この記事が含む Q&A
- IQの違いと感覚グループはどう関係しますか?
- IQが低いグループほど感覚の偏りの「強さ」が多様で、IQ85以上のグループには3つの感覚グループが見られます。
- 感覚の特徴と日常の困りごとはどうつながっていますか?
- 感覚の偏りが強いほど行動上の困りごとが多く、日常生活の力も低くなる傾向があります。
- 支援は「診断名」だけでなく何を見ればよいですか?
- 感覚の特徴・認知の力・対処のしかたをセットで理解し、子どもが楽に生きる方法を一緒に探すことが重要です。
自閉症のある子どもたちの「感覚の感じ方」は、とても多様です。
音が少し大きいだけで強い不快感を覚える子もいれば、強い刺激を求めて動き回る子もいます。
同じ「自閉症」という診断名でも、感覚体験は一人ひとり大きく異なっています。
近年、感覚の違いは自閉症の「中心的な特性」のひとつとして位置づけられ、診断基準にも正式に含まれるようになりました。
しかし、感覚の違いが、子どもの行動や日常生活の力、そして認知の力(知的な発達水準)とどのように結びついているのかについては、まだ十分に整理されていませんでした。
今回紹介する研究は、エルサレム・ヘブライ大学 ソーシャルワーク・社会福祉学部 自閉症センターと、ベングリオン大学 脳科学・認知学部の研究グループによって行われました。
この研究は、「感覚のタイプ」と「認知の力(IQ)」をあらかじめ分けて考えることで、自閉症のある子どもたちの多様性をより細かく理解しようとしています。
研究に参加したのは、3歳から15歳までの自閉症と診断された子ども823人です。
すべての子どもが、国際的に用いられている診断基準と評価ツールによって診断されていました。
研究者たちはまず、子どもたちを認知の力によって3つのグループに分けました。
・IQ70未満
・IQ70〜84
・IQ85以上
そのうえで、保護者が回答する質問紙を用いて、次の4つの感覚パターンを評価しました。
・感覚を求める(センソリー・シーキング)
・感覚を避ける(センソリー・アボイディング)
・感覚に敏感(センソリー・センシティビティ)
・感覚に気づきにくい(レジストレーション)
これらの組み合わせから、「似た感覚の特徴をもつ子どもたちのグループ」を統計的に抽出しました。

その結果、とても重要なことが分かりました。
まず、IQ70未満のグループと、IQ70〜84のグループでは、どちらも次の2つの感覚グループが見つかりました。
・感覚の特徴が比較的おだやかなグループ
・多くの感覚で強い偏りがあるグループ
つまり、認知の力が低めの子どもたちの中では、「感覚がかなり強く偏っている子」と「そうでもない子」に大きく分かれることが示されました。
一方で、IQ85以上のグループでは、3つの感覚グループが見つかりました。
・感覚の偏りが強いグループ
・中間的なグループ
・感覚の特徴が比較的おだやかなグループ
さらに特徴的だったのは、IQ85以上のグループの中に、「感覚を避ける傾向がとくに強いグループ」が存在していたことです。
このグループでは、「刺激を求める」よりも「刺激を避ける」傾向がはっきりと高くなっていました。

次に研究者たちは、これらの感覚グループごとに、
・自閉症の特性の強さ
・行動上の困りごと
・日常生活の力(適応機能)
を比較しました。
まず分かったのは、どのIQグループにおいても、感覚の偏りが強いグループほど、行動上の困りごとが多いということです。
具体的には、
・イライラしやすさ
・引きこもりやすさ
・同じ動きを繰り返す行動
・多動・落ち着きにくさ
が高い傾向にありました。
これは、「感覚の困難さ」が、そのまま日常のストレスや行動の不安定さにつながっている可能性を示しています。
また、日常生活の力(身の回りのこと、社会性、実用的なスキルなど)も、感覚の偏りが強いグループほど低いことが分かりました。
つまり、
感覚の困難さ
→ 行動の困難さが増える
→ 生活のしづらさが増える
というつながりが、認知の力の高低にかかわらず見られたのです。
一方で、とても興味深い発見もありました。
IQ85以上のグループの中で、「感覚を避ける傾向が強い」中間的なグループは、行動上の困りごとはある程度みられるものの、日常生活の力は比較的保たれているという特徴がありました。

研究者たちは、この結果から次のように考えています。
感覚を避ける行動は、一見すると「困った行動」に見えるかもしれません。
しかし、高い認知の力をもつ子どもたちにとっては、
・刺激の強い場所を避ける
・苦手な状況に近づかない
といった行動が、自分を守るための自己調整(セルフレギュレーション)戦略として働いている可能性がある、というのです。
つまり、
「避ける」という行動が、「うまく生活するための工夫」になっている場合がある、
ということです。
この視点はとても重要です。
これまで、感覚を避ける行動は「問題行動」として扱われがちでした。
しかしこの研究は、状況によっては適応的な行動として機能する可能性を示しています。
さらに、この研究では、自閉症の特性そのもの(観察による評価)には、感覚グループ間で大きな差が出にくいことも示されました。
つまり、
「自閉症特性の重さ」だけでは、
「その子がどれだけ生活で困っているか」は説明できない、
ということです。
感覚の特徴と認知の力の組み合わせを見ることで、はじめて見えてくる違いがあるのです。

この研究が伝えている最大のメッセージは、次の点です。
自閉症のある子どもたちの支援では、「診断名」だけを見るのではなく、
・感覚の特徴
・認知の力
・その子が使っている対処のしかた
をセットで理解する必要がある。
感覚を避ける、刺激を求める、引きこもる、動き回る。
こうした行動の背景には、「困難」だけでなく、「自分なりの工夫」が隠れていることがあります。
この研究は、「行動を減らす」ことだけを目標にするのではなく、「その子が楽に生きる方法を一緒に探す」という支援の方向性を、静かに示しているように感じられます。
自閉症の多様性は、「ばらばら」なのではなく、いくつかの軸の組み合わせによって形づくられています。
感覚 × 認知 × 行動。
その重なりを丁寧に見ることが、その子らしい成長と安心につながる第一歩なのかもしれません。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-026-07230-6)(画像:たーとるうぃず)
「問題行動」そう見る行動には、それをする理由があります。
「変だから」と短絡的にそれを止めさせようとする前に、その理由を考え、想像してみてください。
困難ななかで生きていくための対処法だったら。
それを奪われたらどうなりますか。
(チャーリー)





























