この記事が含む Q&A
- 自閉症の人が複雑さの差が大きい幾何学図形を長く見つめる理由は何ですか?
- 視覚的な複雑さの差が大きいほど長く見る傾向が見られ、社会的刺激を避ける説明だけではなく、規則性や繰り返しへの自然な親和性が関係している可能性が示唆されています。
- 「細部へ注意する力(ローカルな処理」が視線の偏りを説明しますか?
- 細部への注意と実際の視線の長さには明確な関連は見られず、持続的な視線と選択的注意は異なる性質を持つ可能性があります。
- 研究は確定的ですか?
- サンプル数が限られ年齢・性別の偏りもある等の限界があり、予備的な研究としてより直接的な認知特性の測定が必要とされています。
自閉症のある人は、なぜ幾何学模様をじっと見つめるのでしょうか。
回転する物体や規則的な動きを好む傾向があることは、これまでも多くの研究で指摘されてきました。
しかし、その理由が「社会的な刺激を避けているから」なのか、それとも「特定の視覚的な特徴に引きつけられているから」なのかについては、はっきりした答えが出ていませんでした。
浜松医科大学 子ども心の発達研究センターを中心に、統合大学院 子どもの発達学(大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学の共同大学院)や、花園大学 社会福祉学部 臨床心理学科、東洋大学 社会学部 社会心理学科、京都大学 教育学研究科といった、複数の大学・研究機関が連携して行われた、今回の研究では、この問いに対して、とてもていねいな実験によって迫っています。
研究の焦点となったのは、「繰り返し構造をもつ幾何学図形」です。
研究者たちは、自閉症のある人が幾何学図形を好む背景には、二つの可能性があると考えました。
一つは、規則的で繰り返しのある視覚情報そのものへの親和性です。
もう一つは、「細部に注目しやすい」という認知特性、いわゆるローカルな処理の強さです。
この研究では、これら二つの可能性のうち、どちらがより強く関係しているのかを明らかにしようとしました。
実験には、自閉症のある参加者と、定型発達の参加者が参加しました。
参加者たちは、画面の左右に並べて提示される二つの幾何学図形を、特別な指示を受けることなく自由に眺めます。
このとき、アイトラッキング装置を用いて、どちらの図形をどれくらいの時間見ているかが正確に測定されました。

提示された幾何学図形は、一見すると似ていますが、「繰り返しの回数」が異なります。
円や四角、三角、星といった単純な形が、同心円状に何度も重ねられており、その重なりの回数が多いほど、視覚的にはより複雑に見えるように作られています。
研究では、この重なりの回数を「反復回数」として操作し、二つの図形の間にどれくらいの複雑さの差があるかも、細かく調整されました。
重要なのは、単に「複雑な図形か、単純な図形か」を見るのではなく、「どれくらい複雑さの差がある二つの図形が並んでいるか」という相対的な条件が設定されていた点です。
研究者たちは、この差が小さい場合と大きい場合とで、視線の向き方がどう変わるのかを比較しました。
その結果は、とても興味深いものでした。
自閉症のある参加者は、二つの図形の複雑さの差が大きいときに、より繰り返しの多い、つまり視覚的に複雑な図形を長く見つめる傾向を示しました。
一方で、複雑さの差が小さい場合には、そのようなはっきりとした偏りは見られませんでした。
対照的に、定型発達の参加者では、複雑さの差が大きい場合でも小さい場合でも、特定の図形に視線が偏る傾向はほとんど確認されませんでした。
つまり、「より繰り返しが多い図形を好んで見る」という特徴は、自閉症のある参加者に特有のものだったのです。

さらに研究者たちは、「細部に注意が向きやすい特性」が、この視線の偏りと関係しているかどうかも検討しました。
そのために用いられたのが、「細部への注意」を測る質問紙の得点です。
しかし、その得点と、実際にどれくらい複雑な図形を長く見ていたかとの間には、明確な関連は見つかりませんでした。
この結果は、幾何学図形への視線の偏りが、必ずしも「細部を見る力の強さ」そのものによって説明できるわけではないことを示しています。
研究者たちは、この点について、注意の種類の違いに着目しています。
細部に素早く気づく力は「選択的な注意」に関係する一方で、今回の実験で測定されたのは、「どれだけ長く見続けるか」という持続的な注意でした。
この二つは、同じ注意でも性質が異なる可能性があると考えられます。
また、質問紙で測られる「細部への注意」が、視覚的な処理の特性を十分に反映していない可能性についても、慎重に言及されています。
今後は、より直接的に認知特性を測る方法が必要になるかもしれません。

この研究が示しているのは、自閉症のある人が幾何学図形を好んで見る背景には、「社会的な刺激を避けているから」という単純な説明だけでは不十分だということです。
実際、今回の実験では、社会的な刺激は一切含まれていません。
それでもなお、自閉症のある参加者は、規則的で繰り返しの多い視覚情報に強く引きつけられていました。
つまり、そこには「繰り返し」や「規則性」、「構造のある複雑さ」そのものへの自然な親和性が存在している可能性が示唆されます。
これは、自閉症のある人の視覚的な世界の捉え方が、定型発達の人とは異なる軸をもっていることを、示しているようにも感じられます。
研究者たちは、この研究が予備的なものであり、参加者数が限られていることや、年齢や性別の偏りがあることなど、いくつかの制約についても正直に述べています。
それでも、繰り返し構造という明確な視覚的要素に焦点を当て、相対的な複雑さという観点から検討した点は、これまでの研究を一歩進めるものです。
幾何学図形を見つめる視線の先には、単なる「好み」以上の、世界の感じ取り方の違いが隠れているのかもしれません。
この研究は、その可能性を、データとともに語りかけてきます。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07188-x)(画像:たーとるうぃず)
うちの子も小さな頃、幾何学模様が動きだす、とあるミュージックビデオをテレビに映すとまったく目を離せない、食い入るように見入っていたことを思いましました。
自閉症の子は人より「幾何学模様」を好む。米国立精神衛生研究所
(チャーリー)





























