この記事が含む Q&A
- ADHDの子どもは怒りを感じやすく、調整が難しいことがあるのですか?
- はい、診断の有無にかかわらず怒りの反応が強く、調整が難しい傾向が示されています。
- 楽しい気持ちや高揚感といったポジティブな感情の調整も課題になりますか?
- はい、エグザバランスの反応が強く調整が難しい場合があり、ポジティブな感情にも対応が必要です。
- 悲しみや恐れの反応はADHDだけでなく不安や抑うつなど他の要因にも影響されますか?
- はい、不安症状や抑うつの程度が強いほど反応・調整が難しくなる傾向があるとされています。
ADHDのある子どもや思春期の若者について、「集中できない」「落ち着きがない」といった特徴はよく知られています。
しかし、日々の生活の中で当事者や家族がより強く困りごととして感じているのは、感情の揺れやすさや、気持ちのコントロールの難しさかもしれません。
怒りが急に強く出てしまったり、楽しい気持ちが高まりすぎて止まらなくなったり、悲しさや不安に強く反応してしまう。こうした「感情の動き方」は、ADHDとどのように関係しているのでしょうか。
スウェーデンのウプサラ大学 医学部 小児・思春期精神医学ユニットを中心とした研究グループは、子ども・思春期のADHDにおける感情の特徴を、より細かく、具体的な感情ごとに調べる研究を行いました。
本研究には、ストックホルム大学 心理学部、カロリンスカ研究所 神経発達障害センターなども関わっています 。
この研究の大きな特徴は、「感情の反応の強さ」と「感情を調整する力」を分けて考えている点です。
感情の反応とは、悲しさ・怖さ・怒り・楽しさといった気持ちが、どれくらい強く、どれくらい頻繁に出てくるかという側面です。一方で感情の調整とは、その気持ちが出てきたときに、自分で落ち着かせたり、周囲の助けを借りてコントロールしたりできるかどうかを指します。
研究では、感情を「悲しみ」「恐れ」「怒り」というネガティブな感情と、「エグザバランス(高揚感・はしゃぎ)」というポジティブな感情に分け、それぞれについて反応と調整の両方を測定しました。
調査は二つの集団で行われました。一つは、すでにADHDと診断されている10〜17歳の子ども・思春期の若者と、精神疾患のない比較対象の集団です。
もう一つは、専門の精神科外来を初めて受診した13〜18歳の若者たちで、こちらでは診断の有無ではなく、ADHD特性の強さを連続的に評価しました。
いわば「診断としてのADHD」と「特性としてのADHD」の両方を見比べた研究です。

まず明確に示されたのは、「怒り」の重要性でした。
ADHDと診断されている子ども・思春期の若者は、怒りを感じやすく、しかもその怒りをうまく調整することが難しい傾向が一貫して見られました。
これは自己評価でも、保護者からの評価でも同様でした。
さらに、診断があるかどうかに関わらず、ADHD特性が強いほど、怒りの反応が強く、怒りのコントロールが難しいという関係も確認されました。
この結果は、ADHDにおいて「怒り」や「イライラ」が中心的な感情課題である可能性を強く示しています。
怒りの調整がうまくいかないことは、人間関係の摩擦や衝突につながりやすく、日常生活の困難さを大きくする要因になり得ます。

一方で、ポジティブな感情である「エグザバランス」についても、興味深い結果が得られました。ADHDと診断されている場合、楽しい気持ちや高揚感そのものが特別に強いわけではないものの、それを落ち着かせたり、場に応じて調整したりすることが難しい傾向がありました。
また、診断に至らない場合でも、ADHD特性が強い若者ほど、エグザバランスの反応が強く、調整も難しいことが示されました。
これは、「楽しい気持ち=良いこと」と単純に考えるだけでは見えてこない側面です。
楽しい気持ちが高まりすぎると、衝動的な行動やトラブルにつながることもあり、ADHDにおいてはポジティブな感情も調整の対象になり得ることが示唆されています。
悲しみや恐れについては、より複雑な結果となりました。ADHDと診断されている子ども・思春期の若者では、悲しみや恐れに対する反応が強く、とくに恐れの調整が難しい傾向が見られました。
しかし、ADHD特性の強さだけで見ると、悲しみや恐れとの直接的な関連は明確ではありませんでした。

ここで重要なのは、不安や抑うつといった他の精神的な特性の影響です。
研究では、不安症状が強いほど恐れの反応が強く、抑うつ症状が強いほど悲しみの反応が強く、調整が難しいことが示されました。
つまり、悲しみや恐れに関しては、ADHDそのものよりも、併存する不安や抑うつの影響が大きい可能性が示唆されています。
性別についても分析が行われました。
ADHDと診断されている集団では、女子のほうが悲しみ・恐れ・怒りといったネガティブな感情の反応が強い傾向が見られました。
ただし、感情の調整能力については男女差は確認されませんでした。
また、ADHDと感情の関係が男女で大きく異なるという証拠は見つかりませんでした。
年齢については、今回の年齢範囲では、感情の反応や調整との明確な関連は見られませんでした。
思春期は感情が大きく揺れ動く時期ですが、その変化は単純に年齢だけで説明できるものではないことも示唆されます。

この研究の結果から、ADHDの感情面の理解には、単に「感情が不安定」という一言では足りないことが見えてきます。
とくに「怒り」は、診断の有無や特性の強さを問わず、ADHDと深く結びついた感情であり、臨床や支援の場で丁寧に注目する必要があることが示されました。
また、楽しい気持ちや高揚感といったポジティブな感情についても、「抑えるべきもの」ではなく、「どう調整するか」という視点が重要であることが浮かび上がります。
一方で、悲しみや恐れについては、ADHDだけでなく、不安や抑うつ、自閉症特性など、他の要因との重なりの中で理解する必要があることも示されました。
感情の困難さをADHDだけの問題として捉えるのではなく、その人が持つさまざまな特性や状態との関係で見ていくことの大切さが、この研究から伝わってきます。
この研究は横断的な調査であり、因果関係を直接示すものではありません。
しかし、診断レベルと特性レベルの両方から感情を細かく分析したことで、ADHDの感情面の理解を一歩進める重要な手がかりを提供しています。
ADHDを「注意」や「行動」だけでなく、「感情のあり方」からも捉え直すこと。その視点が、当事者や家族、支援者にとって、より現実に即した理解につながるのかもしれません。
(出典:BMC Psychiatry DOI: 10.1186/s12888-025-07708-0)(画像:たーとるうぃず)
- 「怒り」は、診断の有無や特性の強さを問わず、ADHDと深く結びついた感情であり、臨床や支援の場で丁寧に注目する必要
- 楽しい気持ちや高揚感といったポジティブな感情についても、「抑えるべきもの」ではなく、「どう調整するか」という視点が重要
- 悲しみや恐れについては、ADHDだけでなく、不安や抑うつ、自閉症特性など、他の要因との重なりの中で理解する必要
知っておかなければなりません。
(チャーリー)





























