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自閉症の子の夜を見える化。データ公開が新しい研究につなぐ

time 2026/01/01

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

自閉症の子の夜を見える化。データ公開が新しい研究につなぐ

この記事が含む Q&A

自閉症の子どもの睡眠を家庭で長期間客観的に記録した研究の要点は何ですか?
三つの機器と保護者日記を用いて、布団投入〜眠り onset〜睡眠時間を数字化し、データは公開されオープンデータとして共有されました。
夜中の起きている時間の感覚とデータの差はどんな所に現れましたか?
保護者の感覚では頻繁に起きていると感じても、実際には短い覚醒や気づかれない覚醒が多いことが分かりました。
入眠にかかる時間と日中の困難さにはどのような関係がありますか?
入眠の遅さは、注意の散りやすさ・感覚過敏・気分の落ち込み・日常生活の適応困難と関係する傾向が見られました。

夜、布団に入っても、なかなか眠れない。
ようやく寝たと思っても、朝までに何度も目が覚めている気がする。

自閉症のある子どもを育てている家庭では、こうした睡眠の悩みがとてもよく聞かれます。
しかし、「実際に子どもはどう眠っているのか」を、正確に知ることは簡単ではありませんでした。

これまでの研究の多くは、保護者の記憶や感覚をもとにした質問紙や聞き取り調査に頼ってきました。
もちろん、それはとても大切な情報です。ただ、夜の出来事は目に見えにくく、どうしても曖昧になりやすい部分があります。

今回紹介する研究は、そうした限界を超えようとした試みです。
アメリカのシモンズ財団とイスラエルのベン・グリオン大学心理学部とアズリエリ自閉症・神経発達研究センターが共同で進めた「シモンズ・スリープ・プロジェクト」では、子どもたちの睡眠を家庭で、長期間、客観的に記録しました 。

対象となったのは、10歳から17歳までの自閉症のある子ども102人と、そのきょうだい98人です。
特徴的なのは、研究のために特別な場所へ行く必要がなかったことです。
子どもたちは、いつもの家、いつものベッドで眠りながらデータを集めました。


使われたのは、三つの機器です。

  • 脳の状態から睡眠を判定するヘッドバンド
  • 体の動きや心拍を測るスマートウォッチ
  • ベッドの下に敷くだけで動きを感知するマット型センサー

これらを同時に使うことで、「いつ布団に入ったか」「いつ眠りについたか」「どれくらい眠っていたか」「夜中にどれくらい起きていたか」を、数字として記録できるようにしました。
さらに、保護者による睡眠日記や質問紙も集め、主観的な印象との比較も行っています。

こうして集められたデータは、3,600日以上に及びました。
一晩だけでなく、何日も、何週間も続けて記録されたデータです。

まず分かったのは、機械同士の記録はよく一致するということでした。
三つの機器が示す「寝た時刻」「起きた時刻」「睡眠時間」は、お互いによく似ていました。
一方で、保護者の記録とは、必ずしも同じ結果にならないことが多くありました。

特に差が大きかったのは、「夜中にどれくらい起きていたか」という点です。
保護者の感覚では「何度も起きている」と感じられても、脳や体のデータを見ると、実際には短い覚醒が多かったり、逆に気づかれない覚醒があったりすることが分かりました。

これは、保護者の観察が間違っているという話ではありません。
夜の睡眠は、そもそも正確に把握することがとても難しいのです。
この研究は、「だからこそ、客観的なデータが必要なのだ」ということを静かに示しています。

次に、自閉症のある子どもときょうだいの違いが調べられました。
その結果、意外なことが分かりました。

総睡眠時間や、夜中に起きている時間の長さには、大きな差が見られなかったのです。
同じ家庭で暮らしていると、生活リズムや環境の影響がとても大きく、診断の違いよりも「家の影響」が強く表れていました。

しかし、一つだけ、はっきりした違いがありました。
それが、「眠りに入るまでにかかる時間」です。

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脳のデータから見ると、自閉症のある子どもは、布団に入ってから眠りにつくまでに、きょうだいよりも時間がかかる傾向がありました。
しかも、この「入眠の遅れ」は、診断の有無に関係なく、さまざまな行動の困難さと結びついていました。

  1. 注意がそれやすい
  2. 感覚に過敏さがある
  3. 気分の落ち込みやすさがある
  4. 日常生活の適応が難しい

こうした特徴をもつ子どもほど、眠りに入るまでに時間がかかる傾向が見られたのです。
一方で、夜中にどれだけ目が覚めていたかという指標は、こうした行動面との明確な関係を示しませんでした。

この結果は、「睡眠の問題」と一言で言っても、その中身がまったく違うことを教えてくれます。
夜中に起きることよりも、最初に眠りに入ることの難しさが、日中の過ごしにくさと深く関わっている可能性があるのです。

そして、この研究が持つもう一つの大きな意味は、データがすべて公開されているという点にあります。

このプロジェクトで集められた睡眠データ、行動データ、そして遺伝情報は、特定の研究者だけのものではありません。
世界中の研究者が利用できる「オープンデータ」として公開されています。

これは、「一つの研究で答えを出す」ためではありません。
むしろ、「多くの研究者が、同じデータを使って、違う視点から問い直せる」ことに価値があります。

ある研究者は、睡眠と感覚の関係を見るかもしれません。
別の研究者は、睡眠と注意の関係に注目するかもしれません。
将来、支援や環境調整につながる知見が生まれる可能性もあります。

この研究は、「自閉症の睡眠はこうだ」と結論を押しつけるものではありません。
ただ、家庭での静かな夜の時間を、数字とともに丁寧に記録し、それを誰もが使える形で差し出しました。

眠れない理由は、一人ひとり違います。
だからこそ、答えを急がず、共有されたデータの上で、ゆっくり考えていく。
この研究は、そのための土台を、初めて本格的に整えた試みだと言えるでしょう。

(出典:nature neuroscience DOI: 10.1038/s41593-025-02146-3)(画像:たーとるうぃず)

たしかに、眠りについては、親の報告だけでは事実の把握は難しいです。

私もただただ、自分も眠くて辛いという感じでした。そのなかでこまめな記録や正しい報告は難しいでしょう。

こうして、正しく事実を把握できるデータが公開されることで、適切な支援につながるさらなる発見が期待できそうですね。

自閉症と睡眠の不安定さに夜の「弱い光」が関係する可能性

(チャーリー)

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