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「繰り返し読む」ことが知的障害の生徒の読む能力を向上させた

time 2025/12/18

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

「繰り返し読む」ことが知的障害の生徒の読む能力を向上させた

この記事が含む Q&A

知的障害のある思春期の生徒にも、繰り返し音読は読みの流暢さを高める効果が見られるのでしょうか?
はい、介入期間中に正しく読めた単語数が増え、別の文章でも効果が維持され、1か月後も一部が持続する報告があります。
この研究で用いた指導法の要素は何ですか?
教師がモデル読みを2回行い速さと正確さを示す、意味理解を支える事前説明と視覚的手がかり、読み終わりに具体的なフィードバックを行い、1文章を3回のセッションに分けて計9回練習する点です。
今後の課題やこの方法の限界は何ですか?
読み間違いの維持が難しい場合があり介入後に戻るケースがある点、最も効果的な指導要素や適切な練習量、小集団での実施可能性、学習者の負担感への配慮などを更に検討する必要があります。

知的障害のある子どもや若者にとって、「読む力」は生活の質や将来の自立に深く関わる大切な力です。
文字を正しく読めることはもちろん、ある程度の速さで、意味を考えながら読めるようになることが、日常生活や社会参加の基盤になります。

しかし現実には、知的障害のある生徒の多くが、学年相当の文章を読むことに大きな困難を抱えています。
これまでの大規模調査でも、思春期の段階であっても、初等教育レベルの読みの基準に到達していない例が多いことが示されてきました。
それにもかかわらず、この領域では「どのような指導が、どの程度効果をもつのか」を実証的に検証した研究は多くありませんでした。

こうした中、スイス・ヴォー州立教員養成大学の特別支援教育部門とフランス語教育学部門の研究チームは、知的障害のある思春期の生徒を対象に、「繰り返し音読する指導」が読みの流暢さにどのような影響を与えるのかを、丁寧に検証しました。

この研究で注目されたのは、「リピーテッド・リーディング(Repeated Reading)」と呼ばれる方法です。
短く意味のある文章を、同じ内容で何度も音読することで、読む速さや正確さを高めていく指導法で、定型発達の子どもや学習障害のある子どもでは効果が確認されてきました。
一方で、知的障害のある生徒に対して、この方法を単独で検証した研究は、これまでほとんどありませんでした。

研究チームは、軽度の知的障害があり、小学校レベルの読み能力をもつ14歳から15歳の女子生徒3名を対象に、8週間にわたる個別指導を行いました。
研究は「単一事例実験法」と呼ばれる方法で設計され、それぞれの生徒について、介入前、介入中、介入後の変化を細かく追跡しています。

指導は週3回、1回およそ15分前後で行われました。
特徴的なのは、単に生徒に音読させるのではなく、教師役が先に文章を読み、正しい発音や読み方を示す「モデル読み」を取り入れている点です。
また、読み間違いがあった場合にはその場で修正し、読み終わったあとには「今回は1分間でこれだけ正しく読めた」と具体的なフィードバックを行いました。

測定された指標は二つあります。
一つは「正しく読めた単語数」で、これは読む速さと正確さを合わせた指標です。
もう一つは「1分あたりの誤り数」で、読み間違いの多さを表します。

その結果、3人全員に共通して見られたのは、指導期間中に「正しく読めた単語数」が明確に増加したことでした。
統計的な分析でも、中程度から大きな効果量が確認され、偶然とは考えにくい改善であることが示されています。

さらに重要なのは、この効果が「練習した文章だけ」にとどまらなかった点です。
介入終了後に、これまで一度も読んだことのない別の文章を読んでもらったところ、正しく読める単語数の増加が維持されていました。
しかも、その一部は介入終了から1か月後にも確認されています。

一方で、読み間違いの数については、やや複雑な結果となりました。
指導中には誤りが減る傾向が見られたものの、介入が終わると、誤り数は徐々に元の水準に戻るケースもありました。
研究者たちは、この点について、「読む速さの向上に比べ、正確さの維持はより難しい可能性がある」と慎重に解釈しています。

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研究チームは、今回の結果が得られた理由として、いくつかの要因を挙げています。
ひとつは、教師によるモデル読みを2回行い、「速さと正確さ」「表現の仕方」をそれぞれ明示した点です。
もうひとつは、文章の内容を事前に簡単に説明し、意味理解を支えたこと、そして、視覚的な手がかりを用いて、作業記憶への負担を減らしたことです。

また、1つの文章を3回のセッションに分け、合計9回読むという、比較的多めの練習量を確保したことも、効果の一般化につながった可能性があるとしています。

指導の受け止め方についても調査が行われました。
教師は、読みの力が実際に向上したことを高く評価し、授業への応用可能性も認めています。
一方で、生徒自身の反応は分かれました。
成果は感じているものの、「疲れる」「長い」と感じた生徒もおり、学習者の負担感への配慮が今後の課題として示されています。

研究者たちは、この方法が知的障害のある生徒にとって有望である一方、すべての条件が解決されたわけではないと述べています。
たとえば、どの指導要素が最も効果的だったのか、どの程度の練習量が適切なのか、小集団での実施は可能か、といった点は、今後さらに検討が必要だとしています。

それでも今回の研究は、「知的障害のある生徒は、流暢に読む力を伸ばすことができる」という事実を、具体的なデータで示しました。
読む力の困難を「能力の限界」として固定的に捉えるのではなく、「適切な支援によって変化しうる力」として捉え直す重要性を、静かに伝える研究だと言えるでしょう。

読みの流暢さは、単なるスピードの問題ではありません。
意味を理解し、自信をもって文章に向き合うための土台です。
この研究は、その土台が、知的障害のある生徒にとっても築かれうることを、実証的に示しています。

(出典:Reading and Writing DOI: 10.1007/s11145-025-10744-7)(画像:たーとるうぃず)

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(チャーリー)

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