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女性のADHDをめぐる困難に寄り添う。人生の節目に訪れる変化

time 2025/12/09

この記事を読むのに必要な時間は約 13 分です。

女性のADHDをめぐる困難に寄り添う。人生の節目に訪れる変化

この記事が含む Q&A

女の子のADHDが見落とされやすい背景と診断が遅れやすい原因は何ですか?
女の子は静かで目立たない困りごとが多く、性格のせい・年頃の変化として片づけられやすいため、平均4年程度診断が遅れることが報告されています。
成人期のADHDには月経周期などのホルモン変化がどのように影響しますか?
排卵後〜月経前で注意持続が難しくなるなど症状が揺れ、日常生活や仕事に大きく影響することがあります。
診断後の支援はどのような形が望ましいですか?
薬物治療だけでなく、心理的サポートや日常の工夫、同じ経験を持つ仲間とのつながりなどを含む包括的な支援が重要です。

ADHDという特性は、誰にとっても同じ形であらわれるわけではありません。
とくに、女の子や女性では、これまで「気づかれにくいかたち」で人生のさまざまな場面に影響を及ぼしてきたことが、最近の研究から明らかになりつつあります。
オーストラリアのサザンクイーンズランド大学とグリフィス大学を中心とした研究チームが行った今回の統合レビューは、2023年から2025年の最新研究だけを丁寧に集め、女の子から高齢期の女性まで「それぞれの時期でADHDがどのように影響するのか」を一つにつなげて示したものです。
これまで断片的だった知見をまとめ、人生全体を見通す視点を与えてくれる研究でもあります。

女の子や女性にとって、ADHDという特性がどのような負担になり、どのような強さや工夫が求められてきたのか。
そして、これから必要になる支援や診断の在り方はどのように変わるのか――研究が示した姿を丁寧に読み解いていきましょう。

女の子のADHDが見落とされやすい背景には、「ADHDは男の子に多い」「落ち着きがない子がなるもの」という長年のイメージがあります。
しかし実際には、女の子は注意がそれやすいことや、頭の中が散らかるような感覚、気持ちの切り替えに苦労することが中心となりやすく、周囲から見て「目立たない困りごと」として扱われてしまうことが少なくありません。
本人の努力で隠されてしまう面も多く、気づかれにくさが積み重なると、自己肯定感の低下や不安、うつといった二次的な困難につながりやすいという指摘が、今回のレビューの出発点として語られています。

研究チームが整理したのは、子ども時代から更年期以降までの5つの段階です。
それぞれの時期で直面する困難が異なり、しかもその多くが「診断が遅れやすいこと」と深くつながっています。それを順に見ていきます。

子ども時代と思春期は、本来ならばADHDの特徴に気づく最も早いタイミングです。
しかし、レビューに含まれた複数の研究では、女の子の診断は男の子より平均4年遅れるという結果が報告されていました。
4年という期間は、学校生活の環境が大きく変わり、友人関係が複雑さを増し、学習の負荷もぐっと高まる時期です。
その間、本人が「できない理由がわからないまま努力を続けている」状態になりやすく、自己否定感や不安を抱きやすくなります。

レビューの中には、思春期の頃から何年も相談を続けていたにもかかわらず、正確な診断にたどり着くまでに長い時間がかかった女性たちの声も紹介されていました。
彼女たちは、学業での苦労だけでなく、友人関係のすれ違い、周囲への過剰な気遣い、そして「自分は何かが足りない」と感じ続ける生活を語っています。
なかには、気づかれないまま積み重なった負担が、摂食の乱れ、自傷、アルコールや薬物への依存につながったケースも報告されていました。

この段階で最も大きな問題は、「女の子は大人しいことのほうが“普通”である」という社会の目線です。
本来であれば気づくべき困難が、“性格のせい”“年頃の変化”と片づけられてしまう。
この誤解が、早期支援の機会を奪っていると研究チームは指摘します。

成人期に入ると、これまで見えていなかった別の要素がADHDの特性に重なり始めます。
それが、ホルモンの変化です。
複数の研究が示したのは、月経周期によるADHD症状の大きな揺れでした。
なかでも排卵後〜月経前の期間に、注意の持続が難しくなる、気分の落ち込みが強くなる、イライラしやすくなるなどの変化を訴える女性が多く見られました。

研究の一部には、月経前の数日間だけ刺激薬の量を調整することで、不安や衝動性が改善した例も記録されています。
これはまだ小規模な試みであり、一般化するにはさらなる研究が必要ですが、女性特有の体のリズムに合わせた丁寧な対応が、生活の質を大きく変える可能性を示すものです。

また、ホルモン避妊薬との関係を調べた研究では、ADHDのある若い女性は、避妊薬の種類にかかわらず、うつ症状を経験する可能性が高いという結果が示されました。
こうした知見は、避妊や生理の管理について医療者と話し合う際にも、ADHDが重要な要素として考慮されるべきだということを示しています。

成人期は仕事、家庭、人間関係など、責任が増える時期でもあります。
それらがホルモンの影響と重なることで、困難が一段と表面化したり、逆に「頑張ればできる」という誤解のもと、無理を積み重ねてしまうこともあります。
研究チームは、成人期の女性にとって「自分の特性とリズムを知ること」が、健康を守るうえで重要な武器になると強調しています。

妊娠・出産期は、さらに大きな転機です。
アメリカで900万件以上の出産記録をもとに調査した研究では、ADHDのある女性は、妊娠中の高血圧、感染症、帝王切開などのリスクが高い傾向があることが示されています。
また、出生した赤ちゃんが小さく生まれる確率も、ADHDのある女性では高くなるという結果が報告されました。

もちろん、これらのリスクがADHDそのものだけで説明できるわけではありません。
喫煙や薬物使用、メンタルヘルスの問題などが複雑に絡み合っている可能性があります。
しかし、ADHDという特性が妊娠・出産に影響する可能性を医療者が適切に理解しているかどうかは、母子の健康に直結する大切な視点であると研究チームは述べています。

また、妊娠中・産後のADHD治療についてのガイドラインでは、一般的な不安・うつの症状の裏にADHDが隠れている場合があることも指摘されています。
薬物治療については慎重な判断が必要ですが、妊娠前からの計画、心理的サポート、生活の工夫などを組み合わせた包括的な支援が重要であると強調されています。

とくに産後の時期は、睡眠不足や生活リズムの乱れにより、注意力や感情のコントロールが大きく揺れやすくなる時期です。
レビューでは、こうした時期に支援が不足すると、母親としての自信を失い、孤立やメンタルヘルスの悪化につながる危険性があることが示されています。
支援の手は、出産後ほど必要になる――これは多くの女性が語った共通の実感でした。

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更年期に訪れるホルモン変化も、女性のADHDに大きく関わります。
レビューの中では、更年期前後で初めてADHDの診断を受けた女性の報告も多く紹介されています。
彼女たちの多くは、「若い頃からずっと苦労してきたのに、理由がわからなかった」と語り、診断を受けた後にようやく長年の生きづらさがつながったと述べています。

しかし、診断が救いになると同時に、「もっと早く知りたかった」「人生が変わっていたかもしれない」という喪失感を抱く女性も少なくありません。
レビューには、ADHDと自閉症の特徴が重なった女性が、長い時間をかけて誤解や否定的な評価を受け続け、それがトラウマとなっていた事例も紹介されていました。

更年期は、体の変化だけでなく、子育ての区切りや仕事上の役割の変化など、人生の再編成が起こる時期です。
そこにADHDの特性が重なることで、負担が一気に噴き出すことがあります。
研究チームは、これらの変化を「女性が人生を通して受けてきた見えない負担の積み重ね」と表現し、医療者が女性の語りに丁寧に耳を傾ける姿勢の重要性を述べています。

最後に、このレビューが最も強調するのが、「治療と支援の不足」です。
診断がついたとしても、その後に継続的な支援やカウンセリングが受けられる女性は多くありません。
レビューに含まれた多くの研究で、診断後に提供される具体的な支援が刺激薬のみであり、その後の心理的ケア、生活スキルの支援、同じ特性を持つ仲間とのつながりなどが不足していることが指摘されています。

一方で、オランダで実施された女性向けグループプログラムでは、生理周期とADHD症状の関係を理解するだけでも、女性たちが自己理解を深め、衝動的な行動や摂食の乱れを減らすなどの変化が見られました。
小規模ながら、このような性差に基づいた支援の有効性を示す事例は、今後の重要な手がかりとなります。

このレビュー論文の著者たちは、医療現場の診療が長年「男性の特徴」を基準に組み立てられてきたことを強く指摘しています。
その結果、女性は長期間にわたって見落とされ、必要な支援を受けられず、症状だけでなく心の深い部分に痕を残してしまった人も少なくありません。

今回の統合レビューは、まだ十分な数の研究が揃っていない分野だからこそ、最新の知見をまとめて課題を明確にするという重要な役割を果たしました。
女の子や女性のADHDについては、思春期、成人期、妊娠期、更年期と、それぞれの時期ごとに独特の影響があり、そしてその多くは「診断の遅れ」と「支援の不足」によってさらに複雑になっています。

これらの困難を減らしていくためには、まず医療者の側が、女性のADHDの特徴を理解し、気づきにくいサインを丁寧に拾えるようになることが求められています。
また、診断後の支援についても、薬物治療だけではなく、心理的サポートや日常の工夫、同じ経験を持つ仲間とのつながりなど、より包括的な支援へと広げていく必要があります。

さらに重要なのは、女性たちが自分の特性を恥じることなく理解し、自分を責めるのではなく「特徴として扱う」ことができる社会環境です。
レビューチームは、今後の研究がホルモンや共存する特性(自閉症など)を含めたより広い視点から行われるべきだと述べています。
これは、女性のADHDを“別の病気”として捉えるのではなく、“その人の人生の一部として、環境や体の変化とともに揺れ動くもの”として理解する姿勢を求めるものです。

この記事の最後に、レビュー論文の結論を重ね合わせると、いくつかの大切な視点が浮かび上がります。
女の子や女性のADHDは、気づかれにくく、誤解されやすい。
それが長年の生きづらさにつながりやすい。
しかし一方で、自分の特性を理解し、周囲が適切に支えることで、人生の質は大きく変わる。
診断はゴールではなく、スタートライン。
そこから始まる支援が、その人の過去の傷を癒し、未来をつくる力になる――研究チームはそのことを静かに、しかし力強く伝えています。

今回の統合レビューは、女性のADHD研究がようやく積み上がり始めた現在において、とても重要な道しるべとなる内容でした。
これからさらに、性差に基づく理解、ライフステージの変化を踏まえた支援、そして見落とされてきた声に耳を澄ませる姿勢が広がっていくことを願ってやみません。

(出典:BMC Women’s Health DOI: 10.1186/s12905-025-04123-1)(画像:たーとるうぃず)

まとめるとこんな感じです。

  1. 子ども時代
    女の子のADHDは静かで気づかれにくく、困っていても支援につながりにくい。
  2. 思春期
    理解されないまま負担が増え、不安やうつなどの二次的な問題が起こりやすい。
  3. 成人期
    月経周期などのホルモン変化で症状が揺れ、生活や仕事に大きく影響しやすい。
  4. 妊娠・出産期
    妊娠・出産に関わるリスクがやや高まり、特性への理解不足が母子の負担になりやすい。
  5. 更年期以降
    更年期の変化で症状が強まり、長年気づかれなかったADHDがようやく診断されることが多い。
  6. 一生を通して(治療・支援面)
    女性向けの支援が不足しており、診断後も必要な助けを受けにくい。

「年のせい」だけではない?ADHDの女性が経験する更年期

(チャーリー)

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