この記事が含む Q&A
- 感覚の受け取り方の違いは反復行動にどう関わるのか?
- 身体の反復行動と同一性へのこだわりの双方に直接影響し、背景の心理過程は異なるとされています。
- 身体の反復行動と同一性へのこだわり、それぞれの心理過程は何か?
- 身体の反復行動は身体的な不安の高まりと、同一性へのこだわりは先が読めない状況のつらさと強く結びつきます。
- 自閉症のある人を支援する際のポイントは何か?
- 行為を否定せず、なぜその行動が必要かを理解し、予測できる環境や事前の知らせなど安心を広げる工夫が役立つとされています。
自閉症のある大人が日常生活の中で向き合っているものは、とても多層的です。
まわりの光や音が鋭く飛び込んでくるように感じたり、逆に身体がうまく情報を拾えなかったりする「感覚の受け取り方の違い」。
さらに、先が読めない状況に対する強い不安や、身体の中で湧き上がる緊張がなかなか下がらない感覚。
そして、そのような負担を少しでも和らげるために、身体を動かしたり、いつもどおりの順番や手順を守ろうとする反復的な行動。
それらは外から見ると「こだわり」や「不思議な癖」と受け取られてしまうこともありますが、本人の内側には明確な理由があります。
今回紹介する研究は、イギリスのニューカッスル大学、地域の医療機関であるCumbria, Northumberland, Tyne & Wear NHS Foundation Trust、そしてPopulation Health Sciences Instituteによるものです。
自閉症のある大人426名のデータを用いて、感覚の受け取り方の違いが、どのように反復行動と結びつき、その間に
「感情と言葉の結びつきにくさ(アレキシサイミア)」
「先が読めないことのつらさ」
「身体的な不安の高まり」
「社会的な場面での不安」
という4つの内面的な反応がどのように関わっているのかがていねいに分析されました。
この研究の大きな目的は、「感覚の困難 → 反復行動」というシンプルに見える流れの中に、どのような“心の過程”が存在しているのかを明らかにすることにあります。
外から見ただけでは決してわからない、自閉症のある人の内側で起きている反応を丁寧にほどき、その理解が本人への支援にどうつながるのかを考えるための重要な一歩です。
研究チームは、反復行動を2つに分けて調べました。
ひとつは、同じ動きを繰り返す、同じ言葉を唱える、手を振るなどの「身体の反復行動」です。
もうひとつは、いつもどおりであることを強く求める、予定が変わることへの抵抗が強い、特定の手順や興味を維持し続けるといった「同一性へのこだわり」です。
どちらも自閉症の特徴として知られていますが、実はその背景で働いている心理的な要素は異なっている可能性があります。
研究チームはその点に注目し、複数の心理的な変数が反復行動へどのように影響しているのかを詳しく調べました。

研究参加者のほとんどは、日常的な不安の経験も抱えていました。
これはもともと不安の高さを条件に含む研究であったためです。
調査は質問紙を用いて、感覚の受け取り方、反復行動の強さ、感情と言葉の結びつきにくさ、先が読めない状況に対する不安、身体の緊張やざわつきの強さ、社会的な場面での不安などが測定されました。
これらの指標を基に、感覚の受け取り方の違いが反復行動につながるまでの間に、どのような心理過程が入り込んでいるのかが統計モデルによって検証されました。
結果を見ていくと、まず非常に重要なことがわかります。
それは、感覚の受け取り方の違いは「身体の反復行動」と「同一性へのこだわり」のどちらにも直接的に影響していたという点です。
つまり、何らかの理由で感覚の処理が負担になりやすい状況があると、それがそのまま反復行動として表に出やすいということです。
しかし、興味深いのは、その“間に入る心理過程”が2つの反復行動でまったく違っていたことです。
まず、身体の反復行動に強く関わっていたものは「身体的な不安の高まり」でした。
これは、身体が緊張し、ざわざわし、落ち着かない感覚が強まる状態です。
この不安の高まりが強いほど、身体の反復行動が増えやすいという結果が得られました。
さらに、感情と言葉の結びつきにくさや先が読めない状況への不安が強い人ほど、この身体的な不安の高まりを経験しやすく、その心理過程を通して身体の反復行動が増えるという流れも確認されました。
これは、身体の反復行動が「身体の緊張を調整しようとする自然な反応」である可能性を示しています。
次に、同一性へのこだわりに関わっていたのは「先が読めない状況のつらさ」でした。
予定の変化や思いがけない出来事に対して強い不安を感じると、いつもどおりの手順やパターンに頼ることで安心しようとする傾向が生まれます。
この研究では、この「先が読めないことのつらさ」が同一性へのこだわりと強く結びついていることが明確に示されました。
また、感情と言葉の結びつきにくさが強いと、この「先が読めないことのつらさ」も強まり、その結果として同一性へのこだわりが高まるという流れも確認されています。

一方、社会的な場面での不安はどうだったのでしょうか。
この研究では意外な結果が得られています。
それは、社会不安はどちらの反復行動にも影響していなかったということです。
感覚の受け取り方の違いや身体的な不安、先が読めない状況のつらさとは相関がありましたが、反復行動を媒介する要素にはなっていませんでした。
これは、反復行動が「まわりの人にどう見られるか」よりも「自分の感覚や不安にどう対処するか」という内側の理由で生まれていることを示唆しています。
ここまでの結果をまとめると、身体の反復行動と同一性へのこだわりは、どちらも感覚の受け取り方の違いと深く関係していますが、その背景に働く心理的なメカニズムは異なっています。
身体の反復行動は主に「身体的な不安の高まり」と結びつき、同一性へのこだわりは「先が読めない状況のつらさ」と結びついています。
そして感情と言葉の結びつきにくさは、そのどちらも強める方向に働きやすいものの、単独で反復行動に影響するわけではなく、「身体の不安」や「先が読めない不安」と組み合わさって影響しています。
これらの結果から、自閉症のある大人を支援するうえで大切なことが見えてきます。
それは、反復行動を「問題」として捉えるのではなく、「背景にある感覚や不安を理解する手がかり」として見ることです。
身体の反復行動が増えているとき、それは身体的な不安の高まりを示すサインかもしれません。
いつもどおりの手順に強くこだわる姿が見られるとき、それは「先が読めないこと」がつらく、その状況を避けようとしているのかもしれません。
さらに、自閉症のある大人の中には「反復行動をまわりの目が気になって抑えてしまう」人もいます。
研究が示したように、社会不安は直接の媒介要因ではありませんでしたが、別のかたちで反復行動に影響する可能性があります。
反復行動を抑えようとすると、かえって不安が高まり、負担が大きくなることもあります。

反復行動が本人にとって安心のための方法である場合、その行動が否定されない環境がとても重要です。
研究チームは、感覚の受け取り方の違い、不安の種類、そして反復行動の役割を丁寧に理解することで、自閉症のある人へより適切な支援ができると述べています。
とくに、身体の不安が強い場合には身体の緊張を調整するための工夫が、先が読めない状況がつらい場合には「予測できる環境」や「変化を前もって知らせる工夫」が役立つ可能性があります。
反復行動そのものを無理に減らすのではなく、「なぜその行動が必要になっているのか」を理解し、本人が安心できる選択肢を広げることが大切です。
また、この研究の強みは、自閉症のある大人から得られた大規模なデータを基にしている点です。
性別に偏りが少なく、幅広い年齢層のデータが含まれているため、自閉症の多様性に配慮した分析が可能でした。
ただし、研究参加者は不安を強く経験している人が多かったため、一般的な自閉症成人すべてに完全に当てはまるわけではないことも述べられています。
また、調査は一時点のデータに基づいているため、感覚の受け取り方の違いが反復行動を引き起こすのか、それとも反復行動を必要とする状況が感覚の違いを強めるのかという「因果関係」までは断言できません。
それでも、この研究が示した「反復行動の背景にある心のメカニズムの違い」は、支援や理解にとって非常に価値のある示唆を与えてくれます。

自閉症のある人が安心して生活するためには、反復行動を抑えるよりも、「どんな不安や感覚の負担がそこにあるのか」をていねいに見つめることが必要です。
まわりが理解し、環境が調整され、本人が自分の感覚と向き合いやすくなることで、反復行動は「必要だから使うもの」から「安心のために選べるもの」へと変わっていきます。
最後に、この研究が伝えているメッセージはとても静かで、しかし深いものです。
反復行動は、ただの行動ではなく、自閉症のある人が世界と向き合うときの“大切な手段”であるということ。
そして、その行動の背景にある感覚や不安、感情のとらえ方を理解することが、本人の安心につながるということです。
自閉症のある人の暮らしは、まわりの理解と環境の調整によって大きく変わります。
この研究が示した知見は、その理解の一歩を支える大切なものになるはずです。
(出典:AUTISM RESEARCH DOI:10.1002/aur.70145)(画像:たーとるうぃず)
「反復行動が本人にとって安心のための方法である場合、その行動が否定されない環境がとても重要」
自分を守るための対応策を奪ったり、躊躇させるようなことは、絶対にやめてください。
(チャーリー)





























