
この記事が含む Q&A
- ASDの人たちも一般の人と同じように性的興味を持つことがありますか?
- はい、約8割が一般の人と同じ程度の性的関心を持つことが報告されています。
- ASDの人たちが性的関係を築く上で特に困難に感じることは何ですか?
- 感覚過敏や非言語的サインの読み取りづらさ、社会的ルールの理解不足が主な課題です。
自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人たちの性的健康や行動については、まだ十分に解明されていない部分が多く残されています。
イランのテヘラン大学医科学部精神医学科の研究チームは、これまで世界中で発表されてきた膨大な研究を集め、改めてまとめ直すことで、ASDと性に関する現状を整理しました。
ASDの人たちは、社会的なやりとりやコミュニケーションに困難を抱えることが多く、それが恋愛や性的な関係にも影響を与えます。
ただし、これは能力の不足を意味するものではありません。
むしろ、本人と環境との間にうまくかみ合わない部分があるために生じている、という理解が広がっています。
ASDの人たちにも、一般と同じような性的興味や思考があることが分かってきています。
それでも実際に他者と親密な関係を築いたり維持したりするには、感覚過敏や、言葉に頼らないサインを読み取る難しさ、社会的ルールを直感的に理解しにくいことなど、さまざまな壁があります。
また、ASDの人たちには、異性愛以外の性的指向や、誰にも性的に惹かれない無性愛の傾向が一般よりも高いことも報告されています。
とくにASD女性では、この傾向がより顕著であることがわかっています。
一部では、性的関心にとどまらず、特定の物体への強い愛着やこだわりが見られるケースも報告されています。
こうした行動や興味の背景には、育った教育環境や社会経験、自分自身をどのように理解しているかなどが深く関係しており、十分な性教育を受ける機会が不足していることも大きな要因となっています。
さらに、ASDの人たちはポルノにアクセスする傾向が強く、それが法律上の問題に発展するリスクも指摘されています。
こうした背景を踏まえ、ASDの特性に合わせた性教育や支援が必要だと考えられています。
また、これまで欧米圏中心だった研究に対して、他の文化や社会にも目を向ける必要性が強調されています。
今回の調査では、PRISMAという国際的なガイドラインに基づいて、1991年から2024年1月までに発表された論文2,311件を収集し、重複や基準外のものを除いたうえで、最終的に56本を対象としました。
使用したデータベースはPubMed、Scopus、Web of Science、PsycInfoの4つで、すべて英語で発表され、人間を対象とした研究に限られています。
対象とした論文はいずれも、ASD当事者の性的健康・知識・行動に直接関連するものです。
参加者の年齢は12歳から83歳まで幅広く、地域は北米、ヨーロッパ、オセアニアが中心でしたが、中南米やアジアに関する研究も一部含まれていました。
対象となったASD当事者の多くは、認知機能が平均以上で、知的障害を併せ持つグループを対象とした研究は15%ほどにとどまっています。
また、ASDの研究はこれまで男性中心で行われてきましたが、近年は女性やノンバイナリーの当事者を含めた研究が増えてきた点も注目されます。
研究チームは、それぞれの論文の信頼性や丁寧さを慎重にチェックしました。
そして、すべての論文を「とても信頼できる」「まあまあ信頼できる」「あまり信頼できない」の3つに分けました。
その中で、とくに「とても信頼できる」とされた論文は全体の3分の1ほどありました。
この「とても信頼できる」論文には、参加者を無作為に分けて比較した実験や、全国規模で大勢を対象にした大きな調査など、とくにしっかりした方法で行われた研究が含まれていました。
調査の結果、ASD当事者の約8割が性的な関心について「一般の人と同じくらいある」と回答していました。
一方で、恋愛関係の築き方や維持に困難を感じている人は約6割にのぼりました。
感覚過敏や非言語的サインの読み取りにくさが、こうした困難を生んでいることが指摘されています。
性教育についても課題が浮かび上がりました。性知識を測定した15本の研究のうち12本で、ASD当事者のスコアが定型発達者より低い結果となっています。学校での包括的な性教育が不足しているため、インターネットやポルノサイトなど、信頼性の低い情報源に頼らざるを得ない状況が多く報告されました。
性的指向に関するデータも興味深い結果が出ています。
対象となった研究のおよそ4分の1で、ASD当事者の非ヘテロセクシュアル率が一般人口の2〜4倍に達することが示されました。
また、無性愛を自認する割合も高く、最大で全体の14%にのぼっています。
こうした特徴から、性的少数者支援の視点でもASDコミュニティは重要な存在であることが浮き彫りになりました。
リスク面に目を向けると、性的被害の遭遇率や周囲から問題視される性的行動が、一般より高い傾向がみられました。
とくに女性、ノンバイナリー、知的障害を伴うASD当事者が被害に遭いやすいというデータが複数の研究で示されています。
加害側に回るケースについても、相手の気持ちを理解する力の弱さや誤った情報による学習が背景にあると考えられ、正しい知識を学び、適切な人間関係を築くための支援が重要であると指摘されています。
まとめとして、ASDだから性的な問題を抱えているのではなく、情報不足や支援の不足によって困難が生まれていることが強調されています。
感覚面やコミュニケーション面での特性を理解し、それぞれのニーズに応じた性教育と支援の体制を整えることが、ASD当事者の幸福を高め、リスクを減らすために不可欠だと結論づけられています。
(出典:BMC Psychiatry)(画像:たーとるうぃず)
「ASDだから性的な問題を抱えているのではなく、情報不足や支援の不足によって困難が生まれている」
正しく理解されることを願います。
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(チャーリー)