
この記事が含む Q&A
- レダー(LeDeR)とは何ですか?
- 知的障害や自閉症のある人の死の原因を調べ、今後の医療・支援を改善する制度です。
- 2023年の報告で「防げたはずの死」はどのくらいで、主な死因は何ですか?
- 防げたはずの死は38.8%で、呼吸器の病気(インフルエンザ・肺炎)、消化管がん、虚血性心疾患が目立ちます。
- 本報告で挙げられている課題と改善点は何ですか?
- 遅れをなくすこと、隙間をなくすこと、本人や家族が納得できる支援を整えること、DNACPRの適切な説明・手続き・地域社会の協力が重要です。
イギリスでは、知的障害や自閉症のある人の「亡くなり方」から学び、これからの命を守るために生かしていこうという 国の制度があります。
それが「LeDeR(レダー)」と呼ばれる仕組みです。
レダーは2017年に始まりました。
正式名称は「Learning from Lives and Deaths – People with a learning disability and autistic people(知的障害や自閉症のある人の暮らしや亡くなり方から学ぶ)」です。
この制度は、亡くなった方の記録を集め、その人の人生や医療の流れを調べて、なぜ命が短くなってしまったのかを考えるものです。
そして「どうすれば次の人の命を守れるか」を見つけ出し、医療や支援の改善につなげることを目的としています。
2023年の報告書では、3,556人の死亡が報告されました。
そのうち男性は半分以上でした。
亡くなった方の年齢を見てみると、ちょうど真ん中にあたる「中央値」は62.5歳。
これは一般の人よりおよそ20年も早く、65歳になる前に亡くなる人が6割もいました。
誕生日や結婚式、家族との時間といった「本来なら体験できたはずの出来事」が奪われてしまっているのです。
死因として多かったのは、肺炎などの呼吸器の病気、心臓や血管の病気、そしてがんでした。
その中でも「防げたかもしれない死」としてとくに目立ったのは、①インフルエンザや肺炎、②消化管(胃や腸など)のがん、③心臓の血管が詰まる病気(虚血性心疾患)でした。
これらは予防や早めの治療で助かる可能性が高い病気です。
報告書では、2023年に亡くなった人のうち「防げたはずの死」が38.8%にものぼるとしています。これは一般の人の約2倍です。
また、どこで亡くなるかにも大きな違いがありました。
一般の人はおよそ4割が病院で亡くなりますが、知的障害のある人は57.3%と半数以上が病院でした。
自宅で亡くなる人は28.5%にとどまりました。
「本当は家で家族と一緒に最期を迎えたかった」という願いが、かなえられないままになっている現実があるのです。
心肺蘇生を行わないという決定(DNACPR=心臓が止まっても心臓マッサージなどをしないこと)についても調べられました。
亡くなった方の約4人に3人はDNACPRがありましたが、そのうち3分の1以上で文書の作り方や手続きに不備がありました。
これは「本人や家族がどのように説明を受け、理解していたのか」に深く関わる問題です。
報告書では、亡くなるまでに起きた「困りごと」も整理されています。
たとえば「治療やケアが遅れた」「病院やサービスの連携がうまくいかなかった」「決められたガイドラインが守られなかった」「支援の隙間に落ちてしまった」などです。
こうしたことが積み重なると、命にかかわる事態になりやすいとされています。
一方で「よくできていたケア」も少しずつ増えており、前よりも改善が見られるケースもあると報告されています。
さらに、経済的に厳しい地域に住む人ほど若くして亡くなる割合が高いこともわかりました。
亡くなった人の約4割が、イギリスの中で「もっとも貧しい」とされる地域に暮らしていたのです。
お金の問題が健康や寿命に大きく関わっていることは、日本でも重なる部分があるでしょう。
自閉症だけの診断で亡くなった人のデータも少しずつ集められています。
人数はまだ少ないのですが、やはり一般の人より早く亡くなる傾向があり、男性が大半を占めていました。
重い障害を持つ人、少数民族の人など、背景によってさらに不利な立場に置かれているケースも浮かび上がっています。
報告書には、当事者の声も載っています。
「私たちはクリスマスに空いた椅子になりたくない」
「大切な行事にいない存在ではなく、生きて一緒にいたい」と。
これは数字の奥にある、ひとりひとりの人生を強く思い出させてくれる言葉です。
まとめると、レダーの報告は「知的障害や自閉症があると命が短くなりやすい」という悲しい現実を示していますが、それは変えられない運命ではありません。
肺炎やがん、心臓病など、きちんと予防や治療をすれば助けられる病気が多いのです。
大切なのは「遅れをなくすこと」「隙間をなくすこと」「本人や家族が納得できる支援を整えること」です。
そして地域や社会全体が理解し、協力していくことが欠かせません。
この報告書は、命を失った人たちの人生を無駄にしないために書かれています。
だからこそ読む私たちにも、「これからどう行動するのか」を問いかけています。
一人でも多くの人が、誕生日や結婚式や家族との時間をあたりまえに迎えられるようにするために。
(出典:英キングス・カレッジ・オブ・ロンドン)(画像:たーとるうぃず)
うちの子は、重度自閉症で知的障害もあり、話すこともできません。
病気になったりケガをしても、泣いたりするだけで、どこが悪いのか痛いのか、親でもわからないときがよくあります。
でも、
「しかたない」
では、すませたくありません。私はできる限り、気づこう、わかろうと取り組んできました。
>大切なのは「遅れをなくすこと」「隙間をなくすこと」「本人や家族が納得できる支援を整えること」
本当にそうだと思います。
そして、知りたくないことを、制度化して知る。
この英国の制度は、今生きている人の命を守ることに大きく貢献するものと思います。
「一人でも多くの人が、誕生日や結婚式や家族との時間をあたりまえに迎えられるようにするために。」
(チャーリー)