この記事が含む Q&A
- 発達の節目として注目された6つは?
- 笑顔を返す社会的微笑、支えなしで座る、ひとりで歩く、意味のある最初のことば、二語文などの最初のフレーズ、そして昼間のおむつが外れる排尿コントロールです。
- どの節目が遅れやすいですか?
- 歩き始めは遅れが約4割、社会的微笑は約2割、最初の意味のあることばは6割以上が遅れ、二語文はほぼ全員に近く遅れ、排尿コントロールも遅れるケースが多いです。
- 研究の意味は?
- 早期サインを丁寧に記録・見守ることで自閉症の早い理解と子どもに合った支援につながる可能性が高まり、親を責めるものではなく個々の発達プロセスの差を示しています。
「気のせいかもしれないけれど、少しだけ気になる」
多くの親が、自閉症の診断にたどり着く前、そんな感覚を何度も心の中で打ち消しています。
よく笑う日もある。歩くのも遅くはなかった。
でも、呼びかけへの反応が弱い気がする。
ことばが増えない。ほかの子と同じように遊ばない。
それが「心配しすぎ」なのか、「様子を見ていいこと」なのか、それとも「支援につながるサイン」なのか。
判断がつかないまま時間だけが過ぎていく――その経験は、決してめずらしいものではありません。
今回紹介する研究は、そうした親の違和感が生まれやすい「ごく早い時期の発達」に、あらためて光を当てたものです。
ポルトガルのポルト大学病院センター 北部母子センターにある神経発達ユニットの研究チームは、自閉症と診断された子どもたちの乳幼児期を振り返り、「どの発達の節目が、どの時期に、どのように現れていたのか」を丁寧に分析しました。

研究の対象となったのは、自閉症と診断された127人の子どもたちです。
診断された年齢の平均は34か月、つまり三歳前後でした。
これは、多くの家庭で「診断は幼児期後半になる」という現実と重なります。
しかし、研究チームが注目したのは診断の時期そのものではありません。
その前にあった、親が日々見ていた「発達の節目」です。
分析されたのは、次の六つの発達の節目です。
- 笑顔を返す「社会的微笑」
- 支えなしで座る
- ひとりで歩く
- 意味のある最初のことば
- 二語文などの最初のフレーズ
- そして昼間のおむつが外れる排尿コントロール
どれも、健診や日常生活の中で、親が自然に意識する場面ばかりです。研究チームは、これらが「早いか遅いか」を単純に評価するのではなく、一般的な発達の目安と比べて、どの位置にあったのかを調べました。

その結果、興味深い特徴が浮かび上がります。
まず、座ることなどの初期の運動発達については、ほとんどの子どもが一般的な範囲内で達していました。
「体の発達は順調だった」という記憶を持つ親が多い理由が、ここにあります。
一方で、「ひとり歩き」になると様子が変わります。
歩き始める時期が遅かった子どもは約4割にのぼり、一般的な発達と比べて差が見られました。
社会的微笑についても、約2割の子どもで遅れが確認されています。
笑顔そのものがまったくなかったわけではありませんが、人の顔に向けた反応として現れるまでに時間がかかっていたケースが少なくありませんでした。
さらに大きな違いが見られたのが、ことばに関する発達です。
最初の意味のあることばについては、6割以上の子どもで遅れがありました。
二語文などの最初のフレーズになると、その割合はほぼ全員に近くなります。
この結果は、「ことばが出ない」「文章にならない」という親の不安が、非常に早い段階から積み重なっていくことを示しています。
また、昼間の排尿コントロールについても、多くの子どもで獲得が遅れていました。
これは生活面の困りごととして表れやすく、家庭での負担感につながりやすい領域です。

研究では、こうした発達の節目と、子どもたちの認知や生活スキルとの関係も調べられています。
そのために用いられたのが、グリフィス精神発達尺度・改訂拡張版(GMDS-ER)です。
この評価では、全体的な発達の水準だけでなく、
- 人との関わりや身の回りの行動
- ことばの理解と使用
- 動きや課題への取り組み方
など、複数の側面が測定されます。
分析の結果、特に強い関連が見られたのは、
- 社会的微笑
- ことばの獲得
- そして排尿コントロールの遅れ
でした。
これらの節目が遅れていた子どもたちは、人との関わりや日常生活のスキルに関する評価が低い傾向を示していました。
また、歩き始めが遅かった子どもでは、課題に取り組む力や非言語的な理解に関わる評価が低い傾向も確認されています。
研究チームは、これらの結果を「能力の優劣」としてではなく、発達のプロセスの違いとして捉えています。
発達の節目は、それぞれが独立しているわけではありません。
社会的な反応、ことば、生活動作は互いに影響し合いながら育っていきます。
そのため、ある節目の遅れは、ほかの領域の発達とも結びついて現れることがあると、研究は示しています。
この研究が伝えている最も重要な点は、「あとから振り返ると、すでにサインは存在していた」という事実です。
それは、親の育て方の問題でも、努力不足でもありません。
多くの場合、子どもの特性が、静かに、しかし確実に表れていただけなのです。

研究チームは、発達の節目を丁寧に記録し、注意深く見守ることが、自閉症の早期理解と、子どもに合った支援につながる可能性を高めると述べています。
「もっと早く気づいていれば」と親が自分を責めるための研究ではありません。
むしろ、「気づきにくかったのは自然なことだった」と、親の経験を科学的に裏づける研究だと言えるでしょう。
発達の道筋は一人ひとり違います。
その違いを早く知ることは、子どもを急かすためではなく、子どもに合った関わり方を見つけるための第一歩なのです。
(出典:Cureus Journal of Medical Science DOI: 10.7759/cureus.99042)(画像:たーとるうぃず)
うちの子について言えば、1歳半くらいの頃からおかしいなと思いました。
それから、「もう少し様子を見ましょう」と言われ続けて、2年後くらいに診断されました。
その間に、言葉もなくなってしまったという感じです。
(チャーリー)




























