この記事が含む Q&A
- ロボットを用いたPRTの効果はどのようなものですか?
- ロボット併用グループではセッション後の子どもの感情がポジティブに変化する傾向があり、社会的コミュニケーションの指標も改善傾向でした。
- どのグループで有意な変化が見られましたか?
- ロボットと指導者併用のグループで感情の変化が有意に、対照グループでは有意な改善は見られませんでした。
- 保護者の関与や家庭での実践はどうでしたか?
- ロボットグループでは保護者の関与が高まりましたが、家庭での継続は疲労や時間の制約で難しい点がありました。
自閉症のある子どもへの支援では、「どんな方法が、その子にとって無理が少なく、前向きな変化につながるのか」が、長く問い続けられてきました。今回紹介する研究は、そうした問いに対して、「ロボット」という一見すると意外な存在が、子どもや家族の体験にどのような影響を与えるのかを、丁寧に検証したものです。
この研究を行ったのは、スペインの大学・研究機関からなる研究チームです。
研究の中心となっているのは、自閉症のある子どもに対する支援方法の一つである PRT(ピボタル・レスポンス・トリートメント)と、人型のソーシャルロボット「ペッパー」を組み合わせた介入です。
自閉症は、社会的なやりとりやコミュニケーションの困難さ、興味や行動の偏りなどを特徴とする神経発達の特性です。
幼い時期からその兆しが現れることが多く、早い段階で、その子に合った支援を行うことが重要だとされています。

PRTは特定の行動だけを訓練するのではなく、「やる気」「自発性」「複数の手がかりへの反応」といった発達の要となる部分に働きかけることで、幅広い領域に良い影響が広がると考えられています。
子どもの興味や日常の場面を活かす点も特徴で、楽しさや主体性を大切にする支援として知られています。
この研究では、そうしたPRTを、ロボットが支援役として関わる形で行った場合、子どもの感情や、支援への取り組み方にどのような違いが生まれるのかが調べられました。
使用されたのは、人と会話し、身振りや画面操作を通じてやりとりができるヒト型ロボット「ペッパー」です。
ペッパーは感情認識やジェスチャーを備え、同じ動作や反応を安定して繰り返すことができる点が特徴です。
研究に参加したのは、5歳から12歳までの自閉症のある子どもたちです。
子どもたちは三つのグループに分けられました。
一つ目は、PRTをロボットと指導者が一緒に行うグループ、
二つ目は、人の指導者のみでPRTを行うグループ、
そして三つ目は、研究期間中にPRTを受けない対照グループです。
ロボットを用いたグループと人のみのグループでは、週2回、1回20分のセッションを計12回行いました。

研究では、子どもがセッションの前後でどのような感情を感じていたかを、子ども自身と保護者の両方から記録しています。
その際に使われたのが、「エモディアナ」という感情評価の仕組みを、自閉症のある幼い子ども向けに簡略化したものです。
喜び、怒り、悲しみの三つの感情を、顔のイラストと色の強さで選ぶ形式で、言葉による表現が難しい子どもでも答えやすいよう工夫されています。
結果を見ると、ロボットを用いたグループでは、セッション前後で子どもの感情に有意な変化が見られました。
統計的な分析でも、ロボットを用いた場合には、セッション後の感情が前よりもポジティブになる傾向がはっきりと示されています。
一方で、人の指導者のみのグループでは、前後の感情の変化は見られたものの、統計的に有意とは言えない結果でした。
興味深いのは、保護者が感じ取った子どもの様子です。
どちらのグループでも、多くの保護者は「子どもは楽しそうだった」「うれしそうだった」と答えていますが、ロボットを用いたグループでは、その理由として「ロボットとのやりとり」や「ロボットとの遊び」が多く挙げられていました。
人の指導者のみのグループでは、「指導者との関わり」や「ゲーム内容」が、感情の理由としてより均等に挙げられています。
また、この研究では、子ども本人だけでなく、保護者の関わり方にも注目しています。
セッションごとに行われた質問紙を通じて、保護者がどの程度支援に参加し、家庭で学んだ関わり方を実践しようとしていたかが記録されました。
その結果、ロボットを用いたグループでは、保護者の回答数が比較的多く、セッションへの関心や参加意欲が高く保たれていたことが示されています。

一方で、家庭での継続的な実践については、どちらのグループでも十分とは言えない面がありました。
疲労や時間の制約などにより、学んだ方法を毎日一貫して行うことは難しかったと報告されています。
この点について、研究チームは、保護者自身の負担や心理的な余裕を考慮した支援設計の必要性を指摘しています。
社会的コミュニケーションの変化については、「社会的コミュニケーション質問紙(SCQ)」を用いて評価が行われました。
ロボットを用いたグループと人の指導者のみのグループでは、時間の経過とともにスコアが改善する傾向が見られましたが、対照グループでは、変動が大きく、安定した改善は見られませんでした。
これは、PRTそのものが、社会的なやりとりに関する特性に良い影響を与えている可能性を示しています。
研究の考察では、ロボットを用いた支援が持つ特徴として、「予測しやすさ」「反応の一貫性」「感情的な圧力の少なさ」が挙げられています。
人との関わりが負担になりやすい子どもにとって、ロボットとのやりとりは安心感をもたらし、集中しやすい環境を作る場合があると述べられています。
一方で、人の指導者は、その場の状況や子どもの微妙な変化に柔軟に対応できるという強みもあり、どちらが優れているかではなく、「異なる仕組みで支援している」と位置づけられています。
結論として、この研究は、ロボットを用いたPRTと、人の指導者によるPRTのいずれもが、自閉症のある子どもの感情や社会的な側面に前向きな影響を与えうることを示しました。
そのうえで、ロボットは安定性や新しさを通じて感情面に、指導者は個別性や関係性を通じて支援に寄与している可能性があるとまとめられています。

同時に、サンプル数が少ないことや、ロボットのプログラムが個々の子どもに完全に合わせられていないことなど、いくつかの限界も率直に示されています。
それでも、この研究は、技術と人の関わりを対立させるのではなく、組み合わせながら子どもと家族を支える可能性を、具体的なデータをもとに示したものと言えます。
自閉症のある子どもにとって「安心できる関わり」とは何か。
その答えは一つではありません。この研究は、その問いに対して、「ロボット」という新しい選択肢が、少なくとも一部の子どもや家族にとって、意味のある支えになりうることを、静かに示しています。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-27616-3)(画像:たーとるうぃず)
ロボットには、人間ではないからこそのメリットがあります。
早く、もっと活躍することを願っています。
自閉症の子がCozmoで効果的に「相手の気持ち」を学ぶ。研究
(チャーリー)





























