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「妊娠前」の母親の「肥満」が子の自閉症リスクに影響する可能性

time 2025/08/08

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「妊娠前」の母親の「肥満」が子の自閉症リスクに影響する可能性

この記事が含む Q&A

妊娠前の母親の肥満は子どものASDリスクに影響を与えますか?
研究により、妊娠前に肥満だった母親から生まれた子にASDの特徴が見られる可能性が示されました。
DNAメチル化やアイソフォームの変化は、発達にどのような役割を果たしますか?
これらのエピジェネティックな変化は脳の発達や行動の違いを引き起こす可能性があり、発達障害の理解に役立ちます。
妊娠前から健康的な生活を心掛けることは、発達障害の予防に役立つのでしょうか?
はい、母体の代謝状態やエピジェネティックな変化を整えることが、子どもの発達リスクを減少させる可能性があります。

自閉症スペクトラム症(ASD)は、社会的なやりとりやコミュニケーションのむずかしさ、そして行動や興味のかたよりといった特徴を持つ、発達のあり方のひとつです。
近年の調査では、米国での有病率は子ども36人に1人ほどとされ、男性の診断数は女性の約3倍にのぼります。

ASDは遺伝的な要因も関係しますが、実際に強く影響する変異を持つ人は全体の1割未満であり、それ以外の多くでは、環境的な要因や、エピジェネティック(遺伝子の配列自体は変えずに、その働き方を変える仕組み)な調節が発達に影響すると考えられています。

その環境要因のひとつとして注目されているのが、母親の肥満です。

これまでの疫学的な研究では、妊娠中の母親が肥満であった場合、子どもがASDの診断を受ける割合が高くなる傾向が繰り返し報告されてきました。
しかし、その背景にある具体的な仕組みや、妊娠前と妊娠中のどちらの時期がより重要なのかについては、はっきりとわかっていませんでした。

今回の研究は、米国のハワイ大学マノア校 ジョンA.バーンズ医学部 柳町生殖生物学研究所を中心に、カリフォルニア大学サンディエゴ校やバイオインフォマティクス・コア施設など複数の研究機関が共同で行った研究です。
実験はマウスを対象に行われ、妊娠前の母体の状態と子の発達との関係を調べました。

ここで明らかになったのは、妊娠前の母親の「肥満」が、それだけで子の発達に長く残る影響を及ぼす可能性です。

研究では、母マウスの肥満のタイミングを「妊娠前のみ」と「妊娠中のみ」に分け、その後に生まれた子マウスの行動や脳の分子変化を比較しました。

その結果、妊娠前に肥満だった母マウスから生まれた子では、社会的なかかわりの少なさ、コミュニケーションのパターンの変化、繰り返しの多い行動といった、ASDに似た特徴が多く見られました。

一方、妊娠中だけ肥満だった場合には、こうした特徴はほとんど確認されませんでした。

このことは、ASDのリスクに関して、妊娠中よりも妊娠前の母体環境がより重要な影響を与える場合があることを示しています。
卵子の段階ですでに将来の発達の方向づけが始まっている可能性があるのです。

さらに詳しい解析で、ASDの特徴を示した子マウスの脳では、特定の遺伝子の働き方に違いがあることがわかりました。
その中でも重要なのがHomer1(ホーマーワン)という遺伝子です。
Homer1は、神経細胞どうしのつながり(シナプス)の構造を支え、情報のやりとりを調整する役割を持っています。
この遺伝子には複数のアイソフォーム(同じ遺伝子から作られる、形や働きが少し異なるタンパク質の型)があり、その中の短い型であるHomer1a(ホーマーワンエー)は、神経回路の組み替えや調整にかかわります。

ASDの特徴を示した子マウスでは、このHomer1aの量が大きく増えており、その背景には、この型を作るための「代替プロモーター」と呼ばれるDNA領域が、通常よりも低メチル化されていることが見つかりました。

DNAメチル化とは、DNAの特定の位置にメチル基という小さな化学物質が付くことで、遺伝子のスイッチのオン・オフを調整する仕組みです。
通常はメチル化が多いとスイッチがオフ、少ないとオンになります。
この場合、低メチル化によってスイッチが入りっぱなしになり、Homer1aが過剰に作られていたと考えられます。

重要なのは、この変化がHomer1のすべての型に起きているわけではなく、Homer1aという型だけを作り出すための特別なスイッチにだけ見られたという点です。
つまり、同じ遺伝子でも複数の「作り方」があり、その中のHomer1a用の作り方だけが影響を受けていたのです。
こうした「型ごとに異なる」制御の乱れは、脳の発達バランスを崩し、行動や認知の特徴として現れる可能性があります。

研究チームは、この結果から次のようなことがわかるとしています。

  1. 母親の体の代謝の状態、特に妊娠する前の健康状態は、生まれてくる子どもの脳の発達にとても大きな影響を与える
  2. DNAメチル化(遺伝子のスイッチの入り切りを調整する仕組み)や、アイソフォーム(同じ遺伝子から作られる、働きや形の少し違う型)の作られ方のパターンは、発達のごく初期から脳の状態を知る手がかりになる可能性がある
  3. このような分子レベルの変化を直接ねらって調整する方法が見つかれば、ASDのリスクを減らせる可能性もある

この研究はマウスを使ったもので、人間への直接的な適用には慎重さが必要です。

しかし、「妊娠してから気をつける」だけでなく、「妊娠を考える前から健康状態を整える」ことの重要性を示す結果といえます。

ASDや他の発達特性は単一の原因で決まるものではありませんが、母体の代謝状態とエピジェネティックな変化がその一因となる可能性が、今回の結果でより明確になりました。

(出典:cells DOI:10.3390/cells14151201)(画像:たーとるうぃず)

「妊娠中」だけでなく、「妊娠前」にも、母親は「肥満」に注意が必要かもしれないという研究です。

マウスでの研究であり、人間で確認されているわけでは現在ありません。

肥満の母の子はADHDが1.6倍、自閉症が1.4倍の確率に

(チャーリー)


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