この記事が含む Q&A
- 研究で対象となった期間と主要な傾向は?
- 1994年・2004年・2014年には「問題行動」が多く使われ、2024年には減少し「チャレンジング行動」など新たな用語が増え、全体で11種類になりました。
- なぜ言葉の変化は起こると考えられていますか?
- 科学的発見だけでなく編集方針・査読者の意見・社会的価値観の変化といった文化的影響が大きいと指摘されています。
- 研究は言葉の選択で何を強調しているのですか?
- 「正しい言葉」よりも「経験を正確に表す語彙」と、当事者の声も含めた多様性と敬意を両立させることが重要だと示しています。
アメリカのオークランド大学およびテキサス大学サンアントニオ校などの研究チームは、自閉症研究の中で使われてきた「行動」に関する言葉が、この30年でどのように変化してきたのかを調べました。
テーマは、一見すると地味です。
しかし、その問いはとても重要です。
自閉症のある人の「行動」を、私たちはどんな言葉で呼ぶのか。
「問題行動」と呼ぶのか。
「チャレンジング行動」と呼ぶのか。
それとも「危険な行動」なのか。
あるいは、もっと具体的に「自傷」や「攻撃」と言うのか。
言葉は、単なるラベルではありません。
言葉は、支援の方向を決め、周囲の受け止め方を変え、そしてときには当事者や家族の人生にも影響を与えます。
今回の研究は、そうした言葉の変化を、感覚や印象ではなく、実際のデータで確かめようとしたものです。
研究チームは、自閉症に関連する単一事例実験デザイン(SCED)を掲載してきた6つの主要な学術誌を対象にしました。
調査したのは、1994年、2004年、2014年、2024年という4つの年です。
合計2326本の論文を確認し、その中から「減少を目標とする行動」を扱った189本を分析対象としました。
そして、あらかじめ決めた12種類の用語が、どれだけ使われているかを数えました。
たとえば、
・problem behavior(問題行動)
・challenging behavior(チャレンジング行動)
・disruptive behavior(妨害行動)
・dangerous behavior(危険な行動)
・target behavior(目標行動)
などです。

結果は、はっきりしていました。
この30年間で、使われる用語の種類は増えていました。
1994年と2004年では9種類だったのに対し、2024年には11種類に増えていました。
およそ22%の増加です。
つまり、言葉は多様になっているのです。
とくに目立った変化は、「problem behavior(問題行動)」という言葉の減少でした。
1994年、2004年、2014年では多く使われていましたが、2024年には大きく減少していました。
その一方で、「challenging behavior(チャレンジング行動)」の使用は増えていました。
まるで、言葉が入れ替わっているかのようです。
しかし、この変化は、科学的な新発見によって生まれたのでしょうか。
研究チームは、そうとは限らないと述べています。
言葉の変化は、編集方針や査読者の意見、社会的な価値観の変化など、文化的・倫理的な影響を受けている可能性が高いと指摘しています。
実際、6つの学術誌のうち、行動に関する用語について明確なガイドラインを公表していたのは1誌のみでした。
つまり、多くの場合、どの言葉を使うかは、明確なデータに基づくというより、慣習や流行、あるいは査読過程での指摘によって左右されている可能性があります。

ここで重要なのは、「どの言葉が正しいか」という単純な話ではない、という点です。
論文では、ある例が示されています。
たとえば、医療の世界で、同じ骨折を違う言い方で記録すると、別の医師が誤解する可能性があります。
言葉が統一されていないと、支援の連続性が損なわれることがあるのです。
自閉症のある人の行動も同じです。
ある専門家が「問題行動」と呼び、別の専門家が「チャレンジング行動」と呼び、さらに別の人が「危険な行動」と呼ぶ。
もし同じ行動を指しているのに言葉がばらばらなら、情報共有は難しくなります。
保護者、教師、支援者、医療機関。
それぞれが違う言葉を使うことで、ケアが断片化してしまう可能性があります。
一方で、言葉が持つ力も無視できません。
「危険な行動」と言えば恐怖を生むかもしれません。
「チャレンジング行動」と言えば、もう少し配慮のある印象になるかもしれません。
しかし、たとえば強い自傷行為がある場合、それをあまりに中立的な言葉で表現すると、必要な支援の緊急性が伝わらないかもしれません。

研究チームは、特定の言葉を使うべきだとも、使うべきでないとも断言していません。
むしろ強調しているのは、「経験を正確に表すための語彙が必要だ」ということです。
自閉症はスペクトラムです。
自立して生活する人もいれば、24時間の支援が必要な人もいます。
そのすべてを「強み」という言葉だけで表すことはできません。
同時に、「問題」という言葉だけで表すこともできません。
論文は、もう一つ重要な点を指摘しています。
現在の用語に関する議論は、比較的支援ニーズの低い当事者の声が中心になりがちで、重度の支援を必要とする人やその家族の視点が十分に反映されていない可能性があるということです。
言葉の選択が、本当にすべての当事者の経験を反映しているのか。
それは、まだ十分に検証されていません。
今回の研究は、あくまで「どの言葉がどれだけ使われてきたか」を示したものです。
しかし、その数字は、私たちに問いを投げかけています。
私たちは、何を守ろうとして言葉を変えているのでしょうか。
そして、その言葉は、本当に当事者と家族の現実を映しているでしょうか。

言葉は変わります。
「精神遅滞」から「知的発達症」へ。
「自閉症」から「自閉スペクトラム症」へ。
その変化は、社会の価値観の変化でもあります。
しかし、変わること自体が目的になってはいけない、と論文は示唆しています。
大切なのは、科学的な正確さと、当事者への敬意を両立させること。
そのためには、議論を感情や印象だけで進めるのではなく、データと多様な当事者の声に基づく必要があります。
言葉は、支援の入り口です。
その入り口を、狭くするのか、広くするのか。
それを決めるのは、流行ではなく、現実であるべきだと、この研究は問いかけています。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-026-07248-w)(画像:たーとるうぃず)
現在の用語に関する議論は、比較的支援ニーズの低い当事者の声が中心になりがちで、重度の支援を必要とする人やその家族の視点が十分に反映されていない可能性がある
「障害者」「障がい者」「障碍者」
言葉狩りや、とりあえずの無難な表現。
うちの子は言葉もわかりませんし、私にとってもそんなことは問題ではありません。
そんなことよりも、現実を見て、困難を軽減していこうとするほうに意識を向けてほしいと思います。
(チャーリー)




























