
この記事が含む Q&A
- 更年期におけるADHDの影響はどのように考えられますか?
- 研究によれば、ADHDの診断や薬の有無に関係なく、更年期症状の重さは一概には増えないとわかりました。
- 女性のADHDとホルモン変化の関係は何ですか?
- ホルモンの変化は気分や注意力に影響し、更年期もその一つとして症状の変動に関与すると考えられています。
- なぜADHDの女性は、更年期の症状と自分の状態の関係を見逃しがちなのですか?
- ADHDの症状を更年期のせいではなく、もともとの特性と誤解しやすく、自覚やケアが遅れる傾向があるためです。
注意欠如・多動症(ADHD)のある女性は、更年期になるとどのように感じているのでしょうか。
今回紹介するのは、イギリス・キングス・カレッジ・ロンドンの研究チームが行った、ADHDの診断を受けた女性と、そうでない女性の「更年期体験」の違いを調べた画期的な調査です。
対象となったのは45歳から60歳までの656人の女性。そのうち245人がすでにADHDの診断を受けていました。
この研究では、「ADHDと更年期、ふたつの要素が合わさると、どのような困難が生じるのか?」という問いに答えようとしています。
研究の背景には、ふたつの大きな関心があります。
ひとつは「女性のADHDは見過ごされがちである」という事実。
もうひとつは「ホルモンの変化がADHDの症状に与える影響」です。
思春期や妊娠期、生理周期といった、女性の一生におけるホルモンの変化は、気分や注意力、記憶力など、ADHDに関連するさまざまな要素に影響を与えることが知られています。
そして、更年期もまた、大きなホルモン変動の時期です。
研究ではまず、ADHDの診断の有無と、更年期の段階(閉経前・閉経移行期・閉経後)によって、どのような違いが見られるかを調べました。
そのために、ADHDの自己評価尺度(ASRS)や、更年期に関する複数の質問票(WHQ、MENQoL、HFRS、HFDIS)を用いて、詳細なデータを収集しました。
研究チームの仮説はこうでした。
- ADHDのある女性は、ない女性よりも更年期の症状がつらくなるのではないか。
- ADHDの薬を使っているかどうかによって、更年期症状の強さが違うのではないか。
- ADHDの症状と更年期症状の間には、何らかの関連があるのではないか。
しかし、結果は意外なものでした。
統計的に調整した上で分析を行ったところ、「ADHDの診断があるからといって、更年期の症状が重くなるとは限らない」という結果が得られたのです。
ADHDの薬を使っているかどうかでも、大きな違いは見られませんでした。
ただし、すべての参加者をまとめて分析した場合には、「ADHDの症状と更年期の不快さが関係している」という相関が確認されました。
けれども、この関係性は、ADHDのない女性でより強く見られ、ADHDのある女性ではやや弱くなるという、興味深い傾向が見つかりました。
この違いについて、研究チームは「ADHDのある女性は、不調の原因を更年期ではなく、自分のADHDのせいだと考える傾向があるのではないか」と推測しています。
つまり、記憶力の低下や集中力の困難といった症状を、更年期の変化としてではなく、もともとのADHDによるものと受け止める可能性があるのです。
また、ADHDのある女性の中には、更年期をきっかけにして、初めてADHDの診断を受けたという人もいます。
別の研究では、「閉経期に困難を感じたことで、自分の長年の生きづらさがADHDだったのかもしれない」と気づく女性がいることも報告されています。
今回の研究の対象はイギリス国内の女性たちで、ADHDの診断や治療体制、更年期のケアが十分でないという課題も背景にあります。
実際、調査に参加した更年期女性の60%以上が「更年期についての情報がほとんどない」と感じ、医療機関でも十分な支援が得られていないと答えていました。
ADHDと更年期というふたつの要因は、それぞれでも女性の生活に大きな影響を与えるものです。
そして、それらが重なるとき、見逃されがちな困難や、支援の不足が浮かび上がってきます。
この研究は「ADHDのある女性にとって更年期がどういう意味を持つのか」を明らかにした、初めての大規模調査のひとつです。
そして、症状の“感じ方”や“受け止め方”が、個人によって大きく異なることを示唆しています。
研究チームは今後、より長期的に、そして丁寧に女性たちの声を聞く研究が必要だと提言しています。
定量的なアンケートだけでなく、インタビューや質的研究を通じて、それぞれの女性がどのように自分の身体や気持ちと向き合っているのかを探ることが重要だというのです。
ADHDのある女性にとって、更年期は単なる「年齢的な変化」ではなく、自分自身を見つめ直すひとつの節目にもなり得ます。
「なんだか前より集中できない」「気分の波がつらい」「自分の変化が説明できない」
そんなときに「それは更年期だから仕方ない」とだけ片づけられてしまうと、ADHDの特性が見逃されてしまうかもしれませんし、逆に「ずっとADHDだったから、今のつらさも全部そうだ」と決めつけてしまえば、更年期への適切なケアを受けそびれてしまうかもしれません。
本当に必要なのは、「どちらの可能性も視野に入れて考える視点」ではないでしょうか。
ADHDと更年期、どちらかひとつではなく、「その重なり」に目を向けること。それが、これからの女性の支援にとって、大切な一歩になると感じさせてくれる研究でした。
(出典:Journal of Attention Disorders)(画像:たーとるうぃず)
更年期だから、ADHDだから、
とどちらか一方だけのせいにしないことが、重要なのですね。
(チャーリー)