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ADHD症状の大学生は衝動を抑える力の弱さから「飲み過ぎ」

time 2025/09/27

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ADHD症状の大学生は衝動を抑える力の弱さから「飲み過ぎ」

この記事が含む Q&A

ADHD症状とアルコール消費の関係で特に重要だった自己調整力は何ですか?
抑制的自己調整が弱いとアルコールを飲みすぎる傾向を説明する大きな要因で、全体の23%程度の仲介が示されました。
研究でどの自己調整が関連づけられ、どの自己調整はそうでなかったのですか?
抑制的自己調整が関連性の主な仲介役だったのに対し、開始的自己調整は有意な仲介機能を果たしませんでした。
実務的にはどんな支援が有効と示唆されていますか?
ADHD症状を持つ学生には抑制的自己調整を高める心理的支援が有効で、診断を受けていない学生にも予防的に役立つと考えられます。

お酒は世界中の若者にとってとても身近なものです。
大学に進学すると、友人との集まりやパーティー、授業の後の交流などで、お酒を口にする場面が増えていきます。
多くの人にとって、お酒は楽しみや気分転換のひとつになっていますが、飲みすぎることで健康に悪影響を及ぼしたり、生活に支障をきたしたりする危険もあります。

とくに大学生の時期は、人生の中で不安定さや挑戦が重なる時期であり、この時期におけるお酒との関わりは重要なテーマです。
世界的な調査では、20歳前後の若者の死因の約4分の1がアルコールに関連しているとされ、社会全体で深刻に受け止めるべき問題といえます。

イタリアでは18歳から24歳の若者の約3分の1が飲酒習慣を持ち、その中の15%が『ビンジ・ドリンキング』と呼ばれる一度に大量のお酒を飲む行動を経験していると報告されています。
また男性のほうが女性よりも飲酒率が高いものの、近年は女性の飲酒が大きく増加している傾向も見られています。

今回紹介する研究は、イタリアのペルージャ大学で行われたものです。
研究チームは、ADHD症状とアルコール消費の関係に注目しました。

ADHDは注意の持続が難しい、衝動的な行動をしやすいといった特徴を持つ神経発達症です。
子どもの頃に見られることが多いのですが、大人になっても症状が続く人は少なくありません。
近年の研究では、ADHD症状を持つ人はアルコールや薬物に手を伸ばす傾向があると報告されていますが、その背後にある仕組みについては十分に解明されていませんでした。

研究チームは、この関係を理解する鍵として「自己調整力」に注目しました。

自己調整力とは、自分の気持ちや行動をうまくコントロールして目標に向かって進んでいく力のことです。
この力には二つの大きな側面があります。

一つは「抑制的自己調整」です。
これは、たとえば「飲みたいけれど今日はやめておこう」と誘惑を我慢するような力を意味します。

もう一つは「開始的自己調整」です。
これは「やる気が出ないけれど勉強を始めよう」「健康のために運動を続けよう」といった、行動を始めて維持する力を指します。

この二つの自己調整力が、ADHD症状とアルコール消費の間でどのような役割を果たすのかを明らかにすることが、この研究の目的でした。

調査には19歳から28歳までの337人の大学生が参加しました。
全員がイタリア国内の大学に在籍し、男性が185人、女性が152人でした。
調査はオンラインで行われ、質問票を通じてADHD症状、アルコール使用、自己調整力が測定されました。

ADHD症状については「落ち着きがない」「集中するのが難しい」といった5項目で評価され、アルコール使用についてはWHOが開発した国際的な基準である「AUDIT」が用いられました。
AUDITは10項目からなり、飲酒量や依存の兆候、飲酒による害の有無を点数化します。
自己調整力については、13項目からなる尺度を使い、抑制的自己調整と開始的自己調整の二つに分けて評価しました。

分析の結果、全体として参加者のアルコール消費は低リスクの範囲にありました。
しかし男女差があり、男性は女性よりも多く飲む傾向が見られました。
また恋愛関係にある学生は、そうでない学生よりも飲酒量が少ないことも確認されました。

ADHD症状については、臨床診断に達しない「サブクリニカル」と呼ばれる水準の学生が多くいましたが、その中でも症状が強い人は飲酒量が多い傾向を示していました。

ここでとくに注目されたのが「抑制的自己調整」の役割です。
ADHD症状が強い人は、この抑制的自己調整が弱くなりやすく、その結果としてアルコールを飲みすぎる行動につながっていました。
統計的に見ると、ADHD症状とアルコール消費の関係の23%が「抑制的自己調整の弱さ」で説明できることが示されました。

一方で「開始的自己調整」はアルコール消費と関連していたものの、仲介の仕組みとしては有意な役割を果たしませんでした。

この結果は、ADHDが「自己調整の障害」と呼ばれることを裏付けています。
ADHD症状を持つ人は衝動を抑えるのが難しく、大学生活のストレスや仲間との関わりによってさらに抑制が効きにくくなります。
そのため、お酒が気晴らしや仲間とのつながりの手段として使われやすくなるのです。
とくに大学という環境では、飲酒が社会的に受け入れられやすく、「みんなが飲むから自分も」という流れが強まることがあります。
そのような状況で抑制的自己調整が弱いと、飲酒が習慣化してしまう危険があるのです。

研究チームは、この結果から重要な示唆を導きました。

それは、ADHD症状を持つ学生に対しては「抑制的自己調整を高める支援」が有効であるということです。
具体的には、衝動を抑える練習や誘惑に直面したときに対処する方法を学ぶ心理的支援です。
これによって飲酒をコントロールしやすくなり、過度な飲酒を防ぐことができると考えられます。

また、このような支援は診断を受けていない学生にも役立ちます。
ADHD症状は連続的に存在し、診断基準に達しない人でも困りごとを抱えていることがあるため、予防的な意味でも広く応用できるのです。

今回の研究の強みは、自己調整力を抑制と開始に分けて同時に検討したことです。
従来の研究は自己調整をひとまとめに扱うことが多かったのですが、今回の研究では細かく分けることで、どの側面が重要なのかを明らかにすることができました。

結果として、アルコール消費を説明する大きな要因は抑制的自己調整であることが示されました。
開始的自己調整については関連が見られたものの、仲介の仕組みとしては機能しなかったことから、抑制的自己調整がとくに重要であることが強調されました。

もちろん、この研究にも限界があります。
調査は横断的に行われたため、因果関係を証明することはできません。
また、回答は自己報告に基づいているため、正確さや社会的望ましさに影響を受ける可能性があります。
さらに、対象がイタリアの大学生であったため、文化的にお酒が身近な社会での結果であり、他の国にそのまま当てはめることは難しいかもしれません。
しかし、大学生世代におけるADHD症状とアルコール消費の関係を新しい視点から明らかにした点で、この研究の意義は大きいといえます。

研究チームは今後、縦断的な研究や実験的な介入を通じて、ADHD症状、自己調整、アルコール消費の関係をさらに深く理解していく必要があると述べています。

大学生活は新しい挑戦と自由が増える時期ですが、その一方で衝動のコントロールが求められる場面も多くなります。
ADHD症状を持つ学生にとってはとくに、抑制的自己調整を高める支援が将来の健康や生活の質を守る大切な鍵になるのです。
診断を受けていなくてもADHD症状を抱える学生は少なくなく、そのような学生を早い段階で支えることが、飲酒問題の予防にもつながります。

この研究は、大学生世代という過渡期にある若者の飲酒行動を理解するための大きな手がかりを提供しました。
ADHD症状と自己調整力、そしてアルコール消費の関係を丁寧に調べることで、なぜ一部の若者が飲酒に傾きやすいのか、その背景が少しずつ見えてきています。

そしてその知見は、若者を支えるための介入や予防の取り組みに直結するものです。
今後、より多くの研究と実践が重ねられることで、ADHD症状を持つ学生が健康的に大学生活を送り、自分の可能性を十分に発揮できる社会につながっていくことが期待されます。

(出典:Current Psychology DOI: 10.1007/s12144-025-08281-1)(画像:たーとるうぃず)

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