
この記事が含む Q&A
- ADHDの感情的な特徴は本当に遺伝的に関連しているのですか?
- 研究によれば、ADHDの遺伝的リスクと感情の反応の変化が直接結びついています。
- ADHDの治療には感情や動機づけへのサポートも必要ですか?
- はい、感情や動機づけを理解し支援することが、治療や支援の新しい方向性となる可能性があります。
- これらの研究結果は、今後のADHDの診断や支援にどのように役立ちますか?
- ADHDの本質に「感情や動機づけ」も含めて理解されることで、より効果的な支援や教育につながることが期待されます。
ADHDの研究は長い歴史を持ちますが、最近ではこの症状が多様であることが知られるようになりました。
注意力が持続しないことや衝動性、多動といった行動上の問題がよく知られていますが、その背景には「感情」の調整や処理に関する問題も存在することが分かってきています。
これまでADHDは主に、「注意を維持できない」「じっとしていられない」「衝動を抑えられない」といった行動の問題が中心的に扱われてきました。
しかし、実際には「感情的な特徴」もまた、ADHDを持つ人たちにおいて重要な役割を果たしている可能性が指摘されてきました。
「感情的な特徴」とは具体的には、「感情の激しさ」「感情の変わりやすさ(情動の不安定性)」「怒りっぽさ」「刺激を求める傾向」などの性格的な側面を指します。
これらはADHDを持つ人にしばしば見られ、日常生活や対人関係の問題を悪化させる可能性があるとされています。
しかし、ADHDに伴うこうした感情の特徴が本当にADHDそのものに起因しているのか、それとも不安症やうつ病、反抗挑戦性障害(ODD)といった他の障害による併存症状の一部に過ぎないのかについては、議論が分かれていました。
「ADHDの感情的特徴は古いワインを新しいボトルに詰め替えただけのもので、実際には他の問題が原因なのではないか」という指摘もあり、研究者の間ではこの問題を明確に解決することが求められていました。
今回の研究チームは、この問題に対して科学的な手法を用いて明確な答えを導き出そうとしました。
研究で使用された手法は「ポリジーンスコア(PGS)」というもので、これは特定の症状や特性が遺伝的にどの程度影響されているかを示すスコアです。
ADHDのような複雑な疾患は、多くの遺伝子が少しずつ関わり合って発症することが知られており、この「ポリジーンスコア」が高いほど、遺伝的にADHDの発症リスクが高いことを意味します。
研究チームは、ADHD以外の併存症状である不安症やうつ病、反抗挑戦性障害(ODD)の遺伝的な影響や、それらの症状の重症度についても同時に評価しました。
こうすることで、情動的特徴が本当にADHD固有の遺伝的な影響なのか、それとも他の障害が影響しているのかを区別することができるようになりました。
この研究の結果、明らかになったのは、報酬刺激を受けたときの脳波(後期陽性電位:LPP)の振幅が、ADHDの遺伝的リスクが高い若者ほど小さくなり、反応が弱まっているということです。
この脳波(LPP)は、「何か報酬を受けた時の感情的な意味づけや認知処理」を反映しています。
一方、アルファ波の脱同期(ERD)という別の脳波パターンでは、ADHDの遺伝的リスクが高い若者ほど、刺激に対して脳が広範囲に強い反応を示していました。
このアルファ波の脱同期は、脳の活動が高まり、情動や動機づけのシステムがより強く活性化している状態を示しています。
これらの脳波データから分かったのは、ADHDの遺伝的傾向が強いほど、報酬に対して情動的な価値を十分に感じ取れなくなり(後期陽性電位の弱まり)、一方で刺激に対する広範囲の脳の活性化が過剰になる(アルファ波脱同期の増加)という、特異な脳の反応パターンがあるということです。
さらに重要なのは、これらの脳の反応が、不安症やうつ病、反抗挑戦性障害(ODD)といった併存症状の遺伝的影響や症状の重さとは関係なく、純粋にADHDそのものの遺伝的リスクと結びついていたということです。
研究チームはこれらの結果を、「ADHDの感情的特徴は単に他の症状の一部ではなく、ADHDそのものの本質的な特性である可能性が高い」と結論付けました。
つまり、「感情的な反応の違い」や「動機づけの仕組み」が、ADHDという障害の核心的な部分として理解されるべきだと示唆しています。
これまでのADHDの研究や診断、治療は、主に注意や衝動性の管理を中心に行われてきました。
しかし、今回の研究が示すように、「感情や動機づけ」といった要素もまた、ADHDの核心的な部分であることが明確になれば、ADHDの理解と支援は大きく変わる可能性があります。
これからの研究や治療では、こうした感情面や動機づけをどうサポートし、どのように改善していくかが重要な課題になるでしょう。
この研究は、ADHDを持つ多くの若者が、自分自身の感情や行動の理解を深め、より良い支援を受けるための重要な道筋を示しているのです。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
ADHDは、注意力が持続しないことや衝動性、多動といった行動上の問題、だけでなく、
- ADHDの遺伝的傾向が強いほど、報酬に対して情動的な価値を十分に感じ取れなくなる
- 刺激に対する広範囲の脳の活性化が過剰になる
→「感情や動機づけ」といった要素もまた、ADHDの核心的な部分。
という研究結果です。
(チャーリー)