この記事が含む Q&A
- 二重の特別さ(2E)とは何ですか?
- 知能が高い一方でADHDの特性を併せ持つ子どもたちのことを指します。
- ギフテッドでADHDのある子どもの心の健康に関して、どのような問題が報告されていますか?
- 友だち関係の難しさや自己評価の低さ、感情の調整の難しさが共通して挙げられています。
- 支援の要因として研究が示唆しているものは何ですか?
- 理解のある教師や安心できる友人といった環境が、意欲や心の安定を支える可能性が示されています。
知的に高い能力を持ちながら、同時にADHD(注意欠如・多動症)の特性をあわせ持つ子どもたちは、「二重の特別さ(トワイス・エクセプショナル、2E)」と呼ばれています。
学力や理解力が高い一方で、集中の持続や感情の調整、人との関係づくりに困難を感じやすいという、複雑な姿を持つ子どもたちです。
アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン教育学部の研究チームは、こうしたギフテッドかつADHDのある子どもたちの心の健康に、どのような社会的・感情的要因が関わっているのかを明らかにするため、系統的レビュー研究を行いました。
この研究は、学業面ではなく「こころの側面」に焦点を当てた点が大きな特徴です 。
研究チームが注目したのは、これまでの研究が主に「診断の難しさ」や「学習上の問題」に集中してきた一方で、本人がどのような気持ちで学校生活を送り、人間関係を経験しているのかについては、十分に整理されてこなかったという点でした。
このレビューでは、2000年以降に発表された研究の中から、厳密な条件を満たした10本の研究が選ばれました。
対象は6歳から18歳までの子どもで、知能検査などの標準化された方法でギフテッドと判定され、かつ専門家によってADHDと診断されているケースに限定されています。
分析の結果、彼らの心の健康に関わる特徴が、いくつかの共通したかたちで浮かび上がってきました。

まず非常に一貫して示されていたのが、友だち関係の難しさです。
多くの研究で、ギフテッドでADHDのある子どもたちは、同年代の子どもとの関係を築いたり、維持したりすることに強い困難を感じやすいことが報告されていました。
知的な会話は得意でも、場の空気を読むことや、暗黙のルールを理解することが難しく、誤解されたり孤立したりしやすい状況に置かれがちだとされています。
とくに重要なのは、知的な高さが必ずしも社会性を守ってくれるわけではないという点です。
一般的には、ギフテッドの子どもは自己肯定感が高いと考えられがちですが、このレビューでは、ADHDを併せ持つ場合、むしろ逆の傾向が示されていました。自己評価や自尊感情が低く、「自分はうまくできない」「周囲と合わない」という感覚を抱えやすいことが、複数の研究で確認されています。
背景には、周囲からの期待とのズレがあります。
知的に優れているため「できて当たり前」と見られやすい一方で、注意の切り替えや感情のコントロールがうまくいかず、そのギャップに本人が強く苦しむことになります。
その結果、自分を責めたり、失敗を過度に意識したりする傾向が強まることが示唆されていました。

また、感情の調整の難しさも、心の健康に大きく影響している要因として挙げられています。
退屈への耐性の低さ、フラストレーションの高まりやすさ、不安や落ち込みの強さなどが、ギフテッドでADHDのある子どもたちに共通して見られました。
知的な理解が深い分、自分の置かれている状況を鋭く自覚し、それがかえってストレスを強める場合もあると考えられています。
さらに、研究の中では、性別による違いも示唆されていました。
男の子では衝動性や行動面の問題が目立ちやすく、友人関係で拒否される経験が多い傾向が報告されています。
一方、女の子では、困難を内側に抱え込み、周囲に合わせようと無理をする「カモフラージュ」のような行動が増え、自己評価の低下や孤立感につながるケースが指摘されていました。
注目すべき点として、このレビューで取り上げられた10本の研究のうち、明確な「保護要因(支えになる要素)」を示した研究は、ほとんど存在しなかったという事実があります。
ギフテッドであること自体は、ADHDによる社会的・感情的な困難を和らげる要因にはなっていませんでした。
ただし、唯一示唆された希望のある要素として、理解のある教師や安心できる友人の存在が挙げられています。
学力だけでなく、その子の感じ方や困りごとを理解し、適切に関わる大人や仲間がいることで、意欲や心の安定が支えられる可能性が示されていました。

研究チームは、こうした結果を、ブロンフェンブレンナーの生態学的発達モデルの視点から解釈しています。
個人の特性と、学校や人間関係といった環境との相互作用が、心の健康に大きな影響を与えているという考え方です。
つまり、本人の能力や特性だけでなく、どのような環境に置かれているかが極めて重要だということです。
このレビューは、ギフテッドでADHDのある子どもたちの困難を「能力が高いのにうまくいかない不思議な存在」としてではなく、理解と支援を必要とする存在として捉え直す重要性を示しています。
学業の支援だけでなく、感情や人間関係に目を向けた包括的なサポートが欠かせないことを、研究は伝えています。
研究チームは今後の課題として、より長期的な追跡研究や、文化の異なる地域での調査、そして支援の効果を検証する研究の必要性を挙げています。
ギフテッドとADHDの両方を持つ子どもたちが、自分の力を発揮しながら、安心して成長していくために、社会全体の理解が求められていることを、このレビューは明確に示していました 。
(出典:education sciences DOI: 10.3390/educsci15121671)(画像:たーとるうぃず)
ギフテッドでADHDのある子どもたちは、同年代の子どもとの関係を築いたり、維持したりすることに強い困難を感じやすいことが報告されていました。
広く知られてほしいと思います。
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(チャーリー)




























