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自閉症マウス研究。亜鉛とアミノ酸の少量ミックスが社会性を改善

time 2025/12/03

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自閉症マウス研究。亜鉛とアミノ酸の少量ミックスが社会性を改善

この記事が含む Q&A

三つの栄養素を少量ずつ混ぜて与えると脳の働きや行動が変化する研究の概要とは?
脳の複数の経路を同時に支えることで、特定の遺伝子変化を持つマウスで社会的行動や記憶が改善する可能性を示しています。
どの栄養素が使われたのですか?
亜鉛、分岐鎖アミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)、セリンの三つを低量で混ぜて与えました。
これは治療ですか?
いいえ、マウス実験であり人への効果や安全性はまだ分からず、治療を目的としたものではありません。

自閉症に関する研究は、長い時間をかけて少しずつ理解が深まってきました。
脳の中で情報を受け渡す細かな仕組みがどう整い、どのように働くか。
その一つひとつの過程に違いがあると、日々の生活の中での感じ方や行動の出方が変わってきます。
けれど、脳の働きは複雑で、多くの要素が折り重なって成り立っています。
何か一つが原因で起きているわけではなく、小さな違いが積み重なって、人それぞれの形としてあらわれていきます。

今回、台湾にあるアカデミア・シニカと国立防衛医学院などの研究チームが発表した論文は、その複雑さの中でも「栄養」という身近なものが、脳の働きにどのような影響を与えるのかを調べています。
自閉症の特徴をもついくつかの遺伝子を持つマウスを使い、三つの栄養素を「少量ずつ組み合わせて」与えると、脳の働きや行動がどう変化するかを観察しました。

研究に使われた栄養素は、

  1. 亜鉛
  2. 分岐鎖アミノ酸と呼ばれるロイシン・イソロイシン・バリン
  3. セリンというアミノ酸

です。
これらは、人の日常の食事の中にも含まれている、ごく基本的な栄養素です。
この研究で重要だったのは、それぞれを「高い量で与える」のではなく、通常の食事に少し足す程度の「とても低い量」で、しかも三つを混ぜて与えた点でした。

なぜ低い量で、しかも組み合わせたのかというと、脳の働きを支える仕組みは一つではなく、いくつもの小さな経路が関わっているからです。
たとえば木を育てるとき、水だけでも光だけでも十分ではありません。
少しの水、少しの光、少しの栄養がそろって、はじめて木が健康に育ちます。
脳の中で細胞同士がつながるときにも同じことがあり、一つの働きを強く刺激するより、弱いものを複数そろえたときにバランスよく整うことがあります。

研究を行ったのは、アカデミア・シニカの分子生物学研究所と国際大学院プログラム、そして国立防衛医学院の生命科学研究所です。
これらの機関は、遺伝子の解析や脳の細かい働きの観察を行える設備をもち、行動の違いがどのようにして生まれるのかを多面的に調べられる体制を整えています。

研究チームはまず、Tbr1という遺伝子に変化をもつマウスに栄養素の組み合わせを与えました。
この遺伝子は、脳の中で細胞同士がつながる場所の設計図に深く関わっていて、変化があると細胞同士のやり取りがうまくいかないことがあります。
このマウスは、人の自閉症の特徴の一部を再現するために使われるモデルです。

このマウスに、三つの栄養素を少しずつ混ぜた餌を与えると、脳全体の中で働くたんぱく質の割合が変わり始めました。
とくに、細胞と細胞がつながる場所で働くたんぱく質が多く作られるようになっていきました。
それは、細胞同士のやり取りを調整する部品が補われたような状態で、信号の受け渡しが整いやすくなる方向に変化していました。
もともとこのマウスでは、これらの部品がうまくそろっていないために通信が乱れやすかったのですが、栄養を組み合わせて加えることで、欠けていた部分が少しずつ戻っていくような変化がみられたのです。

研究チームはさらに、脳の中でも特に社会的な刺激に関わる「扁桃体」という場所の動きを調べました。
この場所は、相手の存在を感じ取ったり、どんな態度で関わろうとするかを決める際に働くといわれています。
Tbr1の変化をもつマウスでは、扁桃体の細胞同士が過剰につながりすぎてしまうという特徴がありました。
過剰につながるというのは、必要以上に一斉に動いたり、特定の細胞同士が強く結びつきすぎる状態を指します。
これは、人における「脳のネットワークが過度に同調する」という研究結果とも重なる部分があります。

ところが、栄養素を少量ずつ混ぜた餌を与えて数日が経つと、扁桃体の細胞の結びつき方が変わってきました。
過剰にまとまって動いていた細胞の動きが弱まり、必要なときだけ反応しやすい状態に近づいていったのです。
とくに興味深いのは、この変化が「社会的な刺激を受けたとき」に限って起きていた点です。
つまり、脳が特定の刺激に対して適切に反応できるよう、回路が整ってきたということです。

行動の面でも変化がありました。
Tbr1の変化をもつマウスは、生まれつきほかのマウスと関わろうとする時間が短く、新しい相手に出会っても距離を保とうとする傾向があります。
しかし栄養素を混ぜた餌を与えると、その距離が縮まっていきました。
相手に近づいて鼻先で触れることが増えたり、興味を示す時間が伸びたりといった変化が見られたのです。

また、音と出来事を結びつけて覚える記憶のテストでも改善が見られました。
もともとTbr1の変化をもつマウスは、この記憶を作る過程が弱いのですが、栄養素を混ぜた餌を与えると、音を聞いたときに状況を思い出す反応が強くなっていきました。
これは、脳の中で情報を整理して記憶として残す働きが助けられた可能性を示しています。

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興味深いのは、この効果が「三つの栄養素を混ぜたときにだけ」現れたという点です。

亜鉛だけでは効果がなく、分岐鎖アミノ酸だけでも、セリンだけでも同じ結果は得られませんでした。
三つを少しずつ混ぜたときにだけ、脳の働きが整い、行動が改善していました。
これは、脳の中で複数の小さな役割が同時に支えられたために起きた変化と考えられます。

研究チームはさらに、別の遺伝子の変化をもつ二種類のマウスでも同じ試験を行いました。
Cttnbp2という遺伝子が変化したマウスと、Nf1という遺伝子が変化したマウスです。
どちらの遺伝子も、細胞同士がつながる場所を整える仕組みに関わっており、人の自閉症に関連した研究でも注目されているものです。

この二つのマウスでも、三つの栄養素を混ぜた餌を与えると社会的な行動が改善しました。
ただし、必要な量には違いがあり、あるマウスには四分の一の濃さが合っていて、別のマウスにはさらに八分の一の濃さが最適でした。
これは、遺伝子によって必要な支えの量が異なる可能性を示しています。

それでも共通していたのは、「効果が出る方向性」です。
どの遺伝子のマウスでも、細胞同士のつながりが補われる方向に変化し、行動の面でも改善が見られていました。
つまり、遺伝子の違いはあっても、細胞のつながりを維持するための仕組みを支えることで、似たような変化が起きたということです。

研究チームは、このアプローチが治療ではないことを強調しています。
マウスで得られた結果がそのまま人に当てはまるわけではなく、安全性や長期的な影響を慎重に確かめる必要があります。
しかし、複数の遺伝子的な背景をまたいで変化が見られたことは、今後の研究の可能性を広げる大きな一歩です。

この研究が示したのは、脳の働きを支えるためには強い介入が必要なのではなく、小さな支えを複数そろえることでバランスが整う場合があるということです。
それは、毎日の生活の中でも応用が可能なアプローチです。
たとえば、環境を少し整えるだけで集中しやすくなったり、人との距離を心地よく保てるようになったりするように、小さな工夫が積み重なって大きな変化につながることがあります。

研究者たちは、今後この知見を活かして、より安全な栄養サポートの方法や、遺伝子の特徴に合わせて最適な組み合わせを探る研究を進めようとしています。
自閉症のある人の中には、環境の工夫だけでは届かない部分がある場合もあります。
けれど、大きな負担をかけずに脳の働きをそっと支える方法が今後見つかっていけば、日々の生活を少しでも楽にする手段の一つになるかもしれません。

自閉症の研究は、多様な個性を理解し、無理なく過ごせる毎日を支えるための取り組みです。
今回の研究は、栄養というもっとも身近なものを通して脳の働きがどう変化するのかを示し、そこに確かな可能性があることを教えてくれます。
人がそれぞれの形のまま生活し、安心して関わりを持てるようになるために、こうした研究の積み重ねが、これからの選択肢を少しずつ増やしていきます。

(出典:PLOS Biology DOI: 10.1371/journal.pbio.3003231)(画像:たーとるうぃず)

マウスでの実験であり、また人間での効果はわかりません。

ですが、すでにサプリで市販されているものばかりです。その上、少量でよいとのこと。

今後の研究で、ご本人がかかえている困難が少しでも軽減するよう、役立つ結果が出ることを期待したいところです。

マウスでなぜ自閉症がわかるのか?脳機能の共通点に注目。研究

(チャーリー)

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