
この記事が含む Q&A
- 児童の脳活動と筆記動作を同時に測定する新しい方法は、自閉症・ADDの子どもたちの支援に役立ちますか?
- はい、客観的に特性や困難さを把握しやすくなり、早期支援に繋がります。
- この研究で用いられた技術、fNIRSとペンタブレットは、学校や家庭でも導入しやすいでしょうか?
- はい、小型で負担が少なく、環境に適応しやすいと考えられます。
- この方法で子どもの困難さを理解することで、どのような支援が期待できますか?
- 具体的な支援方針や子どもの特性に合わせたサポートが可能になります。
注意欠如・多動症と自閉症を併せ持つ子どもたちは、授業中に集中が続かなかったり、決められた手順で行動するのが苦手だったりすることがあります。
本人も「頑張ろう」としていても、どうしてもうまくいかないことがあり、周囲の大人が「なぜできないのか」と戸惑うことも少なくありません。
この見えにくさは、支援を受ける機会の遅れにもつながっています。
日本の会津大学を中心とする研究チームは、この「見えにくさ」を少しでも解消し、支援につなげるための新しい方法を開発しました。
この研究の特徴は、「ペンタブレットによる筆記動作」と「fNIRS(機能的近赤外分光法)による脳活動計測」を同時に行った点にあります。
fNIRSは脳の血流変化から脳活動を推定する技術ですが、装置が小型で持ち運びやすく、子どもが座ったままで測定できる利点があります。
研究チームは、注意欠如・多動症と自閉症を併せ持つ子ども13人と、同年代の定型発達の子ども15人、合計28人を対象に調査を行いました。
年齢は5歳から12歳で、平均は約9歳でした。
すべて右利きで、知的発達などに大きな差が出ないように調整して参加してもらいました。
調査では、子どもたちにペンタブレットを使って線を描いてもらいました。
課題には二つの種類があります。
一つは「ジグザグ線(ZL)」と呼ばれる、三角形が連続して並んだ線を描くものです。
もう一つは「周期線(PL)」と呼ばれる、四角形と三角形が交互に並んだ線を描くものです。
それぞれの課題について、子どもたちは「トレース(Trace)」と「プレディクト(Predict)」の二つの方法で取り組みました。
「トレース」は、画面に表示された線をそのままなぞる方法です。
「プレディクト」は、最初に見本を少しだけ見て、その後は続きを予測しながら描き進める方法です。
ペンタブレットは、線を描くときのペンの動きの速さ、動かし方、ペン先の圧力、ペンの傾きなどを0.005秒ごとに記録します。
これにより、ペン先が止まるタイミングや速さの変化、力の入れ方の特徴がわかります。
同時に、頭につけたfNIRS装置が、脳の前頭前野付近の酸素を含む血液の量の変化を計測し、どのように脳が働いているかを記録します。
このようにして、子どもたちが線を描く間の「身体の動きのデータ」と「脳活動のデータ」を同時に取得し、それらを組み合わせて分析しました。
結果として、とくに「周期線(PL)」の課題において、注意欠如・多動症と自閉症を併せ持つ子どもと、そうでない子どもを96パーセントを超える正確さで識別できることがわかりました。
これまで注意欠如・多動症と自閉症の診断は、医師による行動観察や質問紙による評価が中心でした。
しかしこれらの方法は、子どもが置かれた環境によって結果が変わることもあり、「診断までに時間がかかる」「判断が難しい」という課題がありました。
今回の方法は、「線を描く」という簡単な行動の中で体と脳の動きを客観的に測定し、わかりにくかった特性の違いを明らかにできる可能性を示しました。
子どもにとっても負担が少なく、学校や病院で活用しやすい方法であることが特徴です。
研究チームは今後、より多くの子どもたちに協力してもらい、この方法の有効性をさらに検証しながら改良を重ねていく予定です。
また、早期に特性を把握できることで、学校や家庭での支援開始を早めることにもつながり、子どもたちが安心して学び、生活できる環境づくりにも寄与することが期待されています。
注意欠如・多動症と自閉症を併せ持つ子どもたちは、自分でも「うまくできない」「わかっているのに体が動かない」という経験を重ね、困惑や不安を抱えやすくなります。
この研究で示された新しい方法は、その「うまくできない理由」を見える形で示し、周囲の大人が理解しやすくする手助けとなります。
そして子ども一人ひとりに合った支援の方法を考えるきっかけとなり、その子の持つ力を伸ばしていく支援につながる可能性があります。
これからの社会が、子どもたちの多様な特性を理解し、それぞれの子どもに合った学び方や支援を届けられるようになるために、こうした研究の積み重ねが大切です。
今回の研究は、その大きな一歩となる成果であり、子どもたちが自分らしく生きていくための環境づくりへの貢献が期待されています。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
ただ、線を書いてもらうだけで、
「「うまくできない理由」を見える形で示し、周囲の大人が理解しやすくする手助けとなります」
見過ごされてしまっていた子が減ることになります。
子どもの幸せが減るようなことがなくなるよう、一早い、実用化を期待しています。
(チャーリー)