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逮捕された人の50%にADHD特性、自閉症も多数という衝撃

time 2025/12/11

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

逮捕された人の50%にADHD特性、自閉症も多数という衝撃

この記事が含む Q&A

警察の初期対応でADHDや自閉症の特性を早期に見つける仕組みは有効とされますか?
スクリーニングは診断ではないものの、特性を早く把握して誤解や対立を減らす第一歩になり得ます。
この研究でADHD特性が高いと判定された人の割合はどれくらいですか?
全体の半数にあたる199名中100名がADHD特性が高いと判定され、33名は特に高い数値でした。
薬物関連の逮捕とADHD特性の関連はどのように示されていますか?
薬物関連の逮捕は全体の40%を占め、そのうち約60%が「ADHD診断あり」または「ADHD特性が高い」と判定されました。

警察で保護されるという状況は、多くの人にとって突然で緊張を伴うものです。
しかし、その背景には「なぜその人が誤解されやすかったのか」「なぜ対応が難しく見えたのか」という、見えにくい事情が潜んでいることがあります。
今回、英ロンドンの警察と大学の研究機関が共同で行った調査は、その一端を丁寧に示したものでした。
警察に連れてこられた人々の中に、ADHDや自閉症の特性を持つ人がどれほどいるのか。
そして、その特性が支援につながらずに見落とされてきた可能性はどれほどあるのか。
研究は、その問いに初めて体系的に向き合いました。

この研究は、ロンドン警視庁と、ケンブリッジ大学精神医学科自閉症研究センター、そしてケンブリッジ大学犯罪学研究所が協力して行ったものです。
調査期間は8週間。ロンドン市内の6つの警察拘留センターで、逮捕され保護された人たちに、ADHDと自閉症の特性を簡易に調べるスクリーニングを行いました。
方法として用いられたのは、ADHDについては国際的に広く使用されている成人向けのASRSという尺度、自閉症については10問で構成されたAQ-10という短いアンケートです。

驚くべきことに、対象となった303名のうち、216名(71.3%)がスクリーニングに参加することを了承しました。
これは警察という緊張した環境の中にあっても、多くの当事者が自分に関するこうした確認に意味を感じていることを示しているようにも思えます。
スクリーニングは、医療スタッフ、拘留担当職員、警察官など、その場にいる複数の職種のスタッフによって行われました。

まずADHDの特性について見てみると、既に診断を受けている人を除く199名がASRSに回答しました。
このうち、実に100名、つまり50%が「ADHD特性が高い」と判定されました。
さらに、33名はとくに高い数値を示し、本格的な評価が強く推奨されるレベルでした。
特徴的だったのは、ADHD特性が高いと判定された人の多くが男性であったこと、そして白人以外の民族背景を持つ人が過半数を占めたことです。

一方、自閉症の特性を調べるAQ-10に回答した207名のうち、しきい値を超えたのは11名(5.4%)でした。
人数としては多くはありませんが、警察での対応において自閉症の特性は重要な意味を持つことが多く、見逃されてきた可能性を示すものです。なお、すでに診断を受けている人も一部アンケートに回答しており、既存の診断とスクリーニング結果が一致しているケースも見られました。

興味深い点として、ADHD特性と自閉症特性の数値には一定の関連があることも示されました。
どちらかの特性が高い人は、もう一方の特性も高めである傾向が見られたのです。
これは、一般の研究でも指摘されている「ADHDと自閉症の併存」の傾向と一致するものでした。

また、アンケートを実施したスタッフの職種によって、わずかながら結果に違いが出ていました。
とくにADHDのスクリーニングでは、医療スタッフが行った場合、他のスタッフに比べて陽性となる割合がやや低くなる傾向がありました。
慎重に質問を読み上げる姿勢や、被験者が安心して遠慮せず話せる空気づくりのちがいなど、環境が結果に影響する可能性を示しています。

そして、この研究で最も社会的な意味を持つ部分が、逮捕された理由とADHD特性との関係です。
逮捕理由の中で最も多かったのは薬物関連で、全体の40%を占めていましたが、そのうちの約60%が「既にADHDの診断がある」もしくは「スクリーニングでADHD特性が高い」と判定されていました。
薬物との関わりは決して単純なものではありませんが、衝動性や注意の偏りが生活の中で負担となり、結果として良くない形での対処を選んでしまう人がいる可能性が示唆されます。

この研究の背景にあるのは、「警察での初期対応において、特性に気づく仕組みがほとんど存在しなかった」という現実です。
特性を持つ人は、誤解されやすい行動を取ってしまうことがあります。
質問にすぐ答えられない、急に動いてしまう、落ち着きがないように見える、相手の意図を読み違える――こうした特徴は、本人に悪意がなくても「抵抗している」「協力する気がない」と誤解されることがあります。

とくに警察署のような緊張感の高い場面では、その誤解が一瞬で大きな問題につながることもあります。
今回の研究チームが強調しているのは、「本人の特性を早い段階で知ることが、誤解や不必要な対立を減らす第一歩になる」という点です。
スクリーニングで一定の数値が出た場合、本人の同意があれば、警察とは独立している支援組織であるリエゾン&ダイバーション(L&D)サービスにつなぐ仕組みが用意されていました。
ここでは、特性に応じてコミュニケーション方法を調整したり、必要な医療・福祉の窓口を案内したりすることができます。

研究には強みと限界がありました。
まず、実際の警察スタッフがスクリーニングを行っているため、現場の実情に沿ったデータが得られているという点は大きな利点です。
しかし同時に、どのスタッフが行うかによって質問の読み上げ方や雰囲気が異なり、回答が影響を受ける可能性があります。
また、今回の方法はあくまで「スクリーニング」であり、正式な診断ではありません。
高い数値が出たからといって必ず特性があるとは限りませんし、低い数値だから特性がないとは限りません。

ただ、研究チームが強調するのは「それでもなお、警察でのスクリーニングには大きな意味がある」ということです。
特性を持つ人は、環境の影響を強く受けます。
逮捕され、拘留されるという極度のストレス状況では、普段より困難が表に出やすくなります。
そこで本人の特性に気づき、適切な支援や配慮につなげることができれば、不必要なトラブルや誤解を減らし、本人にも社会にも良い形での対応が可能になります。

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また、今回のデータは、社会の中で見えにくくなっている「診断にたどり着けないまま大人になった人たち」の存在にも光を当てています。
成人後のADHDや自閉症の診断は、しばしば長い待機期間を伴ったり、相談先が分かりにくかったりします。
その結果、困りごとを抱えたまま支援につながらず、対処法として望ましくない手段を選んでしまう場合もあります。
研究チームは、今回のような初期段階のスクリーニングが、こうした見落としを防ぐための重要な手がかりになると述べています。

全体として、この研究が示しているのは「警察という場でも、人は特性に応じた理解と支援を必要としている」という当たり前の事実です。
誤解や偏見が介入しやすい場面だからこそ、適切な情報が早い段階で得られることの価値は大きいと言えます。
特性そのものが問題なのではなく、特性に合わない環境が負担を生み、その負担が行動の形として表れることがある―研究チームの示したデータは、その現実を静かに裏付けています。

今回の調査はまだ始まりにすぎません。
研究チームも、今後必要なのは「より精密な評価の導入」「スタッフの教育」「長期的なフォローアップ」などであると述べています。
しかし、小さな一歩であっても、警察という入り口で特性が見逃されず、適切な支援につながる可能性が生まれたことは、当事者にとっても社会にとっても大きな意味を持ちます。

特性を持つ人の行動は、その人の努力不足や意図によるものではありません。
環境との相互作用の中で自然に生まれる振る舞いです。
だからこそ、早い段階の理解と支援が大切です。
今回の研究は、その大事な一歩を示してくれたと言えます。

(出典:Criminal Behaviour and Mental Health DOI: 10.1002/cbm.70018)(画像:たーとるうぃず)

衝動性や注意の偏りが生活の中で負担となり、結果として良くない形での対処を選んでしまう人がいる可能性が示唆されます。

本人の特性に気づき、適切な支援や配慮につなげることができれば、不必要なトラブルや誤解を減らし、本人にも社会にも良い形での対応が可能になります。

できる限り早く特性を知り、そして支援する。

これが重要です。

被害者も生まれず、警察のお世話になるようなことも少なくなるはずです。

受刑者のADHDの割合は一般の10倍以上。42研究の統合分析

(チャーリー)

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