この記事が含む Q&A
- 歯医者が怖い気持ちは発達特性と関係があるのでしょうか?
- 記事では、発達に特性のある子どもでは「音・におい・振動」などの感覚過敏や予測できない不安、コミュニケーションの難しさが重なり、通院そのものが負担になり得ると述べています。
- 軽度の知的障害のある子どもにVRは歯科治療を最後まで進めやすくするのでしょうか?
- 記事の研究では、VRを使った群で約78.6%が予定時間内に治療を最後まで終えられ、モニター群の46.4%より高い結果でした。
- VRとモニター動画の違いは何ですか?
- 記事では、モニターは現実の環境のまま注意をそらすのに対し、VRは視覚や聴覚を含めて別の空間に入り現実の刺激から距離を取れる点が大きいとしています。
歯医者に行くのが怖い。
この感覚は、多くの人にとって思い当たるものではないでしょうか。
とくに子どもにとって、歯の治療は「音」「におい」「振動」など、強い刺激に囲まれた特別な体験です。
そして、その不安や恐怖は、ただの「苦手」ではなく、通院そのものを避けてしまうほど強くなることもあります。
こうした傾向は、発達に特性のある子ども、たとえば自閉症や知的障害のある子どもでは、さらに強く現れることがあります。
感覚の過敏さや、予測できない状況への不安、コミュニケーションの難しさなどが重なり、歯科治療そのものが大きな負担になってしまうからです。
では、そのような子どもたちが、少しでも安心して治療を受けられる方法はあるのでしょうか。
この問いに対して、新しい可能性を示す研究が発表されました。
イタリアのオアジ研究所IRCCS(Oasi Research Institute–IRCCS)などの研究チームは、軽度の知的障害をもつ子どもたちを対象に、「バーチャルリアリティ(VR)」を使った方法と、従来の「モニターでの動画視聴」を比較し、どちらが歯科治療を最後までやり遂げやすくするのかを調べました。
研究には、11歳から15歳までの軽度知的障害のある子ども56人が参加しました。
全員が中程度の歯科不安を持っており、実際に虫歯の治療が必要な状態でした。
子どもたちは2つのグループに分けられました。

一方のグループは、治療中にVRゴーグルを装着し、自然の風景などを模した仮想空間の中で過ごします。
火・水・風・土といった要素をテーマにした、リラックスできる環境が映し出され、子どもはその中に「入り込む」ような感覚を体験します。
もう一方のグループは、歯科用チェアの前に置かれたモニターで、好きなアニメや動画を見ながら治療を受けます。
これは、一般的に行われている「気をそらす」方法です。
どちらも「気を紛らわせる」という点では同じですが、大きな違いがあります。
モニターの場合、子どもは現実の環境にいながら、注意を別のものに向けます。
一方、VRでは、視覚や聴覚を含めてまるごと別の空間に入り込むため、現実の刺激そのものから距離を取ることができます。
では、この違いは、実際の治療にどのような影響を与えたのでしょうか。
結果は、はっきりとしたものでした。
VRを使ったグループでは、約78.6%の子どもが、予定された時間内に治療を最後まで終えることができました。
一方で、モニターを使ったグループでは、その割合は46.4%にとどまりました。
つまり、VRを使った場合、治療を完了できる可能性は大きく高まっていたのです。
統計的な分析でも、この違いは偶然ではないとされ、VRを使った子どもは、モニターの場合と比べて、4倍以上の確率で治療を完了できることが示されました。

なぜ、このような差が生まれたのでしょうか。
研究では、VRの「没入感」が大きな役割を果たしていると考えられています。
歯科治療では、音や振動、口の中への触覚など、さまざまな刺激が同時に押し寄せます。
これらは不安や恐怖を引き起こしやすい要因です。
しかしVRでは、視界そのものが別の世界に置き換わるため、現実の刺激に対する注意が大きく減少します。
さらに、心地よい映像や音に集中することで、感情的な反応も和らぎやすくなります。
その結果、子どもは不安を感じにくくなり、治療に協力しやすくなると考えられます。
興味深いことに、この効果は男女で少し異なる傾向も見られました。
女の子では、VRを使った場合の成功率が特に高く、モニターとの違いがより大きく現れました。
一方で男の子では、VRの効果は見られたものの、統計的にははっきりした差とは言えませんでした。
ただし、この結果について研究者は慎重な見方をしています。
参加人数が限られているため、この男女差は今後の研究で確かめる必要があるとされています。
また、この研究にはいくつかの制約もあります。
たとえば、参加者はすべて軽度の知的障害を持つ11〜15歳の子どもに限られており、より年齢の低い子どもや、重度の障害がある場合にも同じ結果が得られるかはわかっていません。
さらに、今回の評価は「1回の治療を最後までできたかどうか」に限られており、長期的に不安が減るかどうかや、繰り返しの通院への影響は調べられていません。
それでも、この研究が示した意味は小さくありません。
歯科治療における最大の課題の一つは、「そもそも治療を受けられるかどうか」です。
どれだけ技術が進んでも、患者がその場にいられなければ治療は成立しません。
その意味で、「最後まで治療を受けられる可能性が高まる」という結果は、とても現実的で重要な意味を持っています。
そしてそれは、単に歯の健康だけでなく、生活の質そのものにも関わってきます。
歯の問題が放置されると、痛みや感染だけでなく、食事や会話にも影響が出てきます。
とくに発達に特性のある子どもにとっては、それが日常生活全体の負担につながることもあります。

今回の研究は、そうした負担を減らすための一つの方法として、VRという技術が現実的に役立つ可能性を示しています。
ただし、VRはあくまで「道具」です。
どのような映像が適しているのか、どのような子どもに効果があるのか、どのような場面で使うのがよいのか。
そうした細かな条件については、これからさらに検討されていく必要があります。
また、コストや導入のしやすさといった現実的な問題も考える必要があります。
それでも、これまで「難しい」とされてきた場面に対して、新しい選択肢が生まれていることは確かです。
歯医者が怖い。
その気持ちを、無理に押さえ込むのではなく、別の形で受け止めていく。
その一つの方法として、「別の世界に入る」という体験が、これからどのように使われていくのか。
その広がりは、まだこれからなのかもしれません。
(出典:Children)(画像:たーとるうぃず)
好きな人はいないと思います。
けれど行かなければ、どんなにすばらしい歯医者さん、技術があってもなんともなりません。
大きな一歩を踏み出すための支援になりますね。
自閉症の子どもたちが歯医者に行けるように。米カリフォルニア大
(チャーリー)




























