
この記事が含む Q&A
- ADHDと併存症の研究では、母親の年齢が35歳超えや父親の35歳超えが自閉症やことばの遅れのリスクと関連する一方、母親・父親が20歳以下だと不安や双極性障害のリスクが高まる傾向がある?
- 高齢親は自閉症・ことばの遅れのリスクが高まり、若い親は不安・双極性障害のリスクが高まる傾向が見られました。
- スキップ世代(祖父母が主に育てる家庭)では、人格の問題や感情の不安定さ、双極性障害のリスク増加、適応の難しさなどの特徴が通常より高い割合で見られます?
- 祖父母が育てる場合はこれらの特徴が通常より高い割合で見られると報告されています。
- 児童の診療では、子どもの症状だけでなく「親の出産時の年齢」や「誰が主に育てているか」を確認することで、併存症のリスクを早期に予測し適切な支援につなげられる可能性があります?
- 親の年齢や養育形態を把握することで、適切な監視と支援を前倒しできると示唆されています。
注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちは、日々の生活の中で集中が続かなかったり、落ち着きがなかったり、衝動的に行動してしまったりといった特性を持っています。
それだけでも家庭や学校での生活には大きな工夫が必要になりますが、さらに多くの場合、その背後には「併存症」と呼ばれる別の困りごとが一緒に存在します。
たとえば不安や気分の落ち込み、ことばの発達の遅れ、自閉症の特徴などです。
これらが重なることで、子ども本人が感じる生きづらさは大きくなり、親や先生が直面する悩みも複雑になっていきます。
台湾の研究チームは、この「ADHDと併存症」の関係に新しい光をあてました。
研究に参加したのは、台湾のトゥンツ台中メトロハーバー病院、国防医学院附属三軍総医院、国立中興大学、逢甲大学、東海大学、広康大学、広栄大学、さらに複数の小児科や神経内科の専門医たちです。
小児科医、精神科医、統計学者が協力して、大規模で厳密な調査を行いました。
このチームは、台湾の国民健康保険研究データベースという、国民のほとんど全員の医療記録を含む大規模なデータを使いました。
2009年から2013年の5年間に診断された79,163人のADHDの子どもたちと、その子どもたちと年齢や性別をそろえた395,815人の対照群を比べるという、非常に大きな規模の研究です。
これだけの人数を対象にした調査は世界的に見ても珍しく、結果には強い説得力があります。
調査の焦点は「親が何歳で子どもを産んだのか」と「誰が主に子どもを育てているのか」という二つの要素でした。
前者は母親と父親それぞれについて年齢を記録し、20歳以下、21〜25歳、26〜30歳、31〜35歳、そして35歳以上という区分に分けて分析しました。
後者は「スキップ世代」と呼ばれる特別な家庭の形に注目しました。
スキップ世代とは、祖父母が主に子どもを育てている家庭を指します。
台湾の制度では、祖父母が孫の保険料を払い、かつ親と子どもが同じ住所に登録されていない場合、それをスキップ世代と見なします。
親が出稼ぎなどで家にいないとき、祖父母が日常的な養育を担うのです。
結果は驚くべきものでした。
母親が35歳を超えて出産した場合、その子どもは自閉症やことばの遅れを持つ可能性が高くなることがわかりました。
自閉症は、社会的なやりとりや感覚の受け取り方に独特の特徴が見られる発達のあり方です。
ことばの遅れは、周囲とのやり取りを難しくし、学校生活や人間関係の中で困難を引き起こすことがあります。
父親が35歳を超えて出産に関わった場合にも、同じように自閉症やことばの遅れが増える傾向が見られました。
一方で、親が若すぎる場合にもリスクが見られました。
母親が20歳以下で出産した場合、その子どもは双極性障害を持つ可能性が高くなりました。
双極性障害は、気分の波が極端に大きく、活動的で止まらなくなる時期と、気分が沈んで何もできなくなる時期を繰り返す状態です。
父親が20歳以下で子どもを持った場合も、双極性障害や不安のリスクが高くなることが示されました。
不安は日常生活の多くの場面で強い心配や恐怖を感じ、落ち着いて過ごすことを難しくします。
つまり、親の年齢が高すぎても低すぎても、それぞれ異なる形で子どもの心や発達に影響を及ぼしていたのです。
高齢の親の場合は自閉症やことばの遅れ、若い親の場合は不安や双極性障害といった具合に、特徴の違うリスクが見えてきました。
さらに、祖父母が主に育てるスキップ世代の子どもたちには、別の特徴がありました。
人格の問題や、気分の波が激しい双極性障害、状況にうまく適応できない反応、子ども時代の感情の不安定さといった問題が、通常よりも高い割合で見られたのです。
祖父母は経験豊かな存在ですが、世代の違いから育て方の方針が親世代と大きく異なることもあります。
また、高齢であるため体力的な負担も大きく、精神的なストレスも増えがちです。
その結果、子どもたちが安心して育つために必要なサポートが不足することがあるのではないか、と研究者たちは考えています。
この研究は、ADHDの子どもを診るときに、単に症状を見るだけでは不十分であることを示しています。
医師やカウンセラーは、親の出産時の年齢や、誰が子どもを主に育てているのかという点を確認することで、どんな併存症が出やすいのかを早い段階で予測できる可能性があります。
たとえば、35歳以上の母親から生まれたADHDの子どもなら、ことばや社会性の発達を早めにチェックする。
不安や双極性障害のリスクがある若い親の子どもなら、心の安定や気分の観察を重点的に行う。
祖父母が主に育てている場合なら、感情の安定や行動のコントロールを丁寧に見守る。
そうした工夫によって、問題が大きくなる前に適切な支援につなげられるのです。
もちろん、この研究には限界もあります。
使われたのは医療の保険請求のデータであり、すべての診断が必ずしも完全に正確とは限りません。
家族の経済状況や教育レベルといった背景要因までは調整できていません。
さらに、この結果は「相関関係」を示すものであって、「原因」を証明するものではありません。
それでも、約80,000人のADHDの子どもを対象にした規模の大きさと、祖父母による養育という新しい観点から得られた知見は、臨床現場や家庭での支援に大きな示唆を与えてくれます。
研究チームは最後にこう述べています。
ADHDの診断や支援を考える際には、子どもの症状だけを見るのではなく、その背景にある家族のかたちを理解することが大切だ、と。
親の年齢や養育のかたちは、避けられない事実です。
しかし、それを知っておくことでリスクを早く察知し、必要な支援を先回りして準備することができます。
それは子どもにとっても、親や祖父母にとっても、安心につながる道となるでしょう。
(出典:children DOI:10.3390/children12091123)(画像:たーとるうぃず)
- 「親の年齢が高すぎても低すぎても、それぞれ異なる形で子どもの心や発達に影響を及ぼしていた」
高齢の親の場合は自閉症やことばの遅れ、若い親の場合は不安や双極性障害 - 「祖父母が主に育てるスキップ世代の子どもたちには、別の特徴」
人格の問題や、気分の波が激しい双極性障害、状況にうまく適応できない反応、子ども時代の感情の不安定さ
国は違えど、ADHDの子ども約8万人の大規模調査がそう伝えています。
(チャーリー)