
この記事が含む Q&A
- 食品添加物はADHDに影響しますか?
- 研究は一部の敏感な子どもに小さな影響を示唆する一方で、全員に影響するわけではなく、因果関係は限定的です。
- イギリスやEUではどのような対応をしていますか?
- 2010年以降、特定の着色料を含む食品に「子どもの活動や注意に影響を及ぼす可能性がある」という警告表示を義務づけています。
- ADHDと食品添加物の関係をどう判断すべきですか?
- 添加物が唯一の原因とは考えにくく、影響はごく一部の子どもに限られるため、食事全体の質と個別性を重視することが大切です。
ロバート・F・ケネディ・ジュニアは長年にわたり、食品添加物が公衆衛生を脅かす存在だと訴えてきました。
いまやアメリカの保健長官となったことで、その主張はこれまで以上に重みを増しています。
アメリカでは8種類の合成着色料を食品から段階的に排除する計画が進められており、その理由としてADHD(注意欠如・多動症)との関連が指摘されています。
これによって、長年続いてきた論争に再び火がつきました。
食品添加物は昔から疑いの目で見られてきました。
イギリスでは20年近く前に「添加物禁止」を掲げたキャンペーンが展開され、2017年には食品基準庁の調査でイギリス国民の約3割が「合成化学物質は健康に害がある」と考えていることが示されました。
アメリカでは今年初めにはアリゾナ州やニューヨーク州がすでに学校給食から添加物を排除しています。
しかし、果たしてその根拠は十分なのでしょうか。
ADHDは、注意の持続の難しさ、多動、衝動性といった症状を特徴とする発達上の状態です。
原因はひとつではなく、遺伝や妊娠中の物質曝露、鉛のような毒素、低出生体重、幼少期のネグレクトなどが関与します。
また、多動はADHDに限らず、不安、興奮、睡眠障害、感覚の過負荷によっても引き起こされます。
2021年、カリフォルニア州の環境保健危険評価局は「食品の着色料が一部の敏感な子どもで多動を刺激する可能性がある」と結論づけました。
ただし、すべての子どもに影響が出るわけではなく、もともと脆弱性を持つ子どもに症状を悪化させる可能性があるという報告です。
その影響は小さく、多くは親の観察といった主観的な報告で捉えられるにとどまり、客観的な測定では確認されにくいことも指摘されています。
さらに、「臨床的に意味があるかどうか」については専門家の間で議論が続いています。
高い添加物摂取は、砂糖や脂肪が多く、食物繊維やビタミン・ミネラルが少ない「超加工食品」の摂取と密接に結びついています。
つまり「問題は添加物ではなく食事全体なのではないか」という疑問も出ています。
超加工食品の摂取は低所得層に多く、ADHDのリスクも同様に高い傾向があります。
そのため「ADHDは貧困や不十分な食生活の指標でもある」という見方もあるのです。
イギリスで2007年に行われた大規模調査では、複数の添加物を子どもに与えて行動を観察しましたが、欧州食品安全機関の結論は「一部の子どもに小さな影響があるという限定的な証拠しかない」というものでした。
2009年のアイルランドの研究では「実験で用いられた添加物の量は通常の食生活よりはるかに多い」と指摘され、日常的な摂取量での影響は不明確とされています。
それでも予防的な立場から、2010年以降、イギリスやEUでは特定の着色料を含む食品に「子どもの活動や注意に影響を及ぼす可能性がある」という警告表示を義務づけています。
科学的根拠は乏しくても「安全のために」という判断でした。
一方で「自然=安全」という考えも誤解を招きます。
モルヒネやコカインは植物由来ですが強い危険性がありますし、オーストラリアでは毒キノコによる死亡例も報告されています。
実際、植物の5〜20%は人間に有害とされており、「自然だから安心」とは言えません。
食品と多動の関係を探るために、「少数食品(オリゴアンティジェニック)食」という方法も試されています。
ごく限られた食材だけを与え、そこから一つずつ食品を再導入して反応を調べるというものです。
1985年にロンドンで行われた研究では、牛乳で64%、ブドウで49%、卵で29%など、添加物ではない食品でも多動の反応が出ることが明らかになりました。
つまり、添加物だけを除いても解決しない場合があるのです。
こうした食事実験から「添加物への反応は少数の子どもに限られる」という知見が得られています。
2017年のレビューでは「少数食品食はADHDに有効な治療となる可能性がある」と評価されました。
薬に反応しない、あるいは薬がまだ使えない子どもにとって選択肢となりうるという見方です。
結論として、食品添加物がADHDの唯一の原因とは考えにくく、影響があるとしてもごく一部の子どもに限られるとみられます。
もし子どもの行動が食事と関係しているように思える場合は、食事記録をつけることでパターンを見つけられるかもしれません。
ただし、自己判断で極端な除去食を行うことは栄養不足のリスクがあるため、必ず専門家の助言を受ける必要があります。
子ども一人ひとりに違いがあり、ある子に効果がある方法が別の子には当てはまらないこともあるのです。
「食品添加物とADHD」をめぐる議論は科学的な決着がついているわけではなく、「一部の子どもには影響があるかもしれない」という段階です。
心配だからと全てを避けるのではなく、食事全体の質や子どもの個別性に目を向けることが大切だといえるでしょう。
(出典:THE CONVERSATION)(画像:たーとるうぃず)
なんでも、すぐに短絡的に信じたりしてはいけません。
悪意のつけ入る隙となります。
冷静に、正しい医療機関からの科学的な情報に頼ってください。
(チャーリー)