
この記事が含む Q&A
- 女の子の自閉症は「見えにくい」特徴があるとされますか?
- 家庭での特徴と検査室での様子が異なることや、カモフラージュの可能性が理由として挙げられます。
- 評価する際はどの情報源を組み合わせるべきですか?
- 親の質問票、観察ツール、日常生活の力の測定を組み合わせ、過去の発達経過も考慮します。
- 支援の方向性は何に焦点を当てるべきですか?
- 特に社会性に焦点を当て、友だち関係や会話の流れ、休息計画などを取り入れることが推奨されます。
自閉症は男の子に多いとされますが、知的障害を伴わない女の子ではその特徴が目立ちにくく、診断や支援が遅れることがしばしばあります。
アメリカのシンシナティ小児病院医療センター、シンシナティ大学、ウエスタン・ケンタッキー大学の研究チームは、知能が平均以上の女の子たちを対象に、自閉症の特性を詳しく分析しました。
対象は7歳5か月から15歳2か月の女の子37名で、このうち18名は自閉症の診断があり、19名は発達が典型的な子どもでした。
両グループは年齢やIQでそろえられており、同じ条件で比較できるように設計されていました。
研究では、親が答える質問票(SCQ)、観察をもとに行う診断ツール(ADOS-2)、そして日常生活の力を測定する適応行動尺度(VABS-2)が用いられました。
これらを組み合わせることで、日常生活と検査場面の両方から女の子の自閉症の特徴を把握することが試みられました。
まず明らかになったのは、親の報告と観察検査の結果が必ずしも一致しないという点です。
親の回答では、自閉症のある女の子のほとんどが強いこだわりや反復的な行動を示しているとされました。
しかし、観察場面ではその差が顕著に出たのはごく一部にとどまりました。
つまり、家庭や学校で日常的に見える特徴が、検査室の短い時間では目立たないことがあるのです。
これは、女の子が興味の対象を動物や有名人といった社会的に受け入れられやすいものに向けやすいことや、検査中には特性を抑えてしまうこと、あるいは周囲に合わせる「カモフラージュ」を行う可能性が関係していると考えられます。
社会的コミュニケーションについても同じようなねじれが見られました。
表情や視線、友だちへの関心など、一見「できている」と感じられる部分も少なくありませんでした。
しかし、会話のやり取りを続ける力や、イントネーションの使い方といった部分では明確な差が示されました。
女の子の自閉症は、強みと弱みが入り混じり、外からは分かりにくい形で表れるのです。
適応行動の調査では、自閉症のある女の子たちの総合スコアが平均より低いことが分かりました。
とくに「社会性」の領域が弱く、友だちづきあいや遊び方、感情のやりとりといった場面で困難が大きいことが示されました。
コミュニケーションや日常生活のスコアも低めで、知能が平均以上でも実際の生活の中で支援が必要であることが明らかになりました。
また、この研究では興味深い関連も発見されました。
自閉症群の中で、親が「コミュニケーションの難しさ」を強く感じている子どもほど、観察場面では反復行動が目立たないという逆の関係があったのです。
このことは、一つの側面だけを見て全体を判断してしまう危険性を示しています。
子どもの理解には、複数の観点からの情報を組み合わせることが欠かせません。
こうした結果は、臨床や教育の現場に大きな示唆を与えます。
女の子の自閉症を評価するときには、短時間の観察だけでは不十分です。
家庭や学校からの情報、そしてこれまでの発達の経過を丁寧に聞き取ることが必要です。
診断基準でも示されているように、現在の様子だけでなく過去の姿を含めて判断することが、女の子の場合は特に重要です。
さらに、現在広く使われている評価方法や診断基準は、多くが男の子のデータをもとに作られているため、女の子特有の表れ方を拾いにくいという課題もあります。
そのため、検査の数値を重視しつつも、女の子のプロフィールを想定した読み替えが求められます。複数の情報源を組み合わせて、より正確に理解する工夫が不可欠です。
支援の方向性としては、適応行動のうち特に「社会性」に焦点を当てる必要があります。
たとえば、友だちとの会話の流れをカードで練習する、活動の進行をタイムラインで見える化する、放課後や休み時間の過ごし方を事前に一緒に考えて選べる形にする、感情が高ぶったときに落ち着ける場所や方法を決めておく、などです。
女の子の多くは「その場では合わせられるけれど、後で消耗する」というパターンがあるため、休息の計画を組み込むことも重要です。
家庭での工夫も大切です。
外で無理をしている分、家でこだわりや反復行動が強く出るのは自然なことです。
そこで、興味を安全に深められる時間と場所を用意する、予定や変更を前もって視覚的に示す、短時間で「会話の成功体験」を積めるやり取りの枠を設けるといった工夫が役立ちます。
この研究の強みは、女の子に対象を絞り、知能の条件をそろえた上で、質問票や観察、日常生活の力を細かい項目ごとに分析した点にあります。
具体的に「どの部分でつまずきやすいのか」を見える形で示したことは、支援に直結する成果といえます。
ただし、サンプルの規模が小さいことや、男の子との直接比較がないこと、評価方法自体が男の子中心に作られていることなど、限界もあります。
今後はより大規模での検証や、女の子に合った評価方法の整備が求められます。
今回の研究から浮かび上がったのは、「女の子の自閉症は、見えにくい」という現実です。
短時間の検査で「大丈夫そう」と判断されても、生活の中では強い困難を抱えていることがあります。
数字や検査の結果にとどまらず、日々の暮らしでのサインをしっかりと受け止めることが大切です。
知能の高さに隠されがちな社会性の弱さに目を向け、強みを生かしつつ弱さを丁寧に支える。
そうした姿勢こそが、女の子たちの未来を広げるための鍵になるのです。
(出典: Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07035-z)(画像:たーとるうぃず)
「わかりにくい」
けれど、
「コミュニケーションや日常生活のスコアも低めで、知能が平均以上でも実際の生活の中で支援が必要である」
を、まず知っておかなければなりません。
(チャーリー)