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ADHDの子どもに有効だったのは「普通の走り方」と違う走り方

time 2025/12/06

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ADHDの子どもに有効だったのは「普通の走り方」と違う走り方

この記事が含む Q&A

考えながら走る運動を取り入れると、衝動を抑える力が強くなる可能性があるの?
考えながら走る運動の方が、抑制機能の改善が大きく見られました。
運動後の前頭前野の活動はどのように変化したの?
考えながら走る運動の後、前頭前野の酸素量が大きく増え脳の活動が活発になりました。
身体的セルフエフィカシーが高いと運動の効果はどうなるの?
身体的セルフエフィカシーが高い子ほど、考えながら走る運動の効果が大きく現れました。

走ることは、子どもたちにとってとても自然な動きです。
体力を発散するだけでなく、友だちとの遊びや学校生活のなかでも頻繁に見られる行為です。
けれども、その「走る」という行動のなかに、脳の働きが大きく変化する可能性があることは、これまであまり知られていませんでした。
今回、中国体育科学研究所と北京児童医院の研究チームが行った調査は、ADHDのある子どもたちにとって、走り方に少し工夫を加えるだけで「衝動を抑える力」や「考える力」が高まるかもしれない、というとても興味深い内容でした。

ADHDにおいてよく言われる難しさのひとつに、「抑制する力」があります。
頭では「いまは待ったほうがいい」と分かっていても、手が出てしまったり、思ったことをすぐに口にしてしまったりすることが、子ども本人の意思と関係なく起きてしまうことがあります。
これは意欲や性格とは別のもので、脳の前頭前野という部分が関わる“抑制機能”の働きと深く関係しています。
家庭や学校では「落ち着いて」「よく考えて」と言われる場面があるかもしれませんが、本人にとってはそれが簡単ではないのです。

今回の研究は、こうした抑制機能にどのような運動が関わるのか、そして、運動のとらえ方や自分の体に対する自信が、脳の働きにどんな影響を与えるのかを調べたものです。
研究を行ったのは、中国体育科学研究所と北京児童医院の共同チームで、運動科学と小児医療の専門家が協力し合い、運動・心理・脳計測という3つの視点から子どもたちの変化を丁寧に評価しています。

この研究では、36人のADHDのある子どもが参加しました。
年齢はおよそ10歳で、薬物治療を受けていない子どもたちを対象としています。
一人ひとりが週をまたいで3種類のセッションに取り組みました。
ひとつ目は「考えながら走る運動」、ふたつ目は「通常のランニング」、そして三つ目が「座って過ごす時間」という比較のための条件です。

それぞれのセッションでは、運動の前と後に、子どもたちがどれくらい「衝動を止める力」を発揮できるかを調べる課題が行われました。
さらに、課題に取り組んでいる間の脳の働きを、額に小さなセンサーをつける方法(近赤外分光法:fNIRS)で測定しています。

「考えながら走る運動」とは、ただ走るわけではありません。
走っている最中に、合図に合わせてスピードや方向を変えたり、障害物を避けたり、ボールを受け取って投げ返したり、指示に対して答えたりするなど、運動のなかに小さな判断や切り替えが組み込まれています。
つまり体を動かしながら同時に頭を使うように工夫された走り方です。
一方、通常のランニングではこうした判断の要素はなく、決まったスピードでトレッドミルを走る単純な動作で構成されていました。ど
ちらも30分間、心拍数が一定の範囲に収まるように調整されています。

子どもたちが運動の前後に取り組んだのは、「Go/No-Go(ゴー・ノーゴー)課題」という、衝動を抑える力を見るための心理課題です。
ある合図が出たらボタンを押す、別の合図のときには押さずに待つ、というシンプルな仕組みですが、ADHDのある子どもにとっては「分かっていてもつい押してしまう」「反応が早く出すぎる」といった難しさが現れやすい特徴があります。
研究チームは、反応時間と「押してはいけない時にどれだけ我慢できたか(正答率)」を指標として評価しました。

その結果、まず両方の運動──通常のランニングも、考えながら走るランニングも──どちらも子どもたちの反応時間を速くする効果がありました。
これは運動によって脳の覚醒が高まり、注意が向けやすくなるためと考えられています。
しかし、より大きな違いが見られたのは「押さないで待つ力」、つまり抑制機能に関わる部分でした。
通常のランニングでも改善はみられましたが、考えながら走る運動のほうが、明らかにその伸びが大きかったのです。

では、脳の働きはどう変わっていたのでしょうか。
研究チームは、額の部分にある前頭前野、とくに「背外側前頭前野」と呼ばれる領域の酸素量の変化を測定しました。
この部分は、まさに「衝動を抑える」「状況を判断する」などの役割を担う場所です。
測定の結果、考えながら走る運動をした後、前頭前野の酸素量が大きく増える(=その部分が強く働く)ことがわかりました。
これは、子どもたちが実際に抑制の課題に取り組むときの脳の活動量が、運動前よりも豊かになったことを示しています。

一方、通常のランニングでは酸素量の増加はみられたものの、考えながら走る運動ほど大きな変化はありませんでした。
同じ「走る」という行為でも、動作中に小さな判断が加わるかどうかで、脳の使われ方に違いが生まれることがデータから見えてきます。

研究チームはさらに、運動の効果がすべての子どもに均等に現れるわけではない、という点にも目を向けました。
実際、36人のうち約3割の子どもは、運動後に大きな変化を示しませんでした。
その違いを調べるために、子どもたちの「自分の体への自信」がどれくらいあるかを測定しています。
この「身体的セルフエフィカシー(physical self-efficacy)」は、自分の体をうまく使えると思えるか、運動に対して自信を持てるかといった感覚を表すもので、運動の取り組み方や意欲に影響します。

分析の結果、身体的セルフエフィカシーが高い子どもほど、考えながら走る運動の効果が大きく現れることが示されました。
逆に、身体的セルフエフィカシーが低い子どもでは、通常のランニングとの違いがはっきりしない傾向が見られました。
これは、運動の内容そのものだけでなく、「自分はできる」と感じられるかどうかが、脳の働き方に影響する可能性を示しています。

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研究チームは、こうした心理的な要素が運動の効果を左右する理由について、子どもたちの観察からヒントを得ています。
身体的セルフエフィカシーが高い子どもたちは、運動中に難しい動きや課題が出ても、自信を持って挑戦し、成功体験を積み重ねていきました。
すると、「もっとやろう」と意欲的になり、結果的に運動中の脳の働きも活発になりやすいのです。
一方、身体的セルフエフィカシーが低い子どもは、動きに不安を感じてしまい、課題を避けようとする場面があり、その分だけ脳の働きの変化が小さくなる可能性があると述べています。

今回の研究の重要な点は、「高い負荷の運動をしなくても、日常的な運動に少し工夫を加えるだけで、脳が使われるバランスが変わる」ことが示されたことです。
考えながら走る運動は、特別な器具が必要なわけではなく、学校でも家庭でも取り入れやすい要素が多く含まれています。
たとえば、走りながら色の指示に合わせて動きを変える、ボールをキャッチして別の方向に投げ返す、前から来る障害物に合わせて判断するなど、小さな変化で実現できます。

研究の終盤で、チームはこのような工夫がなぜ効果を生むのかについて、脳の観点から説明しています。
運動と認知が同時に求められる場面では、前頭前野をはじめとする複数の領域が一緒に働くため、脳のネットワークが効率よく使われやすくなります。
とくにADHDの子どもの場合、抑制機能を得意とする回路の働きが弱いことが知られていますが、運動を通してその回路が活性化されると、課題への取り組み方が変わりやすいと考えられています。

もちろん、この研究にはいくつかの限界も記されています。
参加者数が多くはなかったこと、運動の効果が長期に続くかどうかは分からないこと、脳の計測が前頭前野に限られているため、他の領域の働きまでは評価できていないことなどです。
さらに、身体的セルフエフィカシーは運動の後に測定されているため、時間をかけてどう変化するかまでは明らかではありません。
こうした点を踏まえると、今回の結果は「可能性を示す第一歩」として捉えるのが適切だと述べています。

それでも、この研究が投げかけるメッセージはとても大切です。
ADHDのある子どもにとって、「落ち着く」「よく考える」ことは決して努力不足ではなく、脳の働き方が影響しています。
その脳の働き方は、強い訓練ではなく、毎日の遊びや運動のなかで自然に変わることがあるという点は、子どもを支える周囲の大人にとっても希望につながる知見です。

家庭や学校でも、難しい準備は必要ありません。
鬼ごっこに少し判断要素を加える、走るときに合図を使う、ボールを使った簡単な課題を組み込むなど、小さな工夫で「体と一緒に頭も使う」遊びが実現します。
そして何より大切なのは、「できた」「うまくいった」という感覚を子どもが味わえるようにすることです。
身体的セルフエフィカシーが効果に影響するという今回の結果は、子どもが挑戦したいと思える環境づくりが支援の一部になることを示しています。

ADHDの子どもたちは、世界を感じ、動き、考える方法がとてもユニークです。
走るというシンプルな行動が、その子の脳の働きに、そして日々の生活に少しずつ変化をもたらすかもしれない。
今回の研究は、そんな日常の中の可能性をそっと照らすものになっています。
子どもたちが自分のペースで成長していけるよう、私たち大人ができる工夫は、思っているよりもずっと身近なところにあるのかもしれません。

(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-30981-8)(画像:たーとるうぃず)

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