この記事が含む Q&A
- 妊娠中にコーヒーを1日1杯以上飲むとADHDのリスクが高まる可能性があるのですか?
- 研究では関連が示されましたが因果関係は確定せず、1日1杯以上の摂取とADHDのある子どもの割合に関連が見られました。
- どのくらいの量で影響が出るのか、その用量反応性は検証されているのですか?
- 本研究では mg単位の測定はなく、1日1杯以上 vs それ以下の自己申告ベースのみで、用量反応性は評価されていません。
- 妊娠中のカフェイン摂取をどのように調整すべきですか?
- 完全に避ける必要はなく、デカフェにする、飲む回数を減らす、飲む時間帯を決めるなど無理のない調整が推奨されています。
コーヒーの湯気が立ちのぼると、ほっと肩の力が抜けることがあります。
忙しい朝や眠れない夜、机に向かう前の数分。
小さなカップに、気持ちを整える役割を感じる人も多いでしょう。
しかし、妊娠中であれば、その一杯が未来の子どもにどんな影響をもつのか――ふと気になることがあります。
今回紹介する研究は、それを正面から扱ったものです。
妊娠期のコーヒー摂取と、子どものADHD(注意欠如・多動症)の関連を調べた調査であり、
ひとつの国で行われた分析と、世界中の研究をまとめた統合解析(メタ解析)の両方で確かめています。
結論として「妊娠中にコーヒーを 1日1杯以上 飲んでいた母親では、ADHDのある子どもの割合が高かった」という関連が示されました。
因果関係と断定はできないものの、妊娠期の選択を考えるうえで注目すべき結果といえます。

研究を行ったのは、国立循環器病研究センター(日本)、ベニスエフ大学(エジプト)、アライン大学(アラブ首長国連邦)、リヤド保健省アダアヘルスセンター(サウジアラビア)など複数機関であり、医療・学術の国際協働で進められました。
まずエジプトでは、ADHDと診断された子ども176名と、発達上の問題がない504名の母親を比較する症例対照研究が行われました。
妊娠中にコーヒーを 1日1杯以上飲んでいたかどうか を尋ねたところ、飲んでいた群ではADHD児の割合が有意に高いという結果が得られました。
出生時のトラブルや受動喫煙の有無など複数の変数を調整しても、この傾向は維持されました。
研究チームはさらに、世界の研究を加えたメタ解析を実施しました。
合計 98,295組の母子データ を取りまとめた結果、妊娠中にコーヒー摂取量が多い場合にADHDリスクが 約1.3倍 高いという関連が示されています。
ただし効果の大きさには研究ごとにばらつきがあり、過度な一般化はできないことも明記されています。

それでも複数の研究が同方向の結果を示したことは、慎重に考えたい材料といえるでしょう。
では、なぜコーヒーが関連し得るのでしょうか。
胎盤を通過したカフェインは胎児の体内に蓄積しやすく、胎児は分解酵素が未熟なため排出に時間がかかります。
この影響が神経細胞の発達や睡眠リズムの形成に作用する可能性が考えられています。
しかし、これはあくまで仮説であり、人間の胎児で直接検証することは困難なため、今後の研究によって理解が進む可能性があるとされています。
ここで重要となるのは、「どれくらいの量で影響が生じるか」については本研究では評価できないという点です。
今回の調査は mg単位のカフェイン量を測定しておらず、分類も「1日1杯以上 vs. それ以下」という自己申告ベースです。
そのため、一般的に言われる 200mg/日以下の推奨範囲 と比較し、その範囲内でも影響があると判断できるわけではありません。
本研究で明らかになったのは「1日1杯以上」というカテゴリー内で関連が見られたということまでであり、用量反応性については著者自身が解析できなかったと述べています。

つまり、この研究は「コーヒーを飲むとADHDになる」と示したものではなく、妊娠中のカフェイン摂取について注意深く考える根拠がひとつ増えたということです。
完全に避ける必要があると結論づけられたわけではありませんし、コーヒーが生活に安定をもたらしてくれる妊婦も多いでしょう。
デカフェを取り入れる、飲む回数を減らす、飲む時間帯を決めるなど、無理のない調整で十分に向き合うことができます。
子どもの発達は、遺伝、環境、睡眠、栄養、妊娠中の健康など、多くの要因でかたちづくられます。
今回の研究はその中のひとつの視点を提示したにすぎません。
しかし、未来の行動や集中のしやすさに関係する可能性があるなら、「いまの一杯」に少しだけ気持ちを向けてみることには価値があります。
コーヒーの湯気を見つめながら、自分の体と、お腹の中の新しい命のことを思い浮かべる。
その小さな時間が、未来の選択をゆっくりと照らしてくれます。
(出典:International Journal of Environmental Research and Public Health DOI:10.3390/ijerph22121808)(画像:たーとるうぃず)
各国・各機関の推奨には若干の差(200mgまたは300mg)がありますが、「200mg/日以下」は、流産、低出生体重、胎児の発育への悪影響を防ぐための、より慎重で一般的な安全基準として、とくに医師や助産師による指導で広く用いられています。
ただし、最新の研究では、この推奨範囲内の摂取であっても、子どもの長期的な発達(ADHDなど)に影響を与える可能性が示されつつあります。
そのため、可能な限り摂取量を減らすことが推奨されています。
デカフェにするなどをおすすめします。
(チャーリー)




























