
この記事が含む Q&A
- 高機能自閉症の子どもたちへの支援にはどのような取り組みがありますか?
- 個別調整のカリキュラムや社会性・感情面の発達を促すプログラムを提供しています。
- 音楽療法が発達障害の子どもたちにどのような効果がありますか?
- 自己表現や感情の安定、社会性の向上に役立ちます。
- ゲートウェイ・アカデミーの特色は何ですか?
- 少人数制、個別サポート、多彩な音楽プログラムと生徒の主体性を育てる工夫が特徴です。
アメリカ・アリゾナ州フェニックスにある私立の中高一貫校「ゲートウェイ・アカデミー」では、卒業を控えた生徒たちが、年に一度の卒業コンサートのリハーサルに取り組んでいます。
この学校は、発達障害の中でも「高機能自閉症」といわれる特性をもつ子どもたちを対象に、個別に調整されたカリキュラムや、社会性や感情面の発達を促すプログラム、実生活に役立つスキルを育む体験を提供しています。
1クラスの人数はおよそ12人から14人と少人数で、生徒一人ひとりに丁寧な支援が行われています。
その中の一人、高校最終学年にあたるカーソン・ガーは、卒業式で「スマッシュ・マウス」の『オール・スター』をドラムで演奏するのを楽しみにしています。
卒業後は、ノーザン・アリゾナ大学への進学が決まっており、生物学を専攻する予定です。
将来は医師か獣医になることを夢見ています。
また、音楽の街フラッグスタッフでの学生生活も待ち遠しいようです。
「音楽仲間の友だちも数人いるので、一緒にバンドを組んで、アンダーグラウンドの音楽シーンに参加できたら面白そうだと思っています」
カーソンの母親であるレイ・ラリックは、カーソンが今のように前向きな姿勢を見せるとは、高校1年生の頃には想像もできなかったと話します。
当時は普通の公立高校に通っていましたが、コロナ禍直後の新学期ということもあり、うまく適応できず、成績もふるいませんでした。
家族は不安を感じ、ほかの選択肢を探し始めます。
ゲートウェイ・アカデミーを見学した当初、カーソンは少し戸惑っていたそうです。
しかし校内を案内されたとき、彼は「まるで自分と同じような子たちが集まった学校だ」と感じたといいます。
そして音楽室に足を踏み入れた瞬間、「ここが完璧な場所だ」と確信したといいます。
先生たちともすぐに打ち解け、「この人たちは自分のことを理解してくれる」と感じたそうです。
その後、カーソンは順調に学び、ノーザン・アリゾナ大学から全額奨学金での入学を許可されるまでになりました。
母親のラリックは感慨深くこう言います。
「本当に大きく成長しました。
あの頃は高校を中退するかもしれないと心配していたのに、今では大学生になろうとしています」
カーソンがこうした変化を遂げた背景には、「音楽療法」の存在があります。
初めて音楽室に入ったときのことを、「まるでお菓子屋さんに入った子どものような気持ちでした」と語ります。
そして、学校初日に「今日からもう楽器を演奏できるよ」と言われ、ベースを手に取り、仲間と一緒にロックを演奏したその瞬間が、彼にとって初めてのバンド体験となりました。
2年生になるとドラムの練習も始めました。
金曜日には「課題がすべて終わったら楽器を演奏できる」という特別な配慮があり、ドラムやベースを自由に演奏できる時間が、ご褒美として用意されているのです。
「気持ちの整理にもなるし、やる気も出ます」とカーソンは話します。
音楽が学校に行くモチベーションにもなっており、「今日は学校に行きたくないな……と思っても、『でもドラムができる日だ』と思うと、気持ちが変わるんです」と母親は笑います。
その結果、成績にも好影響が表れました。最初の1年はまだ波があったものの、2年生の2学期にはすでに成績はオールAとなり、すべての先生が「クラスにいてくれて嬉しい」と評価してくれるようになりました。
音楽を通して自信を持ち、周囲の生徒からも「ベースの上手な子」「ドラムもできる子」として知られるようになったのです。
カーソンは、「音楽は感情を表現する手段としてとても役に立ちました。とくに自閉症の人にとっては、自分の気持ちを伝える方法として音楽は最適だと思います」と語ります。
いまでは学校外でもバンド活動を楽しんでおり、「アリス・クーパー・ソリッド・ロック・ティーン・センター」にも立ち寄って、セッションをすることがあるそうです。
「ゲートウェイの音楽環境とリチャード先生のおかげで、学校外でも音楽を続ける自信が持てるようになりました」と感謝を述べています。
音楽療法を担当する教師の一人、リチャード・ボーゲンは、アリゾナ州立大学で音楽療法を学び、2015年からゲートウェイ・アカデミーで教えています。
もう一人の担当者ジェイソン・クロンとともに、音楽を通じて生徒たちの人間関係や感情の安定、感覚への対応、自己表現などを支援しています。
ボーゲンはこう説明します。
「クラスはすべて“バンド”のようなものです。
音楽を聴き、話し合い、演奏方法を学び、演奏したい曲を選んで、みんなで練習し、年末の卒業コンサートで発表します」
生徒の中には、入学時はほとんど人と話さなかった子が、コンサートでステージに立って演奏するようになる例もあります。
しかし重要なのは、単に音楽の技術を学ぶことではなく、その裏にある成長です。
「社会性や不安の克服、細かな動作の練習など、音楽を通して実に多くのことが自然に身についていくのです」
そう、ボーゲンは話します。
また、「自分の好きな音楽について語ること」自体が、自信を育む訓練にもなります。
「誰にでも音楽に対する好みがあり、それを語ることに正解も間違いもないんです。
だからみんなが“音楽の専門家”になれるんです」
ゲートウェイ・アカデミーは、ロビン・スウィートとその夫トーマス・ブルームによって2005年に設立されました。
ブルームは教育学の博士号をもち、大学の学長などを歴任した教育行政の専門家でもあります。
設立当時、彼らの息子も8年生としてこの学校に通っていました。
学校では、楽器に触れたことのない生徒でも必ずコンサートに参加できるよう工夫されています。
たとえばギターの授業では、生徒にとって難しくないパートから順に段階を追って習得させていきます。
投票で曲を決めることで、生徒の主体性も育てています。
高校最終学年のアレックス・バドゥーも、音楽活動を通して大きく成長した生徒の一人です。
5年生からこの学校に通い、放課後の音楽クラブやバンド活動にも参加してきました。
「ステージでの存在感は、このバンドで得られた一番の宝物でした。
自信や魅力を持って人前に立てるようになりました」
アレックスの母親クリスティン・バドゥーも「子どもたちにとって、創造し、協力し、観客の前で自分を表現する機会になる、本当に素晴らしいイベントです」と話します。
彼女は、息子がさまざまな音楽ジャンルに親しみ、それが一生の財産になると感じています。
ボーゲンにとっての喜びは、生徒とともに演奏する瞬間そのものです。
「いろんなバンドで演奏していますが、生徒たちと一緒にロックを演奏しているときが一番楽しいですね。
まるで自分がこの子たちのバンドメンバーになったような気持ちです」
ゲートウェイ・アカデミーの音楽室では、今日も楽器の音と笑顔があふれています。
そしてそこでは、生徒たちが音楽を通じて、自分らしさを見つけ、未来に向けて羽ばたく準備をしているのです。
(出典・画像:米azcentral.)
音楽の力、そして本当にすばらしい学校ですね。
子どもが笑顔で学校に通えたら、親にとっても最高にうれしいことです。
(チャーリー)