野です。
しかし、「かゆみ」や「ふれあい」に注目することで、新たな理解と支援の道が開かれる可能性があります。
(出典:Translational Psychiatry)(画像:たーとるうぃず)
うちの子もずっと、かいています。傷だらけです。
「薬を使わずに「やさしいふれあい」を行うことで、かゆみ反応が改善された」
これは、本当にすばらしい発見!
私も、タオルでやさしくこするなどを、うちの子に毎日ちょっとやってみようと思います。
(チャーリー)