この記事が含む Q&A
- ADHDの子どもでは全体の動きのリズムに大差はないものの、タイプ別には夜の就寝前に混合型が不注意型より活発になるという差が見られるのですか?
- はい、休みの日の就寝前に混合型が他タイプより活発な傾向があり、睡眠の問題と関係する可能性があります。
- 日光を浴びる時間と活動リズムの関係は、ADHDとない子どもでどう異なるのですか?
- 一般の子どもでは日光時間が長いほどリズムが整いやすいですが、ADHDの子どもは外に出る時間が短く日光も少なく、平日より休日でこの関係が強く現れます。
- ADHDの支援にはどんな生活実践が有効と考えられていますか?
- 毎日同じ就寝・起床時間を保ち、就寝前の光を減らし静かな時間を作り、外で過ごす時間を増やすといったリズムを整える工夫が有効です。
注意欠如・多動症(ADHD)のある子どもたちは、よく動き、眠りにつきにくい傾向があるといわれています。
しかし、その「動き」や「睡眠のリズム」が、1日の中でどのように変化しているのかを、実際の生活の中で丸一日、細かく測定した研究はほとんどありません。
今回、ドイツ・ハイデルベルク大学医学部を中心とする研究チームは、ADHDのある子どもと、ない子どもを対象に、腕時計型の装置で24時間の動きを2週間記録し、数学的な方法でそのリズムを分析しました。
その結果、ADHDのある子どもたちは、全体的な活動パターンでは一般の子どもと大きな差がありませんでしたが、ADHDのタイプごとにみると、夜の時間帯、とくに寝る前の時間に違いがあることがわかりました。
また、幼児期の睡眠の問題や、朝型・夜型といった体内時計の傾向が、後の生活リズムに関係していることも示されました。
この研究は、ADHDの「落ち着きのなさ」を1日のリズム全体の中でとらえようとしたものです。
診断や支援を考えるうえで、昼と夜の動きをつなげて理解することの大切さを示しています。
研究には、6歳から12歳の子ども74人が参加しました。
そのうち35人がADHDと診断され、39人は発達に問題のない対照群でした。ADHDの子どもたちは、「不注意優勢型」「多動・衝動型」「混合型」の3つのタイプに分けられました。
研究では、アクチグラフと呼ばれる小型の装置を、利き手ではない手首に14日間つけてもらいました。
この装置は、眠っている間も含め、1分ごとの動きを連続的に記録します。
子どもと保護者は、活動内容や就寝・起床の時間を紙の日記に記入しました。
分析には、単純な平均比較ではなく、「機能的線形モデリング(FLM)」という方法が使われました。
これは、1日の動きを連続的な波として解析するもので、どの時間帯に差があるのかを正確に見つけることができます。
結果をみると、ADHD群と対照群のあいだに、全体として有意な活動リズムの差はありませんでした。
学校のある日でも休みの日でも、1日を通しての動きの強さには大きな違いがなかったのです。
ただし、ADHDの中のタイプ別にみると違いがありました。
休みの日の午後8時ごろ、つまり就寝前の時間帯に、「混合型」の子どもたちは「不注意型」の子どもたちよりも明らかに活発に動いていました。
この時間帯の落ち着きのなさは、寝つきの悪さや夜更かしと関係している可能性があると考えられます。
一方で、学校のある日は、こうした差が見られませんでした。
研究チームは、これは平日に保護者が就寝時刻をより厳密に管理しているためではないかと考えています。
また、活動リズムと「クロノタイプ(体内時計の傾向)」との関係も分析されました。
クロノタイプとは、人が自然に眠くなる時間帯の傾向を示すもので、朝型(早寝早起き)と夜型(夜更かし型)に分かれます。
ADHDの子どもでは、夜型の子ほど夜11時前後の活動量が高く、朝型の子では朝7時ごろの活動量が高いという傾向がありました。
これは、体内時計の違いが1日の動き方に反映されていることを示します。
興味深いことに、この関係は休みの日のほうが強く、平日では弱くなっていました。
やはり、平日は家庭の生活リズムが一定に保たれているためと考えられます。
一方、日光を浴びる時間と活動リズムとの関係を調べたところ、一般の子どもたちでは、日中に長く外にいた子ほど、翌日の活動パターンが整っていました。
しかしADHDの子どもでは、この関係が見られませんでした。
調査によると、ADHDの子どもは平均して外に出る時間が1時間以上短く、日光を浴びる時間も少なかったのです。
研究チームは、宿題に時間がかかること、ゲームなどのスクリーン時間が長いこと、そして親自身もADHD傾向をもつ場合があることなどが、その背景にあると指摘しています。
日光は体内時計を整える「光の合図(ツァイトゲーバー)」として重要であり、睡眠リズムを改善する光療法の効果がADHDにも有望だとする先行研究もあります。
今回の結果は、外遊びや自然光に触れることの大切さを改めて示すものです。
さらに、幼児期(18〜36か月ごろ)の睡眠トラブルが、後の活動リズムと関係していることも明らかになりました。
幼いころに寝つきや夜泣きの問題があった子どもでは、小学生になった後も夜1時から3時ごろ、あるいは夜9時ごろに体の動きが多くなる傾向が見られました。
この結果は、幼児期の睡眠問題がその後の睡眠習慣やADHDの症状と関連していることを示唆しています。
実際、ADHD群の37%が幼児期に睡眠の問題を示しており、現在も約3分の1の子どもが睡眠の困りごとを抱えていました。
ただし、このような早期の問題が必ずしもADHDを引き起こすわけではなく、睡眠リズムを整える環境や生活習慣によって改善できる可能性があります。
研究チームは、ADHDの子どもとそうでない子どもで「1日の動きの波」が大きく異なるわけではなかったことを重要な発見としています。
つまり、ADHDの特徴は、常に動いているというよりも、「どの時間帯に」「どのように動きやすいか」という違いとして現れているのです。
とくに「混合型」の子どもでは、夜の活動が強く出やすい傾向がありました。
このような情報は、個々の生活リズムに合わせた支援を考えるうえで役立ちます。
たとえば、寝る前の時間を静かに過ごす工夫や、日中に外で体を動かす習慣づけなどが、その子のタイプや体内時計に合わせて計画できるようになります。
ただし、この研究にはいくつかの制約もあります。
ADHDの子どもの多くが薬を服用していたため、薬の影響で活動量が抑えられていた可能性があります。
メチルフェニデート系の薬は、日中の多動を減らす効果がある一方で、眠りにくくなる副作用も知られています。
そのため、薬の影響を完全に分けてみることはできません。
また、対象となった人数が少なく、とくに「多動・衝動型」の子どもは4人しかいなかったため、タイプ間の比較には慎重さが必要です。
さらに、睡眠や光のデータは親の報告に基づいており、実際の環境を客観的に測ったわけではありません。
それでも、この研究はADHDの子どもを「1日のリズムの中でとらえる」という新しい視点を示しています。
これまでの多くの研究が「夜の睡眠」だけに注目していたのに対し、この研究では「昼と夜のつながり」を丸ごと見ています。
子どもの体内時計や活動パターンを理解することで、「いつ支援をするのが効果的か」「どんな時間帯に困難が起きやすいか」がより明確になります。
ADHDの診断や支援の現場では、今も主に問診や質問紙による主観的な情報が使われています。
しかし、このような客観的な「動きの記録」を取り入れれば、より具体的な支援が可能になります。
アクチグラフのような装置は、比較的安価で長期間のデータが得られるため、今後の臨床応用が期待されます。
研究チームは、今後はより大きな集団で、薬を服用していない子どもを含めた長期的な追跡を行う必要があるとしています。
そうした研究によって、幼児期の睡眠や光の環境が、どのようにADHDの発達に影響するのかがより正確にわかるでしょう。
ADHDの子どもたちは、しばしば「落ち着きがない」「集中できない」と言われます。
しかし、今回の研究が示したのは、単に「よく動く」ではなく、「動き方のリズム」に個性があるということです。
夜に動きが強く出やすい子もいれば、朝に活発な子もいます。
その背景には、体内時計の違いや、睡眠リズム、光への反応、そして幼いころの生活環境など、さまざまな要因が関係しています。
つまり、「ADHDだからこうだ」と一括りにするのではなく、その子の1日のリズムを理解し、生活の中でどう支えていくかを考えることが大切なのです。
研究を主導したハイデルベルク大学医学部のチームは、「ADHDの診断や治療では、昼と夜の両方を見なければならない」と述べています。
日中の活動量や集中のしやすさだけでなく、夜の落ち着き方や眠り方も、その子どもの全体像を理解する手がかりになるというのです。
そして、親や支援者ができることとして、次のような点が挙げられます。
一つは、睡眠のリズムを整えることです。
毎日同じ時間に寝て起きること、寝る前の光(とくにスクリーンの光)を減らすこと、静かな時間を過ごすこと。
もう一つは、外で過ごす時間を増やすことです。
自然の光を浴び、体を動かすことは、体内時計を整えるとともに、気持ちの安定にもつながります。
こうした工夫が、ADHDの症状そのものだけでなく、生活の質全体を高める小さな手がかりになるかもしれません。
この研究は、ドイツ連邦教育・研究省の支援を受けて行われました。
チームは「ESCA-life」と呼ばれる大規模なプロジェクトの一環として、ADHDの生涯にわたる支援のあり方を探っています。
今回の成果は、ADHDの理解を「症状」から「リズム」へと広げるものです。
子どもの動き、眠り、光とのかかわり——それらをつなげて見ることで、一人ひとりのリズムに合った支援が生まれていく。
そんな未来の臨床や教育の姿を、静かに示している研究です。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-24040-5)(画像:たーとるうぃず)
「ADHDの特徴は、常に動いているというよりも、「どの時間帯に」「どのように動きやすいか」という違い」
これは、目からウロコというやつですね。
(チャーリー)




























