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74万件投稿からAI分析、自閉症による悩みや経験。研究

time 2025/06/10

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74万件投稿からAI分析、自閉症による悩みや経験。研究

この記事が含む Q&A

自閉症スペクトラム障害(ASD)の当事者や家族はどのような困難に直面していますか?
食事のこだわりや社交の難しさ、自己理解やアイデンティティの葛藤が多く語られています。
Reddit上の自閉症に関する投稿から得られる主な理解は何ですか?
当事者や家族は「個性の一部」として困難を受け入れ、社会の期待とのギャップを埋める工夫をしていることです。
これらの研究結果が支援や理解にどのように役立ちますか?
実際の語りから得られる洞察をもとに、より本人に寄り添った支援や社会理解の深化が期待されます。

自閉症スペクトラム障害(ASD)に関する理解は、近年、社会全体で大きく広がっています。
かつては医療や研究の世界だけで語られていた自閉症ですが、インターネットやSNSの登場によって、今や当事者やその家族が自分の言葉で日々の体験や感じていることを発信できる時代となりました。

とくにアメリカ発の大型掲示板「レディット(Reddit)」は、世界中の当事者や保護者、支援者が参加し、匿名で悩みや喜び、日常の工夫や社会への思いを語る場所となっています。
今回ご紹介する研究は、このレディット上で実際に語られている自閉症関連の話題を、人工知能による自然言語処理技術を使って大規模に分析したものです。

この研究はトレント大学を中心に、米国・英国の大学と緊密に協力し合いながら実施された、欧米横断型の共同研究プロジェクトによるもので、『Autism Research』誌に掲載されています。

研究の目的は、レディット上に投稿された自閉症関連の語りから、「どんな話題が最も多く、どんな悩みや経験が共有されているのか」を、できるかぎり網羅的かつ客観的に抽出することでした。
そのために使われたのは「BERTopic(バートピック)」という最先端のトピックモデリング手法です。
これは従来の単純な単語の出現頻度分析とは異なり、文脈や意味も考慮しながら、膨大な書き込みを自動でグループ分けすることができます。

分析の対象となったのは、2009年から2023年までに投稿された合計74万件を超える自閉症関連のレディット投稿です。
主な投稿元は、「r/autism(オーティズム)」という最大のサブレディット(掲示板)と、その他「r/AutismInWomen」「r/AutisticAdults」「r/Autism\_Parenting」など、合計16の自閉症関連サブレディットです。
書き込みは、当事者本人だけでなく、家族や保護者、支援者、関心を持つさまざまな人々によって寄せられていました。

まず、「r/autism」から抽出された話題を見ていきます。
このサブレディットはとくに利用者数が多く、投稿数も30万件を超えています。

分析の結果、最も多く語られていたのは「食事や食べ物に関する困難とこだわり」でした。

ここには、「食べる」「食べ物」「テクスチャー」「味」などの単語が頻繁に登場し、多くの人が自閉症特有の食感や味への敏感さ、決まった食べ物しか受けつけないなどの悩みや経験を語っていました。
これは従来の医学研究ではあまり重視されてこなかった側面ですが、当事者の語りからは非常に身近で切実なテーマであることが浮かび上がります。

次に多かったのは「マスキング」に関する話題です。

マスキングとは、自分の本来の特性や感じ方を周囲に合わせて隠す、あるいは「普通」に見せるための行動です。
「マスキング」「マスク」「アンマスク」といった語句が多く見られ、他人に溶け込むための努力や、その苦しさ、マスキングをやめる勇気について、多くの投稿が寄せられていました。
長年マスキングを続けてきたことで「自分が本当はどういう人間なのかわからなくなる」といった深刻な悩みも共有されていました。

また、「音楽の聴き方や体験」も上位の話題となっていました。
ここでは、「音楽」「曲」「歌詞」「プレイリスト」「バンド」などの単語が多く見られ、好きなジャンルや曲を繰り返し聴く習慣、歌詞よりも音そのものへの強い反応、特定の曲への深い愛着といった特徴が語られていました。
音楽は自閉症の人々にとって安心や自己表現の手段になる一方で、他人と趣味が合わないことへの孤独や、不安の声も見受けられました。

さらに、「恋愛やパートナーシップ」「友人関係の困難」「目を見て話すことへの苦手意識」といった対人関係に関する悩みも多く取り上げられていました。
たとえば、恋愛関係では、長期的なパートナーとのコミュニケーションの難しさや、付き合い始めの段階での不安、診断をいつ打ち明けるかといった悩みが語られました。
友人づきあいに関しても、「友だちを作りたい気持ちはあるが、実際には会話が苦手で疲れてしまう」「孤独を感じることが多い」など、社会的なつながりへの思いと現実のギャップが見えてきます。

「目を見て話すこと」の話題では、強い苦手意識や身体的な違和感についての体験談が多く共有されていました。
「目を見て話すのは苦しい」「どこまで続けるべきか悩む」など、多くの人が社会的な期待と自身の感覚の間で葛藤していました。

「感情の認識や表現」も頻出トピックです。
「感情が自分でもよくわからない」「あとから悲しみや怒りを実感する」「涙が出ても本当に悲しいのかわからない」といった、自分の感情と向き合うことの難しさが多く語られています。
こうした体験は外からは気づかれにくいものですが、本人たちにとっては日常生活を大きく左右する重要なテーマです。

一方、他の15サブレディット(約44万件の投稿)からも、共通する話題が多く抽出されましたが、より具体的な生活場面やライフステージごとの体験が強調される傾向がありました。

たとえば「診断やアセスメントを受ける過程」や「医療機関・専門家との関わり」、「大人になってから自分が自閉症だと気づいたときの戸惑い」など、診断や評価にまつわる悩みが多数寄せられていました。
とくに自己診断や女性の自閉症については「自分が本当に当てはまるのか不安」「診断基準が当てはまらない」といったアイデンティティの葛藤や、周囲からの理解のなさに悩む声が目立ちました。

「アスペルガー症候群」に関する語りも多く、長年マスキングして生きてきた人が「自分の本当の性格がわからなくなる」「家族にも似た特性がある」と気づく経験が共有されていました。
女性に特有の症状や現れ方が研究で十分に扱われていないことへの不満や不安も見られました。

また、薬の副作用や効果、服薬管理の体験、「ペットとの関係性」や「子育て支援」なども頻出話題でした。
ペットが孤独感や感情の揺れを和らげてくれる存在であることや、子どもの支援を求めて奮闘する親たちの苦労や葛藤が、多くの投稿で語られていました。

このような投稿群をトピックごとに整理すると、自閉症にかかわる「社会的コミュニケーションの違い」「行動や興味・活動のパターン」「日常生活の実践的な困難」「診断やアイデンティティの探求」といったテーマが浮かび上がります。

当事者の多くは、こうした違いを「欠陥」や「障害」とは捉えず、「自分らしさの一部」として語る傾向が強く、困難の多くは社会の側が「普通」と考える基準や期待に起因すると指摘しています。

たとえば、「決まった食べ物しか食べられない」「特定の音楽ばかり聴く」「友だち付き合いが苦手」「感情のコントロールが難しい」などの特徴は、表面的には“変わった行動”に見えるかもしれません。
しかし当事者は、それぞれが不安やストレスを減らすため、安心感を得るための方法として行っていることを強調しています。
こうした個人の“工夫”や“違い”が、コミュニティ内では理解と共感をもって受け入れられていることが、投稿内容から読み取れます。

また「マスキング」のような社会的適応行動も、本人にとっては大きな負担となり、精神的な疲労や燃え尽きの原因になることが明らかになっています。
Reddit上では、マスキングをやめて自分らしく生きるための工夫や勇気を共有し合い、共感や支援を受けている様子も多く見られました。

一方、この研究にはいくつかの制約があります。
たとえば、投稿のうち半数以上が自動的に「外れ値」とされ、トピック分類から除外されました。
また、投稿者が自閉症当事者であるかどうかは判別できず、英語圏中心の分析であるため、他言語や他文化への一般化には限界があります。
それでも、この規模の自然発生的な語りの分析から得られる知見は、臨床現場や支援政策のあり方を見直す大きな手がかりとなるでしょう。

まとめると、Redditという匿名で率直に語れる場を通じて、自閉症当事者や関係者が実際にどんな体験をし、どんな気持ちで毎日を過ごしているのかが、膨大な投稿から立体的に浮かび上がってきます。
とくに「食事」「音楽」「マスキング」「感情」「人間関係」などは、日常生活のごく身近なテーマでありながら、既存の研究や支援策では十分に扱われてこなかった重要な領域です。

今後は、こうした実際の語りに耳を傾けること、そしてAIや自然言語処理を活用した研究が、より当事者本位の支援や社会理解を生み出すきっかけとなるでしょう。
自閉症を「違い」として認め合う時代に向けて、この研究は新しい一歩を示しています。

(出典:Autism Research)(画像:たーとるうぃず)

どんな困難をかかえているのか?

こうして、正しく把握することで、より適切な支援につながっていくはずです。

ADHDと自閉症の「融合」。Redditでの10年の変化

(チャーリー)


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