この記事が含む Q&A
- 自閉症の子どもと定型発達の子どもの視線の特徴は何ですか?
- 自閉症の子どもは視線を止める時間が短く、視線の動きの回数も少ない傾向があります(約3割短く、視線の動きは約4割少ない)。
- 自閉症の子どもは色のどんな点に敏感で、どんな傾向がありますか?
- 明るさ・色の強さに敏感で、鮮やかすぎる色を避ける傾向があります。
- 日常で取り入れられる工夫にはどんな提案がありますか?
- 光を急に変えず全体の明るさを中くらいに保ち、鮮やかすぎる色を避け小さなアクセントにする、という対策が挙げられています。
子どもが、部屋の明るさに顔をしかめる。
色の濃いおもちゃを避ける。
学校の蛍光灯の下で落ち着かず、そわそわしてしまう。
そうした姿を見て、「どうしてうちの子は?」と胸が痛むことはありませんか。
まぶしさに敏感で、視線をすぐそらす。
それが「光が苦手だから」なのか、「見たくないから」なのか、わからない。
その小さな違いの中に、自閉症の子どもたちの“世界の見え方”が隠れているかもしれません。
中国の安徽工業大学とイギリス・マンチェスター大学の研究チームは、34人の自閉症の子どもと40人の定型発達の子どもに、色と光を変えた画像を見せ、視線と瞳の動きを細かく記録しました。
赤・青・黄・緑などの色を、それぞれ明るさや鮮やかさの段階に分け、1人ひとりの目の動きをミリ秒単位で追ったのです。

その結果、自閉症の子どもたちは、全体的に「見る時間」が短く、視線を動かす回数も少ないことがわかりました。
平均して、視線を止める時間は定型発達の子どもより約3割短く、目の動きも約4割少なかったのです。
でも、それだけではありません。
どこを見ていたのかを比べると、はっきりとした違いが見えました。
自閉症の子どもたちは、明るい部分に強く引き寄せられ、鮮やかすぎる色を避ける傾向がありました。
反対に、定型発達の子どもは、やや暗めで落ち着いた明るさの部分にも興味を持ち、カラフルな部分を楽しむように視線を動かしていました。
つまり、自閉症の子どもたちは「何色が好きか」よりも、「どれくらい明るいか」「どれくらい強い色か」に敏感なのです。
赤・青・黄・緑といった“色の種類”そのものには大きな違いはありませんでした。
しかし、その色の明るさや強さが変わると、見る時間も反応も大きく変わりました。

この研究ではさらに、瞳の大きさの変化も同時に測定しています。
瞳は、光を感じるだけでなく、緊張や驚きなど“心の動き”とも関係しています。
明るさが変わると、人の瞳孔は自然に広がったり縮んだりします。
定型発達の子どもでは、この瞳の変化が視線の動きとぴったり連動していました。
ところが、自閉症の子どもでは、その連動が弱くなっていました。
これは、注意(どこを見るか)と身体の覚醒(どう感じるか)とのタイミングがずれているということを意味します。
研究チームはこの現象を「注意と覚醒のデカップリング(切り離れ)」と呼びました。
たとえば、突然照明が強くなるとき。
多くの子は、明るさを感じて少し目を細めつつも、注意をそらさずに環境を把握します。
しかし自閉症の子どもでは、光の変化に体が先に反応し、注意を続けることが難しくなることがあります。
その結果、「集中が切れる」「不快そうに見える」と周りに誤解されることもあります。
けれどそれは、脳や神経の反応のタイミングが違うだけ。
彼らの世界が、ほんの少し違うリズムで流れているのです。

この研究は、単に「光がまぶしい」や「色が好きではない」という話ではありません。
それは、脳と体のあいだのリズムの問題でもあります。
目が光を感じる速さと、体がそれに反応する速さが噛み合わないと、世界が「強すぎる」ように感じられてしまう。
その感覚が、日常の行動や社会的なやり取りにまで影響を及ぼすことがあります。
研究チームは、視線データと瞳孔反応を詳細に解析し、明るさの違いによって自律神経の動きがどのように変わるかを追跡しました。
その結果、光の強弱が大きいほど、定型発達の子どもでは瞳孔の開きと視線の動きが同時に変化しました。
しかし自閉症の子どもでは、そのタイミングが少しずれていたのです。
この「ずれ」は小さいものの、繰り返し現れました。
研究者たちは、「感覚の入力と体の反応がうまく噛み合わないと、注意の切り替えが難しくなる」と説明しています。
これは「感覚過敏」や「刺激に圧倒される感覚」と深く関係していると考えられます。
さらに興味深いのは、「鮮やかすぎる色」を避ける傾向です。
自然界では、極端に強い色はあまり存在しません。
研究チームは、こうした高い鮮やかさの刺激が“不自然な刺激”として脳に負担を与えている可能性を指摘しています。
そのため、自閉症の子どもが「派手な色を避ける」のは、快・不快の判断ではなく、神経が自然に自分を守る反応なのかもしれません。

この研究から見えてきたのは、私たちが日常の中でできる工夫です。
研究チームは、次のような具体的な提案をしています。
- 光を急に変えない。画面や照明は、少しずつ明るく・暗くする。
- 全体の明るさは「中くらい」を保つ。
- 壁紙や掲示物など大きな面積には、鮮やかすぎる色を使わない。
- 強い色は、小さなアクセントや本人が選べるものに。
これらは特別な支援ではなく、誰でもできる“感覚のバリアフリー”です。
まぶしさや色の刺激を減らすことで、自閉症の子どもが安心して目を向けられる時間が増えます。
この研究の最後で、研究者たちはこう述べています。
「光と色の小さな調整で、自閉症の子どもたちの世界は少し穏やかにできるかもしれない」
光に敏感なその目は、世界を避けているのではなく、世界の“強さ”を正直に感じ取っているのです。
その静かなサインに、周りの私たちが気づけるかどうか。
それが、理解の第一歩なのだと思います。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07100-7)(画像:たーとるうぃず)
「光の強弱が大きいほど、定型発達の子どもでは瞳孔の開きと視線の動きが同時に変化しました。
しかし自閉症の子どもでは、そのタイミングが少しずれていた」
感覚の困難が想像できます。
適切な配慮につなぐ研究です。
(チャーリー)




























