この記事が含む Q&A
- 夜の弱い光が自閉症モデルマウスの睡眠にどのような影響を与えましたか?
- 夜の光で睡眠リズムが大きく乱れ、夜間の覚醒が増え、深い眠りの指標である徐波活動が増加しました。
- 夜の光は発作様の脳活動にどう関与しましたか?
- 夜の光にさらされると発作様な高振幅の脳活動の出現頻度が増え、6週間継続時にはさらに顕著に増えました(レム睡眠中・覚醒中で特に観察)。
- 本研究の結果は人に直接適用されますか、日常生活で私たちができる対策は?
- 人に直接適用は示されていませんが、夜間の光環境を整え睡眠を守ることが脳の健康に関連する可能性が示唆され、スマホ等の光を控える工夫が推奨されます。
私たちの暮らしの中には、夜になっても完全には消えない「弱い光」があふれています。
街灯、電子機器のランプ、スマートフォンやタブレットの画面など、暗闇の中にほんのり存在する光です。
今回紹介する研究は、そうした「夜の弱い光」が、自閉症とてんかんの特徴をあわせ持つCNTNAP2欠損マウス(自閉症モデルマウス)にどのような影響を与えるのかを、脳波を使って詳しく調べたものです。
この研究を行ったのは、アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の精神医学・生物行動科学部を中心とする研究チームです。
研究では、自閉症と関連の深い遺伝子であるCNTNAP2を欠損させたマウスを用いています。
この自閉症モデルマウスは、自閉症に似た行動の特徴に加え、発作様の異常な脳活動を示すことが知られており、自閉症とてんかんの併存を研究するモデルとして広く使われています。
自閉症のある人では、睡眠の問題がとても多く報告されています。
寝つきが遅い、夜中に何度も目が覚める、睡眠のリズムが安定しないといった経験は、当事者や家族にとって身近なものです。
さらに、てんかんを併せ持つ場合には、睡眠と発作が強く結びついていることも知られています。
この研究は、そうした睡眠・体内リズム・発作の関係に、「夜の光」という環境要因がどのように関わるのかを明らかにしようとしています。

研究では、通常の昼夜サイクルで生活する条件に加えて、「夜だけ弱い光がついた状態」を作りました。
明るさは5ルクスで、これは暗い部屋で電子機器の表示灯がついている程度の弱い光です。
この環境に、自閉症モデルマウスと通常のマウスを2週間、あるいは6週間さらし、その間の睡眠状態や脳活動を脳波で詳しく記録しました。
まず明らかになったのは、自閉症モデルマウスは、もともと睡眠が細切れになりやすいという特徴を持っていることです。
起きている時間、浅い睡眠、深い睡眠が短い単位で頻繁に切り替わり、昼夜のメリハリも弱くなっていました。
とくに、本来活動的であるはずの夜の時間帯に、睡眠が増えてしまう傾向が見られました。
これは、体内時計の働きが弱まっていることを示しています。
そこに夜の弱い光が加わると、その影響はさらに強くなりました。
とくに影響を受けやすかったのは自閉症モデルマウスで、夜から昼へ切り替わるタイミングで目覚めが遅れたり、夜の時間帯に起きている割合が増えたりと、睡眠と覚醒のリズムが大きく乱れました。
興味深いことに、こうした変化は雌のマウスでより顕著に見られる傾向があり、性別による違いも確認されています。
脳波の詳しい分析からは、睡眠の質の変化も見えてきました。
夜の弱い光にさらされると、深い眠りの指標とされる「徐波活動」が増加していました。
これは、脳が「眠り不足の状態」に近づき、より強い睡眠圧を感じていることを意味します。
つまり、夜の光によって睡眠が妨げられ、その結果として、脳が疲れを溜め込んでしまっている可能性が示されたのです。

さらに重要なのは、発作様の異常な脳活動への影響です。
自閉症モデルマウスでは、もともと高振幅で同期した異常な脳波が見られますが、夜の弱い光にさらされることで、その出現頻度が大きく増加しました。
2週間の時点ですでに増え、6週間続けると、発作様活動の回数はさらに顕著に増えていました。
この異常な脳活動は、とくにレム睡眠中や覚醒中に多く見られました。脳波の周波数分析では、シータ波と呼ばれる成分が強くなっており、海馬と呼ばれる記憶や感情に関わる脳領域の関与が示唆されています。研究者たちは、抑制と興奮のバランスが崩れやすい脳の状態に、夜の光という環境ストレスが加わることで、発作が起こりやすくなった可能性を指摘しています。
注目すべき点として、通常のマウスでも、夜の弱い光に長期間さらされると、発作様の脳活動が観察される個体が増えたことが報告されています。頻度は自閉症モデルマウスほど高くはありませんが、夜の光そのものが、脳にとって決して無害ではないことを示しています。
研究者たちは、こうした結果から、夜間の光による体内リズムの乱れが、睡眠の質を低下させるだけでなく、脳の興奮性を高め、発作リスクを押し上げる可能性があると考えています。
とくに、自閉症やてんかんのように、もともと神経のバランスが不安定になりやすい状態では、その影響がより強く現れる可能性があるとしています。

この研究はマウスを対象としたものであり、人にそのまま当てはまるわけではありません。
しかし、夜の光というごく身近な環境要因が、睡眠や脳の状態に深く関わっていることを、非常に具体的なデータで示しています。
自閉症やてんかんのある人にとって、夜の過ごし方や光環境を整えることが、日々の安定につながる可能性を示唆する研究と言えるでしょう。
夜に「完全な暗さ」を確保することが難しい現代社会において、この研究は、静かですが重要な問いを投げかけています。
眠りを守ること、体内リズムを整えることが、脳の健康そのものと深く結びついている。
そのことを、あらためて考えさせられる研究です。
(出典:bioRxiv)(画像:たーとるうぃず)
そんな弱い光でも、睡眠に影響を与える可能性があると。
人間で確認されたわけではありませんが、スマホの画面を上に向けたまま近くに置くようなことはやめたほうがよさそうです。
(チャーリー)





























