この記事が含む Q&A
- 自閉症のある子を育てる親は、社会の偏見を強く内面化すると介護の負担をより高く感じやすいですか?
- はい、偏見の強さが内面化されるほど介護負担を大きく感じる傾向があるとされます。
- レジリエンスとマインドフルネスは、介護負担を和らげる働きをしますか?
- はい、レジリエンスとマインドフルネスは介護負担を部分的に緩和する効果が示されています。
- どのような対策が有効とされますか?
- 社会の偏見を減らす取り組みと、親の心の回復力・気づきを支える支援の双方が重要とされています。
自閉症のある子どもを育てるということは、日々の生活のなかで多くの責任と向き合うことでもあります。
身の回りのケア、学校との連携、療育への通所、将来への不安。
その一つひとつが、親の肩に積み重なっていきます。
そしてもう一つ、目には見えにくい重さがあります。
それが「社会の偏見」です。
今回、トルコのバルティン大学健康科学部精神看護学科で行われた研究は、自閉症のある子どもを育てる親が感じる「社会の偏見を自分の中に取り込んでしまうこと」と、「介護の負担感」の関係を調べました。
さらに、そのあいだに「心理的レジリエンス(心の回復力)」と「マインドフルネス」がどのように関わっているのかを検討しています。
この研究には、特別支援教育・リハビリテーションセンターに通う自閉症の子どもの親138人が参加しました。
対面インタビューによって、社会の偏見の感じ方、介護の負担感、レジリエンス、マインドフルネスの水準が測定されました。
まず明らかになったのは、社会の偏見を強く感じ、それを自分の中に取り込んでいるほど、介護を「重い」と感じやすいという関係です。

社会から向けられる視線。
「しつけが悪いのではないか」という無言の非難。
奇異な目で見られる体験。
それらが繰り返されると、やがて外からの言葉が、自分自身の内なる声に変わっていきます。
「自分たちは他の家族より劣っているのではないか」
「迷惑をかけている存在なのではないか」
こうした思いが強まるほど、日々のケアの負担はさらに大きく感じられるようになります。
研究では、社会の偏見を内面化することと介護負担とのあいだに、強い関連が確認されました。
偏見が強いほど、負担も強くなるのです。
しかし、この関係は一直線ではありませんでした。
ここで重要な役割を果たしていたのが、心理的レジリエンスとマインドフルネスでした。

心理的レジリエンスとは、困難に直面しても立ち直る力のことです。
折れても、しなやかに戻る力ともいえます。
研究では、レジリエンスが高い親ほど、介護負担を低く感じる傾向がありました。
また、社会の偏見を強く感じている親ほど、レジリエンスは低くなる傾向も示されました。
つまり、
社会の偏見が強まる → 心の回復力が弱まる → 介護の負担が増す
という流れが確認されたのです。
ただし、レジリエンスはこの流れを「部分的に」和らげていました。
レジリエンスが高い人では、社会の偏見が介護負担に与える影響が弱まっていたのです。
もう一つの重要な要素が、マインドフルネスでした。
マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に注意を向け、評価せずに受け止める姿勢のことです。
感情を押し込めるのではなく、「いま、自分はこう感じている」と気づく態度です。
研究では、マインドフルネスが高い親ほど、介護負担を低く感じることが示されました。
そして、社会の偏見を強く内面化している親ほど、マインドフルネスの水準は低い傾向がありました。
さらに分析すると、マインドフルネスもまた、社会の偏見と介護負担の関係を部分的に和らげる働きをしていました。
つまり、
社会の偏見が強まる → 今この瞬間への気づきが弱まる → 介護の負担が増す
という経路が確認されたのです。
レジリエンスとマインドフルネスは、それぞれが緩衝材のような役割を果たしていました。
社会の偏見という衝撃が、そのまま介護負担に直結するのを、少し和らげている可能性があります。

また、この研究では、社会経済的な条件も影響していることが示されました。
収入が低い親ほど、介護負担も社会の偏見の内面化も高い傾向がありました。
さらに、別の障害のある子どもがいる家庭では、介護負担が高く、レジリエンスやマインドフルネスが低い傾向が見られました。
母親は父親よりも介護負担が高い傾向も示されています。
伝統的な役割分担の影響が背景にある可能性が指摘されています。
若い親(20〜25歳)と高年齢層(41歳以上)で介護負担が高いという結果も出ています。
若年層では経験不足やストレス、
高年齢層では身体的・心理的な疲労が関係している可能性が考えられます。
この研究は、自閉症のある子どもを育てる親の負担が、単にケアの量だけで決まるのではないことを示しています。
社会の偏見が心の中に入り込むとき、その重さは増幅されます。
しかし同時に、心の回復力や、今この瞬間への気づきが、それを和らげる可能性も示されました。
もちろん、この研究は一時点での調査であり、因果関係を断定するものではありません。
それでも、心理的な要素が重要な役割を果たしていることは明らかになりました。

自閉症のある子どもを育てることは、親の努力不足でも、弱さでもありません。
社会の理解が不十分なとき、偏見は親の内側に入り込みます。
そして、その見えない重さが、日々の負担をさらに大きくします。
だからこそ、支援は二つの方向に向かう必要があります。
一つは、社会の偏見を減らすこと。
もう一つは、親自身の心の回復力や気づきを支えること。
社会のまなざしが変わること。
そして、親が自分の感情にやさしく気づけること。
そのどちらもが、介護の重さを少し軽くする可能性を持っています。
自閉症のある子どもを育てる親の経験は、孤立の物語である必要はありません。
社会の偏見が薄れ、心を支える力が育まれるとき、その重さはほんの少し違ったかたちに変わるのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1751960)(画像:たーとるうぃず)
マインドフルネスを活用していただきたいと思います。




























