この記事が含む Q&A
- レジリエンスとは何で、環境がなぜ関係するのですか?
- レジリエンスは困難を乗り越え自分らしく生きる力で、環境や社会とのつながりが大きく影響します。
- どんな要因がレジリエンスを高めるとされていますか?
- 家族の支えや周囲の理解、制度の利用のしやすさ、学校や職場の参加しやすさ、安心して楽しめる余暇の場、睡眠とエネルギーが大きく関係します。
- 今後の取り組みとして何を目指していますか?
- ICFを用いたレジリエンス評価のコア・セットを作り、学校や医療、福祉が同じ地図で支援を設計できるようにすることを目指します。
神経発達の特性があるとき、その人がどんな未来を歩めるかは、「生まれつきの力」だけでは決まりません。
どんな仲間に恵まれるか。
どんな場で生活できるか。
まわりの人がどう見て、どう関わるか。
それらの積み重ねが、
人生の進み方に大きく影響するのです。
今回、ラ・トローブ大学(オーストラリア)とカロリンスカ研究所(スウェーデン)を中心とした研究チームは、
神経多様性のある人の「レジリエンス」に注目しました。
レジリエンスとは、つらいことがあっても折れず、自分らしく生きていける力のことです。
研究では、医療・教育・福祉にかかわる専門家198人にアンケートを実施しました。
対象となったのは、自閉症、ADHD、知的障害、発達性協調運動症(DCD)などの支援に携わる人たちです。
「レジリエンスを助ける要因」「リスクを高める要因」について、自由に意見を書いてもらいました。
そして回答ひとつひとつを、世界保健機関(WHO)のICFという国際基準を使って整理しました。
ICFは、からだや行動だけでなく、生活のしやすさ、社会参加、環境の質まで含めてその人を理解しようとする枠組みです。

すると意外なことがわかりました。
専門家たちの多くが、「個人の能力」よりも「環境」や「社会とのつながり」をレジリエンスに深く関係する要因として挙げていたのです。
- 家族の支え。
- 友人や周囲の理解。
- 制度やサービスの利用しやすさ。
- 参加しやすい学校や職場。
- 安心して楽しめる余暇の場所。
それらが整っているとき、人は伸びやすい。
逆に、否定的なまなざし、過度な要求、たらい回しになる制度などは、それだけで力を奪います。
「生まれつきの特性」そのものが問題なのではなく、それを包む環境次第で、同じ特性が強みにも困難にもなる。
研究チームは、そのように示しました。
さらに、睡眠とエネルギーもとても大切な要因として数多く挙げられました。
よく眠れ、疲れが溜まらない生活は、感情を整えたり、集中したりする力の基盤になるからです。
もちろん、個人の力がレジリエンスの一部であることも確かです。
- 気持ちを切り替える力(感情調整)
- 新しい考えを試してみる姿勢
- 計画を立てる力
これらが助けになる場面も多くあります。
ただしこれらも、環境が整ってこそうまく働くのです。

研究チームは、こう伝えています。
レジリエンスは、「その人の中だけ」にあるわけではない。
まわりの関わり方が、人を強くも弱くもする。
専門家たちの視点から見えてきたのは、
そんな当たり前でいて、とても大切な真実でした。
この研究の先には、ICFを使ってレジリエンスを評価する「コア・セット」をつくる計画もあります。
学校や医療、福祉が同じ地図を使うことで、その人に合った支援をもっと柔軟に設計できるようになります。

研究チームは言います。
レジリエンスは「自然に育つもの」ではありません。
育てることができる力です。
- 家族がいる。
- 理解ある仲間がいる。
- 計画を立てて未来を描ける。
- 休める場所がある。
- 参加してみたい場所がある。
それらが整うとき、神経多様性のある人たちは、自分のリズムで前に進む力を発揮できます。
だから、変えるべきなのは本人ではなく「環境」なのです。
社会が少し形を変えるだけで、誰かのレジリエンスは静かに、そして大きく育っていきます。
神経多様性のある人が生きやすい世界は、みんなにとっても、生きやすい世界です。
この研究は、その方向へ一歩を踏み出すための地図を、わたしたちの手に渡してくれています。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-25079-0)(画像:たーとるうぃず)
「環境」の影響は大きいと思います。それはそうでしょう。
しかし、「環境」は自分ではどうにもならないことが多いです。
良い方向へ変わらなければならないし、そうなってほしいですが、その人にとって「完璧な環境」になることはありません。
なので、どうにもならないことに、自分の人生の責任を負わせる思考にはなってほしくありません。
(チャーリー)




























