この記事が含む Q&A
- 自閉症の人は一般の精神科病棟にどれくらい入院しているのですか?
- おおむね約10%で、子どもは約13%、大人は約4%と報告されています。
- 専門の自閉症病棟と一般病棟では、どのような違いがあるのですか?
- 専門病棟はスタッフを増やし個別支援計画や環境調整を行い、不安や行動の問題が減少する傾向があります。
- この課題を改善するにはどんな方策が有効とされていますか?
- 入院前の地域支援を強化し一般病棟の支援体制を改善し、成人自閉症の研究を拡充することが挙げられます。
精神科の病棟に入院している人の中に、自閉症の人がどれくらいいるのか。
この問いに正確に答えることは、実はこれまで難しいことでした。
研究ごとに数値が大きく違い、子どもと大人のどちらを対象にしているか、
また入院先が「自閉症専門病棟」か「一般の精神科病棟」かによっても結果が異なっていたからです。
イギリスのバーミンガム大学の研究チームは、この問題を整理するために、これまでに世界で発表された18件の研究をまとめ、自閉症の人が一般的な精神科入院施設にどれほど多いのかを統計的に分析しました。
対象となった入院者は合計で540万人を超え、その中に含まれる自閉症の人は約4万人でした。
結果は明確でした。
一般の精神科病棟に入院している人のうち、およそ10%が自閉症と診断されていたのです。
これは、一般人口の自閉症の割合(約1%)と比べると10倍の高さです。
しかも、年齢で分けてみると、子どもでは13%、大人では4%と差が見られました。
つまり、子どもの精神科病棟では、10人に1人以上が自閉症の子どもだったのです。

研究者たちは、この結果を「偶然とは考えにくい」としています。
自閉症の人は、もともと不安やうつなどの精神的な困難を抱えやすく、
危機的な状況に陥るリスクも高いことが、これまでの多くの研究から示されてきました。
たとえば、自閉症の若者は自傷行為をする割合が高く、14〜17歳の時期には、同年代の非自閉症の子どもに比べて、
男の子で約4倍、女の子で約2倍の確率で自傷行動がみられるという報告があります。
また、自閉症の人の25%が自殺を考えた経験をもち、8%が自殺を試みたことがあるとも言われています。
こうした背景が、入院の多さにつながっているのです。
子どもと大人の差について、論文は次のように説明しています。
子どもの場合、感情の爆発や他者への攻撃、自傷など、いわゆる「行動上の問題」が入院のきっかけになることが多いといいます。
これらの行動は、自閉症の特性と環境の不一致から生まれやすく、家庭や学校での支援が十分でないと深刻化します。
一方で、大人の場合は、うつ病や統合失調症などの別の精神疾患として入院するケースが多く、自閉症が見過ごされている可能性もあります。
つまり、大人のほうが「診断されていないまま入院している自閉症者」が多いのかもしれません。
このメタ分析で対象となった研究は、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、イラン、トルコなど、さまざまな国や文化圏から集められています。
しかし、国や地域の違いによって有病率に大きな差は見られませんでした。
また、自閉症の診断方法が「医療記録」「専門医の判断」「複数の専門家による評価」など異なっていても、結果には統計的な差がありませんでした。
どんな基準で見ても、精神科入院施設における自閉症の割合は明らかに高かったのです。

研究チームはこの結果を「深刻なサイン」と捉えています。
なぜなら、こうした入院施設の多くは一般的な精神科病棟であり、自閉症の人に特化した支援体制が整っていないからです。
一般病棟では、スタッフが自閉症について十分な訓練を受けていないことが多く、声かけや集団プログラム、環境の変化が、かえって不安や混乱を増やす場合があります。
食事の時間や人との関わり方、照明や音の強さなど、ささいなことが強いストレスとなり、回復を妨げることもあります。
一方で、専門の自閉症病棟では、スタッフ数を多く配置し、個別の支援計画や環境調整を行うことで、入院中の不安や行動の問題が大きく減ることが報告されています。
たとえば、デンマークの研究では、専門病棟に入った子どもたちは、入院期間中に攻撃的行動や自傷行動が大きく減少したといいます。
しかし、こうした専門病棟は世界的にも数が限られており、多くの自閉症者は依然として一般病棟で治療を受けざるをえません。
この論文が特に警鐘を鳴らしているのは、「自閉症の人が増えている」だけでなく、「その人たちのニーズに合った入院体制が整っていない」という現実です。
研究チームは、一般病棟でも改善の余地があると述べています。
具体的には、自閉症ケアパスウェイと呼ばれる取り組みが有効とされています。
これは、スタッフ全員に自閉症理解のための教育と実践トレーニングを行い、
感覚環境の調整や個別対応マニュアルを備えた支援の仕組みです。
アメリカの研究では、この方法を導入した病棟では、入院期間が短くなり、薬の使用や身体拘束が減ったことが報告されています。

また、研究では質の高いデータを集めることの重要性も強調されていました。
今回の18件の研究の中には、方法や報告の質にばらつきがありました。
一部の研究では、自閉症の診断方法が明確でなく、性別や年齢、民族などの情報が記載されていないこともありました。
それでも、報告の質が高い研究ほど、自閉症の割合が高くなる傾向が見られたため、実際の割合は、今回の推定値よりもさらに高い可能性があります。
このように、入院施設における自閉症者の割合は明らかに高く、とくに子どもの入院では顕著です。
それにもかかわらず、入院環境は依然として「非自閉症者向け」に設計されており、自閉症者にとって安心できる環境とは言いがたい現状があります。
照明の強さ、食事の変化、声のかけ方、他の患者との距離感——どれもが日常生活では問題なくても、自閉症の人にとっては強いストレス源になりえます。
その結果、入院そのものが二次的な不安や混乱を生むこともあります。
研究チームは、次の3つの方向性を提案しています。
ひとつは、入院が必要になる前に支援を強化すること。
地域でのメンタルヘルス支援や危機対応を充実させれば、
入院に至るケースを減らせる可能性があります。
ふたつめは、一般病棟の支援体制を改善すること。
スタッフ教育や環境調整、本人の感覚特性に合わせた対応マニュアルを整備することが重要です。
そしてみっつめは、成人の自閉症者についての研究を増やすこと。
現在の研究の多くは子どもを対象としており、
大人の実態はまだ十分に明らかになっていません。

最後に、この研究の結論はこうまとめられています。
「自閉症の人は、一般の精神科入院施設において明らかに過剰に存在している。
その割合はおそらく6〜16%の範囲にあり、
私たちが考えている以上に多くの自閉症者が入院している可能性が高い」。
それは単なる数字の問題ではありません。
その背後には、危機の中で適切な支援を受けられず、不安と孤立の中に置かれている人たちの姿があります。
自閉症という特性を持つ人が、安心して休める場所とはどんな場所なのか。
この研究は、社会全体にその問いを突きつけています。
(出典:Review Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s40489-025-00525-x)(画像:たーとるうぃず)
厳しく思う現実です。
「自閉症という特性を持つ人が、安心して休める場所」
求められています。
(チャーリー)




























