この記事が含む Q&A
- 外あそびの頻度や時間が多いほど、ADHD症状が低い傾向が見られたのですか?
- はい、0〜1歳・1〜3歳の双方で外あそびが多いほどADHD症状が低い傾向が観察されましたが、因果関係は断定されていません。
- どの時期の外あそびが影響したと考えられていますか?
- 0〜1歳と1〜3歳の両時期で、頻度と時間の多さがADHD症状の低下と関連していました。
- 研究にはどんな限界がありますか?
- 親の記憶に依存する点や外あそびの質を測っていない点、地域限定で他地域へ外挿しにくい点、因果関係の確定には至っていない点が挙げられます。
中国・深圳市の龍華区で行われた大規模な疫学研究が、幼い子どもたちの外あそびの時間とADHD症状のあいだにどのような関係があるのかを明らかにしようとしています。
研究を実施したのは、広東省第二中医医院、仏山市第二人民医院、広州アイアー眼科病院(済南大学附属)、そして 深圳市龍華区婦幼保健院 に所属する研究チームです。
いずれも中国南部の医療・研究機関で、地域の子どもを対象とした大規模調査を多く手がけています。
今回の研究は、これまで世界的にもほとんど例のない 55,528人 もの幼稚園児を対象に、0〜3歳のころの外あそびと、現在のADHD症状の強さにどのような関連があるのかを調べようとしたものです。
これほどの人数を対象に、しかも乳幼児期の生活習慣についてここまで細かく尋ねた調査はめずらしく、その結論は子どもを育てる家庭や保育の現場にとっても多くの示唆を与える内容になっています。
研究チームは、龍華区にある250の幼稚園を通して保護者に質問票を配布しました。
調査は2021年10月から11月にかけて行われ、59,600枚の質問票が配布されました。
そのうち56,740枚が返送され、最終的に欠損のない55,528枚が分析に使われました。
回答率は95%を超えており、地域全体の生活実態を非常に良く反映したデータだといえます。
研究で尋ねられた内容は、大きく分けて三つあります。
ひとつは家庭の状況です。家族の所得、父母の学歴、結婚状況、子どもが一人っ子かどうかなどが含まれています。
ふたつ目は外あそびの様子で、0〜1歳のころ、そして1〜3歳のころ、どれくらいの頻度で外に出たか、そして1回あたりどれくらいの時間を外で過ごしたかを尋ねました。
外あそびは「太陽が出ている時間に外へ出る活動」と広く定義されており、屋外散歩、ベビーカーでの外出、公園遊びなどが含まれます。
そして三つ目が、現在のADHD症状です。
これはSDQという評価尺度の「多動・不注意」項目を用いて測定されました。
SDQは世界中の研究で使われている子どもの行動評価ツールで、今回の対象年齢にも妥当性が確認されている方法です。

調査対象となった子どもたちの平均年齢は5.15歳で、男児が53.3%、女児が46.7%でした。
SDQの基準に照らすと、ADHD症状が「臨床的に高い」と分類される子どもは全体の 6.9% でした。
この数字は、大規模な国際研究で示されているADHDの世界的有病率(約5〜6%)とほぼ一致しており、「ADHDの発生率には人種的な違いは大きくない」というこれまでの知見を裏づけています。
外あそびとADHD症状の関係を見る前に、研究チームはまず、社会経済的な背景がADHD症状にどのように影響しているかを調べました。
年齢が低いほど症状が強い傾向があり、男児は女児よりもスコアが高い傾向にありました。
また、家計収入が少ない家庭、父母の学歴が低い家庭、あるいは一人っ子の子どもや両親が別居・離婚している家庭の子どもは、より高いADHDスコアを示していました。
こうした影響は先行研究でもたびたび指摘されてきたもので、今回の中国の大規模データでもはっきり確認されました。
そのうえで研究チームは、外あそびの頻度と時間がADHD症状とどのように関係しているのかを分析しました。
統計の際には、家庭の収入、学歴、性別、年齢など、症状に影響を及ぼす要因をすべてモデルに組み入れたうえで、外あそびの要素が独立してどれだけ関連しているのかを調べています。

結果は非常に明確でした。
0〜1歳のころでも、1〜3歳のころでも、外あそびの頻度が高いほど、あるいは外で過ごす時間が長いほど、ADHD症状のスコアが低い傾向が一貫して見られました。
たとえば、0〜1歳で週1回未満しか外に出なかった子どもと比べると、週3〜6回外に出ていた子どもはスコアが大きく低くなり、週7回以上外に出ていた子どもではさらに大きな差が見られました。
1〜3歳の時期でもまったく同じパターンが確認されており、「外あそびが多いほど症状が弱い」という関係はどちらの年齢でも変わりませんでした。
また、外あそびの「長さ」についても同じように、30分未満を基準にすると、60〜89分、90〜119分、そして120分以上と増えるごとにスコアが段階的に下がっていました。
この「段階的に変化する」関係は、外あそびの量が増えるほど症状が低くなるという「量反応関係」を示唆しており、研究結果の信頼性を高める要素にもなっています。
こうした関連が確認されたからといって、「外あそびを増やせばADHDが治る」といった直接的な因果関係を断定することはできません。
研究チーム自身も、この点には十分注意を払っています。
たとえば、もともと落ち着くことが難しい子どもは、外出の準備や安全管理がより大変で、外あそびの頻度が少なくなってしまう可能性があります。
あるいは、外あそびの多い家庭は経済的にも余裕があり、親の関わり方が違う可能性があります。
今回の調査では、こうした要因を完全に切り分けることはできません。

それでも、この規模の研究で同じ傾向が一貫して見られたことは、乳幼児期の環境が子どもの行動発達と関係している可能性を強く示唆します。
0〜3歳という時期は、脳の神経回路が急速に発達する非常に重要な時期です。
外に出ることは、太陽光を浴びる、風を感じる、地面の感触を知る、周囲の音を聞く、ほかの子どもや大人と触れ合うなど、多様な刺激をもたらします。
これらの刺激が、注意の向け方や感情の調整、衝動のコントロールといった行動の基盤形成に何らかの影響を及ぼしている可能性があります。
また、1〜3歳の外あそびでは、子ども自身が体を動かし、自分で探索する時間が増えます。
走ったり、転んだり、登ったり、さまざまな動きを試すことで、身体感覚やバランス感覚が育ちます。
外の環境は、屋内よりも複雑で予測できない要素が多く、それらに自分の行動を合わせる経験が、脳の実行機能(じっこうきのう)を刺激する可能性があります。
研究チームは論文のなかで、外あそびの影響を直接測定したわけではないものの、既存の研究を踏まえて、このような可能性があると述べています。
とはいえ今回の研究には限界もあります。
外あそびの頻度や時間は保護者の記憶に基づいており、どうしても誤差が生じます。
また、外あそびの「質」については測定していません。
公園で体をたくさん使って遊ぶのと、ベビーカーで短時間散歩するのとでは、子どもへの影響が異なっている可能性があります。
さらに、龍華区という都市部の地域に限定された調査であり、中国の他地域や他国にそのまま当てはまるとは限りません。

それでも、都市化が進み、子どもの外あそびが減りやすい地域で、乳幼児の外に出る機会が子どもの行動に関係している可能性を示した点は、非常に重要です。
子どものADHD症状については、家庭の努力だけではどうにもならない部分が確かにありますが、「外に出る機会を増やす」という取り組みは比較的実行しやすく、生活に取り入れやすいものです。
もちろん、ここで示された関連が「外あそびさえすれば問題が解決する」という意味ではありません。
しかし、外あそびが子どもの心や行動の育ちに良い影響を与える可能性は広く指摘されており、今回の研究はその重要性を改めて裏づけるものだといえます。
研究チームは、今後はより長期的な追跡調査や実験的研究によって因果関係を確かめる必要があると述べています。
また、都市部では公園や緑地の確保、安全に外へ出られる環境づくりなど、社会全体での取り組みも重要です。
外あそびの効果をより深く理解することで、子どもの行動や発達を支える新しい視点が生まれる可能性があります。
今回の研究は、「外で遊ぶことが、子どもの心と行動にどんな意味をもつのか」を改めて考えるきっかけになるものです。
子どもが風を感じ、太陽の光を浴び、広い世界へ少しずつ歩み出す時間は、単なる遊びの時間ではなく、未来の成長を形づくる大切な体験なのかもしれません。
(出典:BMC Public Health DOI: 10.1186/s12889-025-25865-5)(画像:たーとるうぃず)
理屈なしに、外に出て、陽の光を浴びて楽しく体を動かすことは、誰にとっても良いはずです。
寒くなってきたので、外に出ることが難しくても、明るい窓辺で遊んで欲しいと思います。
うちの子も朝は施設に行くまでの間、窓辺のいすに座ってよくひなたぼっこをしています。
(チャーリー)




























