この記事が含む Q&A
- 自閉症的特性を持つ人は職場でどのように感じやすいですか?
- 周囲に合わせ続けることが心理的負担となり、集中力が落ちたり疲れやすくなることがあります。
- 特性が力になるのはどんな環境のときですか?
- 心理的なつらさが少なく、過度な緊張や自己抑制を求められない環境では、集中力や丁寧さとして活かされる場合があります。
- どうすれば「無理をして適応する職場」から脱却できますか?
- 無理をして頑張るのではなく、特性を押し殺さなくて済む職場環境づくりと心理的安全性の確保が重要です。
職場では、問題なく働いているように見える。
大きなミスをするわけでもなく、遅刻や欠勤が目立つわけでもない。
それでも、「仕事がつらい」「本来の力が出せていない」という感覚だけが、静かに残り続ける。
こうした状態は、本人の性格や努力不足として片づけられることが少なくありません。
しかし、背景をていねいに見ていくと、個人の資質だけでは説明しきれない構造が浮かび上がってきます。
とくに、自閉症的な特性をある程度もっている人の場合、その特性そのものよりも、「周囲に合わせ続けること」が、心理的な負担になっている可能性があります。
日本のホワイトカラー職場では、「空気を読む」「察する」「場を乱さない」といった行動が暗黙の前提として求められます。
その中で、自分の自然なふるまいを抑え、相手に合わせる努力を続けている人は少なくありません。
こうした行動は、心理学ではカモフラージングと呼ばれています。
自分の違和感を表に出さず、周囲のふるまいを真似し、場に溶け込むように振る舞うこと。外から見れば適応的に見える一方で、内側では強い消耗を伴うことがあります。

調査データを分析すると、自閉症的な特性が強い人ほど、心理的なつらさを感じやすく、そのつらさが仕事のしづらさと結びついていることが確認されました。
出勤はしているものの、集中できない、判断が遅れる、必要以上に疲れるといった状態です。
ただし、ここで注意が必要です。
自閉症的な特性そのものが、直接的に仕事のパフォーマンスを下げているわけではありません。
心理的なつらさの影響を取り除いて分析すると、自閉症的な特性は、むしろ仕事のしづらさを弱める方向に働いていました。
つまり、強いストレス状態に置かれていなければ、特性そのものは必ずしもマイナスではない、という構造が見えてきます。
この結果は、「自閉症的な特性があると仕事に不向きだ」という単純な理解を否定しています。
問題になっているのは特性そのものではなく、その特性を抱えたまま、無理に環境へ適応し続けなければならない状況です。
この関係は、男女で同じ形をしていませんでした。
女性の場合、自閉症的な特性と仕事のしづらさのあいだに、心理的なつらさがより強く介在していました。
とくに、「周囲に溶け込もうとするタイプのカモフラージング」は、女性においてのみ、心理的なつらさと明確に結びついていました。
この「溶け込もうとするカモフラージング」は、自分のふるまいや考え方を、職場の期待に合わせて調整する行動です。
意見を控えたり、違和感を感じても黙ってやり過ごしたり、「普通」に見える振る舞いを選び続けたりすることが含まれます。
一見すると、協調性が高く、適応的な行動のようにも見えます。
しかし、その積み重ねは、自分自身を消耗させる方向に働くことがあります。

一方、男性では、同じタイプのカモフラージングと心理的なつらさのあいだに、明確な結びつきは見られませんでした。
これは、男性のほうが適応しているという意味ではありません。
求められる役割や、評価される振る舞いの基準が、男女で異なっている可能性を示しています。
実際、この分析のもとになった調査データでは、雇用形態や職位に明確な男女差がありました。
女性は非正規雇用や補助的な立場にいる割合が高く、管理職は男性に偏っていました。
こうした職場構造の中では、女性のほうが「波風を立てないこと」「場に合わせること」をより強く求められやすくなります。
その結果、周囲に合わせ続ける行動が、気づかれないまま心理的な負担として蓄積していくのです。

なお、これらの分析は、東北大学大学院医学系研究科と筑波大学医学医療系を中心とした研究グループが、日本の一般的なホワイトカラー労働者を対象に実施した調査データを用いて行われています 。
この研究が示しているのは、「自閉症的な特性をもつ人は、支援が必要な存在か、それとも能力の高い人材か」といった二択ではありません。
特性が力として働くか、負担として現れるかは、心理的な状態や職場環境との関係によって大きく左右されます。
心理的なつらさが強い状態では、どんな特性も仕事の妨げになります。
一方で、過度な緊張や自己抑制を求められない環境では、自閉症的な特性が集中力やていねいさといった形で活かされる可能性もあります。
重要なのは、「もっと頑張って適応しよう」と個人に求めることではありません。
むしろ、「無理をしなくても働ける構造」をつくることです。

周囲に合わせ続けることを前提にした職場では、静かに消耗していく人が必ず生まれます。
その消耗は、欠勤や退職といった目に見える形になる前に、まず心の中に現れます。
この分析は、そうした見えにくい負担が、性別や職場構造と結びつきながら、仕事のしづらさとして表面化していることを示しています。
「自分が弱いからつらいのではないか」
「もっと器用に振る舞えればいいのではないか」
そう感じてきた人にとって、この結果は、問いの向きを少し変えるきっかけになるかもしれません。
問いは、「どうすればもっと適応できるか」ではなく、「なぜ、ここまで適応し続けなければならなかったのか」です。
特性を消すことではなく、特性を押し殺さなくても済む環境。
努力を増やすことではなく、消耗を減らす構造。
この研究が投げかけているのは、そうした問いです。
(出典:Psychiatry International DOI:10.3390/psychiatryint7010038)(画像:たーとるうぃず)
多様な人たちが心理的安全性を得て、特性をいかんなく発揮できる組織。
企業の競争力に直結する、あるべき姿でしょう。
(チャーリー)





























